速い!乗り換えない!効率的!近未来の鉄道の在り方
自動運転による高速な分割・併合を活用した近未来型鉄道運行スキームの提案

研究の概要

背景と目的

鉄道における技術進歩により、今後、列車同士の連結にかかる時間・コストの大幅な削減が期待される。その結果、編成の車両数を柔軟に変更すること、つまり、需要に応じたよりきめ細やかな運行が可能となると考えられる。
こうした柔軟な車両数の変更により解決できる可能性がある課題として、都心と郊外を結ぶ長距離路線における郊外部でのサービスレベルの低下が挙げられる。このような路線では、速達性確保のために急行列車が有用であるが、郊外では需要が薄く運行コストとのトレードオフが働くため、運行頻度を下げる、あるいは、実質的に急行が各駅停車となる区間を導入するなどの運行が行われている。

本研究では、停車中の列車に対する高速な車両連結(解結)技術が確立され、より柔軟に車両編成数を変えることができる状況を前提として、新たな高頻度鉄道運行スキームを提案する。具体的には、郊外方向では急行列車が駅に停車する度に新たな各駅停車列車を生成(切り離し)する、そして、その反対に、都心方向では多数の各駅停車列車が急行停車駅で1本の急行列車に連結される運行スキームを考える(図1)。この提案スキームを表現する連続体近似に基づく数理モデル[1]を構築し、従来型運行スキームとの比較を通して、提案スキームの特徴や優位性を明らかにする。

図1:提案スキームのイメージ

モデルの定式化

状況設定

下図のような理想化された路線を想定する。

図2:路線の設定
  • 朝夕のCBDまでの通勤ラッシュを想定
  • 乗客は路線全体に一様な需要密度𝜆で存在

社会的最適運行パターン設計問題

以上のような設定のもと、社会的コストを最小化する運行パターン(急行停車駅間隔s1、車頭時隔H)を求める。

社会的コストは、乗客の旅行時間とエージェンシー(運行主体)のコストとの和として定式化され、それぞれ次の要素からなる。

最適運行状態の分析

最適運行状態の性質

最適運行状態が、下表のように解析的に求められた。

ここから、提案運行スキームの最適急行停車駅間隔、最適車頭時隔は、構造的には後述する従来型スキームとほぼ同じであるといえる。例えば、最適急行停車駅間隔は需要とは独立に決まる一方、最適車頭時隔は需要によって決まるという決定変数間の質的な違いは、提案運行スキームと従来型運行スキームとで共通である。

一方、提案スキーム特有のパラメータに着目すると、列車同士の併合にかかる時間TIrが大きい時、その平方根に比例するように提案運行スキームの最適急行停車駅間隔が増加し、所要時間も増加することがわかる。

また、提案運行スキームは従来型運行スキームと比較すると、

  • 最適車頭時隔が、約71%(高頻度化
  • 乗客の待ち時間が、約36%(乗客の待ち時間削減
  • 運行費が、約36%(削減

となっている。

路線の途中間での旅行パターン

ここでは、直通サービスが必ずしも提供されない路線の途中駅同士を起終点とする旅行について考える。図3は、最適運行時における路線の途中間の平均旅行時間を示したものである。ここから、

  • 旅行距離が短いうちは、従来型運行スキームで各駅停車を乗り通す旅行時間が最も小さくなっている
  • 移動駅数が8駅を超えるあたりから提案運行スキームの方が、旅行時間が短くなっている
  • 提案運行スキームは、乗換の必要なく急行サービスを提供できるという特性から、全体として大幅な旅行時間増加を引き起こさない

ことが分かる。

図3:路線の途中間の旅行時間

着席効用

提案/従来型運行スキームの双方について、提供座席数と、実際に着席できている乗客の人キロを定式化した。図4は、CBD 駅における列車の頻度・車両数が等しいとした時の、従来型に対する提案運行スキームの着席人キロの比率と提供座席数比率を需要ごとに数値的にみたものである。
この図から

  • 提案運行スキームは、提供座席数は少ない
  • 需要の少ないうちは、提案運行スキームは、従来型運行スキームより着席人キロを増やす。これは、TXの需要の1日平均について見ても成立している
  • 需要が増えていくにつれて、従来型スキームよりも着席人キロが小さくなっていくが、その程度は提供座席数の減少より小さい

ことが分かる。

以上から、提案運行スキームは乗客がより効率的に座席を使用するようになるため、着席人キロの減少の程度は大きくないといえる。

図4:需要別の従来に対する提案スキームの着席人キロ比

拡張

より現実的な状況を扱うために、単一CBD都市の人口分布モデル[2]を基に、都心に需要が集中する(郊外に向かって需要が指数的に減少する)需要モデルに拡張した。このモデルを分析した結果、都心に需要が集中すると、最適急行停車駅間隔・最適車頭時隔の双方が減少することが分かった。最適急行停車駅間隔が減少することは、都心に需要が集中すると、急行速度向上へのニーズが相対的に減ることに起因すると考えられる。また、最適車頭時隔が短くなることについては、都心寄りに集中的に車両を分割する運用が行われるため、車両の台キロが小さくなり、エージェンシーコストが削減されることに起因していると考えられる。

これらの結果をつくばエクスプレスに適用した結果が下表である。

ここで、都心に需要が集中すると、最適車頭時隔が短い分、線路容量制約を満たさなくなることが考えられる。

そのため、提案スキーム導入の際は、線路容量制約が緩和されるよう、より高速な分割・併合を行える技術を開発する、急行・各駅停車の待合せができる駅を増設する等といった対策が求められるといえる。また、同様の理由から、提案運行スキームは、最適車頭時隔が短くなりすぎない、需要が大きすぎない時間帯・路線でより有効になると考えられる。

まとめ

本研究は、鉄道の完全自動運転が実現し、列車同士の高速な分割・併合が可能となる状況を想定し、急行の速達サービスと各駅停車のフィーダーサービスを1本の列車に内包する新たな鉄道運行スキームを提案した。具体的にはまず、提案運行スキーム下における乗客・エージェンシーのコストをモデル化し、社会的コストを最小化する運行パターンを解析的に導出した。次に、いくつかの観点から従来型運行スキームとの比較を行った。最後に、より現実的な需要分布を仮定したモデル拡張を行い、その影響を把握するとともに、現実の路線におけるケーススタディを行った。以上の分析の結果、次のことが分かった。

  • 提案運行スキームは、通常トレード・オフが働くエージェンシーコスト ・旅行時間双方の削減が可能
  • 提案運行スキームは、最適車頭時隔が小さくなりすぎない、需要が大きすぎない状況や、都心に需要が集中しすぎていない状況で特に有利
  • 多起点多終点旅行パターン・着席効用について、大きな悪化は見られない

後記

  • この運行方式は、私が初めて筑波大学に訪れた際に、つくばエクスプレスを見て思い付いたものでした。当時は、これが卒業研究になるとは思いもよりませんでしたが、形にできてよかったです。
  • こうして私のアイデアを研究にできたのも、指導教員の和田先生の熱血なご指導のおかげです。公共交通の理論を一緒に学びながら進めていくのはなかなか大変でしたが、非常に楽しかったです。この場を借りて改めてお礼申し上げます。
  • 物心ついてからずっと鉄道ファンをしていますが、研究してから鉄道を見るとまた違った見方ができて面白いということに気づけました。

レファレンス

[1] Daganzo, C.F. and Ouyang, Y.: Public Transportation Systems: Principle of System Design, Operations Planning and Real-Time Control, World Scientific, 2019.
[2] 天野 光三, 青山 吉隆:放射状都市鉄道路線の勢力圏人口に関する研究, 土木学会論文集, Vol.123, pp.19–26, 1965.

この記事は、下記論文を要約したものです

岸川 知樹:自動運転による高速な分割・併合を活用した近未来型鉄道運行スキームの提案, 2021年度筑波大学理工学群社会工学類卒業論文, 2022.