2024年1月9日(火)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「インタラクションと感覚」を行いました(MDAセミナーとしても併催)。産業技術総合研究所の笠原和美博士と筑波大学人間系の松田壮一郎助教をお招きして講演をいただき、参加者とディスカッションを行いました。当日の両氏の講演概要を以下のようにまとめましたので、是非ご一読ください。
「人口知能と人間心理ー行動デザイナーの立場から」松田壮一郎助教(筑波大学人間系)
研究活動として、行動デザインの理論と実践に焦点を当て障害科学分野での研究を行っている。その際に、心理学のみならず、人工知能技術との融合を通じで、行動デザインの多面的な側面を探求し、その複雑さと潜在的な影響を研究している。
具体的には、AIが行動パターンを識別し、これらのパターンを分析する方法、また、AIがどのようにして大量のデータから有意義な情報を抽出することで、行動科学において様々なデータ取得と知見を得ることができる。特に発達障害のある子どもたちの行動分析や介入プログラムの開発において、非常に重要な役割を果たしている。発達障害のある子どもたちは、しばしば標準的な行動パターンから逸脱するため、一般的な行動追跡手法やデータ収集ツールでは適切な情報を捉えるのが困難である。また、コンテキストに大きく依存するため、様々な環境下での行動を正確に記録し分析する必要がる。AIによるデータ分析は、これらの子どもたちの行動の特徴やニーズをより正確に把握するのに役立ち、より効果的なサポートを提供するための洞察を提供することが可能である。
行動デザインとAI技術の統合を通じて、心理学と行動科学の分野で新しい知見を得るための学際的な枠組みを提案することでより効果的な行動変容戦略の開発に貢献することが期待できる。
「脳の個人差解明ーテーラーメイドな技術を目指して」笠原和美博士(産業技術総合研究所 人間情報インタラクション研究部門)
研究活動の中で、脳波とMRIを使用した実験、ブレインマシンインターフェース、それを活用したリハビリテーションと教育支援などに関する紹介があった。
まず、脳波やMRIを利用して脳活動を測定するために、脳波とMRIを使用した実験を行っている。具体的には、これらの技術がどのようにして脳の様々な領域の活動を捉え、それが行動や認知機能とどのように関連しているかを分析している。その中で、データ解析技術を用いて、脳の特定の領域が特定の認知機能や行動とどのように関連しているかを明らかにし、これらの関連性が個人の行動や健康状態にどのように影響するかを理解するための方法論を展開している。その方法から得られたデータに基づき、脳の病理学的状態や機能的変化を評価するのに貢献できると期待している。
次に、ブレインマシンインターフェース(BMI)について紹介した。BMIは、脳波やその他の神経生理学的信号を解釈し、これを外部デバイスの操作や通信に使用する技術であり、様々実験から操作能力の個人差があることを明らかにした。例えば、集中力が高く認知タスクを効率的に処理できる人は、BMIを通じてデバイスをより正確かつ迅速に操作できる傾向がある。異なる個人の脳波パターンがブレインマシンインターフェースの効果的な操作にどのように影響するか、そしてその個人差がどのように測定されるかを明らかにすることでBMI技術のカスタマイズや改善に役立つ重要な情報の提供が可能となる。
最後に、脳卒中患者のリハビリテーションと教育支援への適用についても研究を行っている。脳科学の知見を活用しながらどのようなリハビリテーション技術が有効であり、それらが患者の回復にどのように役立つか、また教育支援における脳科学の応用方法についても検討している。