異分野融合/連携ゼミナール⑥「固体地球観測・モデリングと持続可能な社会」開催レポート

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2024-02-07

異分野融合/連携ゼミナールの第6回を、SARやGNSSによる宇宙測地技術を用いて地震や火山活動等に伴う地殻変動の研究を推進している小林知勝氏(国土地理院)と、複雑な震源過程の安定解析の技術開発・研究に取り組んでいる八木勇治教授(生命環境系)をお招きして、飛田幹男教授(システム情報系)のオーガナイズで、1/19(金)に行いました。当日の両氏の講演概要を以下のようにまとめましたので、是非ご一読ください。

「固体地球観測・モデリングと持続可能な社会」小林知勝博士(国土地理院)

国土地理院では、地図を作っているだけでなく、地図の経緯度・標高の基準となる日本の正確な位置を測量するという国家事業が150年以上にわたり行われてきた。三角測量、測棹など、様々な方法で測量してきた。単に地図を作るだけではなく、地震や火山により大地は動くため、地殻活動・地殻変動も観測する必要があり、繰り返し測量を行っている。測量することで、動いたことがわかるともいえる。地上での測量は大変であり、日本全土を測量しようとしたとき、1800年代後半に始めて、20世紀に入って30年かかったという記録もある。

現在は、GNSSやSARを使った宇宙からの観測が中心となっている。国内に1300程度の電子基準点を設置し、1cmオーダーで位置を決める時代である。アクセスしづらい場所を観測可能とすること、基準点不要ということなどのメリットもある。東日本大震災では広範な範囲で移動が観測されており、水平方向で最大5.4m動いたこと、上下方向は1.1m動いたことが把握できた。本震とは別の場所の干渉SARの観測結果から、断層の誘発地震も把握でき、また、現地踏査では気づかないような断層の動きも観測できた。宇宙利用は、民間による開発も含めて発展しており、毎日観測できるような状況に進んでおり、さらにデータの蓄積が進んでいくだろう。

 能登地震においては、最大4m隆起したという干渉SARの結果があり、本当にそんなに隆起したのかと驚いた。実際に、光学衛星画像を見てみると、200mほど陸化している様子も見てとれた。こうした隆起や沈降、海岸線の変化は、復興にあたって、どのように岸壁・防潮堤を建設するのかということにも関わってくる。東日本大震災では、地震直後は沈降したが、その後、徐々に隆起しているという観測があり、実際の街のインフラ構築で議論になった。持続可能な都市形成にあたって、固体地球観測が基盤となる役割を果たしているといえる。東日本大震災の後に、基準点の移動を反映せずに工事を行い、建設現場でずれが生じてしまい、問題が生じたことがあった。このように、現代の都市・地域において、数cm単位の精度での測位が求められ、高精度測位をベースに成り立った社会になっている。  地震については、30年で0.1%~3%という地震発生リスクを、どう社会で受け止めたらいいのかという問題がある。専門家にとっては正確性・信頼性・妥当性を求めており、非専門家は実用性を求める。しかしながら、リスクという不確実性が高い対象を考えたときに、どう意思疎通を図ったらいいのか。トランス・サイエンスでは、「科学によって問うことができるが、科学によって答えることができない問題群からなる領域群」があるといわれている。科学によって、持続可能な社会を実現することにむけて、社会と科学の関係性を考えなくていかなくてはならない。

「地震現象の概説と地震学の社会貢献について」八木勇治教授(筑波大学生命環境系)

 まず、地震現象とは何かというと、地球表面が複数のプレートによって構成されており、これらのプレートの動きが地震を引き起こす主要な要因であるといわれている。特に、断層の動きとそれに伴うエネルギーの解放が地震波を生じさせ、これがさらに他の断層の活動を促すことにより、地震が発生する。こうした地震現象を単なる自然災害としてではなく、地球科学の観点から理解し、地震活動の背後にある科学的原理を解明することで、地震の予測や社会への影響を最小限に抑えるための方策を考えることができるのではないか。

地震予知に関しては、地震発生の周期性や予測の難しさが前提としてある。地震の発生確率はかなり小さく、地震発生タイミングを予測することには限界がある。ただ、2011年の東日本大震災については、数値実験で予測された現象が実際に観測された地震活動と一致していた。特に、地震前の異常な地殻変動や前震活動、P値の低下が、大地震の前触れであった可能性を示唆していた。こうした地震もあるが、すべてがこうした地震ではない。

 科学について考えたい。科学にはもちろん限界はあるが、科学的なアプローチが未来の現象を把握する上での最善の方法だと捉えている。しかしながら、科学的なデータや予測が必ずしも社会的な危機意識や対策に直結するわけではない。特に、地震分野においては、首都直下地震などの予測における定義は曖昧さを含んでおり、社会における誤解や過剰な不安を招いている可能性もある。リスクインフォメーションディシジョン(リスク情報の意思決定支援)においては、科学的なリスク評価と社会の認知バイアスの間のギャップにどう対処するかを考えなくてはならない。科学的なリスク評価を社会に伝える際には、情報の正確な伝達と受け手の理解を深めるための努力が必要となる。

また、科学は事象を研究する認知活動であり、科学者が真実に近づこうとする過程であるといえる。同時に、科学的知見は常に更新されており、新しいデータに基づいて理論を修正する柔軟性が求められる。一方で、科学的なデータの解釈とその社会への応用に関する課題が存在し、科学者が新しいデータに対して柔軟に理論を変更することも大事である。科学的な探究心と社会的なニーズの間で、より良い防災対策と科学的理解の促進が求められる。

私自身の研究としては、地震時に何が起きるのかを明らかにすることに焦点を当てている。具体的には、衛星データや地震波データを使用して、地震波形を分析し、地震で起こった現象を解析している。このアプローチにより、断層破壊がどのように枝分かれし伝播するのかを、実際の地震波形を理論波形と比較することで、より正確に把握することを試みている。こうしたアプローチは、断層形状を事前に仮定する必要がなく、データから直接断層の形状を求めることができ、逆破壊伝搬現象などの地震のダイナミクスをより正確に捉えることを可能にしている。  最後になるが、学生さんが研究活動を行う際には、常に批判的な思考を持ち、有名な論文や定説が必ずしも真実であるとは限らないことを意識してほしい。また、社会にもこういった科学的なアプローチを持ち込んでいってほしいと思っている。