研究の概要
背景と課題
- 過疎地域でのハード整備には限界があるため、地域資源である自然を活用する意義は大きい。
- 西天北地域は北海道の日本海側北部に位置する地域である。この地域は過疎化が特に深刻であり、2020年時点の人口密度は12.7人/㎢で、2015年と比較して12.1%減少している。(図1)
- 西天北地域は自然が豊富。特に美しい夕日が見えるため、この地域資源の価値を見直し活用していきたい。
- 西天北地域は日本海側地域最北部に位置しており、高緯度に起因する太陽高度の影響を反映できる
- 西天北地域の都市は、広幅員直線道路が伸び高層建物や工作物も少なく視線が通りやすい
- 消防組織や風力発電などの広域連携が西天北地域で展開されており、地域活性政策に関しても連携して推進できる環境が整っている
以上の点から実証分析ではこの西天北地域を対象地としている。
- 夕日・トワイライト景観は日常生活の中で堪能できるが、場所や都市構造に依存してそれらの見え方は異なる。
例: 「高緯度地域ほど太陽高度は低くなる」「格子状都市では平行な道路網から構成され、見通せる方向に規則がある」
そこで本研究の目的は、
「緯度や季節、時間帯という地理条件」「道路向きなどの都市条件」から、夕日・トワイライト景観に関する地域性を理論化し、その知見を西天北地域へ応用することとする。
分析
夕日・トワイライト景観についての地域性を明らかにするために以下の分析を行った。
①理論分析 夕日・トワイライトの現象を理論化し、説明
②実証分析 道路に沿って観賞できる夕日・トワイライト景観の観測時期を算出
理論分析
分析方法
観測場所や観測時期に依存して太陽の方位角や太陽高度が異なるため、夕日・トワイライト景観は緯度や季節といった天文学的条件の影響を受ける。そこで太陽と地球との位置関係を単純化したモデルを構築し、緯度による観測時間や観測時刻、方位の違いから夕日・トワイライト景観の原理を解釈する。
- 太陽高度の定義
地平線からの角度で定義される太陽高度を用いて、トワイライトは3段階で定められている[1]
そこでトワイライト終了時の太陽高度を-15度と定義し、トワイライトは0度〜-15度で発生すると定義
また夕日・朝日に関しても地平線に対してトワイライトと対称となる現象として定義 - 自転・公転の単純化
- 地球を球体、公転軌道を円、太陽光は公転面と平行で地球に到達すると仮定
- 地球上の観測点の位置を緯度、経度で表現
- 地球が公転軸に対して23.4度傾き、自転しながら公転面上で太陽の周りを地球が動くと想定[2][3][4]
- 時空間分析
- 観測時間の長さや方位角の広さを、緯度と季節ごとに求める
- 太陽高度は図のように観測点を表す法線ベクトルと太陽の方向を表す方向ベクトルの内積から求まる(図3)
- 内積から求められる式1には時刻、緯度、季節を表す変数が含まれるため、式1を用いてトワイライト時間や方位が求まる
分析結果
1.時空間分析
(1)トワイライト時間の緯度変化
- 高緯度であるほどトワイライト時間は長くなる
- 季節では夏至の頃、トワイライト時間が最も長くなる
(2)トワイライト方位の緯度変化
- 58.2度までは高緯度であるほどトワイライト方位角は広くなる
- 季節では夏至の頃、トワイライト方位角が最も広い
- 理論モデルの検証
夕日・トワイライトの理論モデルの妥当性を確認するために天文学に基づく精緻計算の値との比較を行った。
- 春分と夏至でのトワイライトでの時間長に関して、3地点(天塩、東京、那覇)で計算
- 春分と夏至という二時点だけではあるが、日本の緯度の範囲内では、精緻な計算と本モデルとの差は大きくない
- 単純化したモデルにおいても夕日・トワイライトの現象を説明できる
実証分析
日本海側地域の都市からは道路に沿って夕日・トワイライトが観賞できる。そこで西天北地域の格子状の都市構造に着目して道路に沿って観賞できる夕日・トワイライト景観の観測時期を算出する。[5][6]
分析方法
- 格子状道路では、同時間帯に平行する道路すべての延長方向で視線が通り夕日・トワイライトが観測できるとする
- 太陽方位角と同様に、道路軸の向きを真南から時計回りの角度θ(0≤θ≤π)で定義。格子状道路はずれる二つの角度で定まる
- 代表的な計画都市である京都の格子状道路軸は東西南北に揃っておりθ=0,π/2である
- 西天北地域では海岸線を基軸に道路が格子状に敷かれるため、市町村によって道路軸の向きθの値が異なる
- 本研究では、夕日・トワイライトの光のグラデーションの範囲は定義していない。しかし、太陽が位置する方位では光がより強くなることは明らかであるため、夕日・トワイライトを太陽の位置を示す方位角で考える
分析結果
- 図8で示すように、夕日・トワイライトとなる太陽高度の時に太陽の方位と道路の向きが合致する時期を求めた
- ただし観測時期は精緻な計算[1] より求めた
- 西天北地域の8市町村は3つに分類できる
- 夏至または冬至を含む一期間のみで長期間に同じ平行な道路から見える
小平町(⑥)、増毛町(⑧)の2町。 - 一年に2回、同じ平行な道路から観察できる都市
天塩町(①)、遠別町(②)、苫前町(⑤)、初山別村(③)、留萌市(⑦)の5市町村。 - 格子状のすべての道路から観測できる
羽幌町(④)。こちらも年に2回観測できるが、季節により見える道路が異なる。
オロロンルートで結ばれている西天北地域には太陽光を町全体に通す格子状道路があり、道路軸の方位は様々であるため夕日・トワイライト景観の見え方も様々である。道路軸が多様で都市構造として統一感はないが、逆にどの時期に訪れてもいずれかの市町村では町全体で夕日・トワイライト景観を観賞できる。
京都市と西天北地域を比較すると、南に位置し格子状道路軸が東西南北に揃っている京都市は西天北地域より観測期間が短くなる。
成果と提案
夕日・トワイライト景観は、高緯度地域ならではの非日常的な地域資源である!
- 天文学的視点を組んだ理論モデルから、高緯度地域ではトワイライト時間は長く方位角は広がることを証明した
- 高緯度で様々な角度の格子状道路を有する北海道西天北地域は年間を通して夕日・トワイライト景観を堪能できる希有な地域であることを示した
以上の結果から、夕日・トワイライトの優位性を踏まえ西天北地域一体での地域政策が有効である。
本研究の成果は、西天北地域にある北海道天塩町を中心に報告している。また研究成果からトワイライトを活かした以下の地域政策を提案している。
共同研究先の北海道天塩町からのコメント
旧来より、地域の人々にとって「ここの夕景は綺麗」ということが言われてきましたが、今回の研究を通じて他地域と定量的に比較分析することによってトワイライト時間の長さや可視方位角の広さ、市街地の固有の道路形状、気象特性等から優位性があるというエビデンスを得ることができました。これらのことを、まずは広報・教育的なアプローチで地域の人に知ってもらい、近隣地域を含めた地域の共有財産として広域的な連携での利活用や施策展開について考えていきたいと思います。(天塩町総務課企画広報係 菅原 英人)
レファレンス
[1] 長沢 工 (1999): 日の出・日の入りの計算.地人書館.
[2] 佐藤 明達 (2007): 秋の日はつるべ落とし,天文教育,19(1), p.41.
[3] 佐藤明達 (2008): 秋の日はつるべ落とし(III),天文教育,20(1), pp.42-44.
[4] 渡部 潤一 (2007): 秋の日が,“つるべ落とし”のわけは?,Newton,27(11), p.128.
[5] ヒメネス・ベルデホ,ホアン・ラモン (1999): グリッド都市-スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生-布野 修司訳.京都大学学術大会.
[6] 木曾 悠峻,久保 勝裕,安達 友広 (2020): 殖民地区画との関係からみた明治期の北海道市街地の設計手法.都市計画論文集,55(3), pp. 1280-1287.
この記事は、下記の論文を要約したものです。
幸坂 麻琴 (2021) 夕日・トワイライト景観を力にする地域活性化-地理条件に着目した理論と応用-、 2021年度 筑波大学 大学院 博士課程 理工情報生命学術院システム 情報工学研究群 修士論文。
後記
- 元々は夜景の光量と都市の関係を分析する研究をしていましたが,写真家の間で,トワイライト時に特に綺麗に夜景が撮影できると有名だったことからトワイライトに着目しました.
- 修士2年では色々なところに夕日を見に行きました。綺麗な夕日が見えた時が、この研究を頑張って良かった!と思える瞬間でした。
- 12月〜1月に3F棟からは夕日と富士山を一緒に見ることができるのでぜひ見てほしいです!