異分野融合/連携ゼミナール⑤「減災と予測」開催レポート

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2024-01-17

2024年1月16日(火)にMDA異分野融合/連携ゼミナール「減災と予測」を行いました(MDAセミナーとしても併催)。システム情報系の西尾真由子准教授と防災科学技術研究所の鈴木進吾博士をお招きして、講演いただき、また、参加者とのディスカッションを行いました。当日の両氏の講演概要を以下にまとめましたので、ぜみ、ご一読ください。

「老朽化と災害のリスクに対応するインフラ構造物運用の「知能化」研究」西尾真由子准教授(システム情報系)

分野横断・異分野融合への視座にフォーカスいただき、土木工学・航空工学で共通する物理、分野融合的な「構造モニタリング」、機械学習による橋梁点検AIの構築やPINN型のモデルによる社会の「受容」などについて、構造力学をベースとした自身の研究をベースに、幅広いトピックで講演いただきました。

研究活動としては、構造物センシング、数値解析、データ科学という3つの大きなテーマで研究に取り組んでおり、画像解析、構造物部材の実験、実構造物に対するセンシング、点群データ解析、デジタルツインなどを扱っている。

土木工学、航空工学を学生時代にまたいで研究に携わっていて、日本だと、そういう人はほとんどいなかったが、アメリカでポスドクをやっていた時は、同じような人は多かった。構造力学、つまり運動方程式やバネ振動のモデルを基礎とする物理学を共通して用いて、研究に取り組むという点で共通している。パラメータや境界条件は異なっていても、現象は共通しているとみることもできる。同時に、このパラメータが変われば動きが変わる、という観点で、構造モニタリングに取り組んでいるともいえる。構造物損傷などが起きていれば、その構造物の動きは変わるはずで、その動きをモニタリングしていれば、損傷を把握することができうる。Structural Health Monitoringとして、ポスドクの時から多くの橋梁のモニタリングに取り組んでいる。機械学習という言葉が知れ渡る前から、データ観測・特徴抽出・正規化・パターン認識というプロセスで、取り組んでいた。

光ファイバを橋梁に取りつけてモニタリングすることはできたが、一方で、頑健な構造物の動きは微細であり、周辺の環境要因の季節変動や日変動に埋もれてしまいやすく、橋梁の維持管理・更新に必要な情報を得るのは難しい。同時に、橋梁の維持管理・更新は社会的に大きな問題になっている。じゃあ、維持管理にあたって、何が必要な情報かというと、橋梁の不具合を確実に見つけること、補修などの対応を今やるか・あとでやるかを決めることである。その検討に資する現状の構造物のモデル構築を、観測データを使って、行っている。構造物の設計段階でのモデルは劣化などにより、変化する。その程度を観測データによって把握し、データ同化技術によって数値解析することで既存橋梁の「データ同化」性能解析を行っている。塑性変形を起こさないための余裕度や地震リスク評価を、モニタリングと数値解析を組み合わせて把握できればと思って、取り組んでいる。

また、別の研究として、画像解析による部材損傷の判定に取り組んでいる。現在は、維持管理のための技術ツールの研究開発が多く行われているが、初期の段階から取り組んでいた。橋の管理者とも相談して、データをもらったり、点検制度を考えたりながら、モデル対象を定め、部材損傷度の判定カテゴリを決めて、深層学習モデルを適用した。精度は7~8割であった。これが果たして、よいのかどうかわからないという中で、深層学習の専門家に聞いたら、必要な精度に達しているかは、それぞれの分野の中で決めたらよいということだったので、実際に、橋梁点検の技術者に写真や結果を見てもらい、意見をもらった。単純な判定間違いも指摘されたが、技術者の判断でも難しい部材は深層学習でもやはりできていないということもあった。議論する中で、技術者の判断時の考え方が構造化される部分もあったと思うし、実際に社会で使われるためには、技術者の「受容性」をどう担保するのかが大事だと感じた。 他にも、現在、インフラ構造物の「知能化」という研究の中で、PINNという物理シミュレーションを深層学習に取り組むというアイディアをベースに、リアルタイム解析にも取り組み、ARへの反映などにも取り組んでいる。

「災害への備えと対応におけるデータ活用」鈴木進吾博士(防災科学技術研究所 災害過程研究部門)

現在、支援・調査に入っている2024年1月に発生した能登半島地震の状況と、災害関連データの活用について、最近リリースした地震10秒診断を中心にお話しいただきました。

大きなフレームとしては、災害過程の科学的解明による持続的なレジリエンス向上方策に関する研究に現在取り組んでいる。災害による外力が働くと、以前の社会状態から、耐力・回復力・適応力が働く中で、新たな社会状態に遷移する。それを災害過程と定義し、研究対象としている。復旧・復興の過程において、政府・個人・コミュニティの中で、人材・知恵・資金が巡り変容的なガバナンスがなされ、社会状態の変化が進んでいく。それを支援するための制度・標準行動様式やWEBツールといったプロダクト開発やアクション・リサーチとして実際に現場に入って社会的実践・実証を行うといった研究・活動をしている。また、今後想定されている南海トラフ沖地震や首都直下地震を考えると、人口が減っていく中で、莫大な被害が出て、世界中から支援が入ってくるという中で、災害対応の世界標準化というのも必要であり、広範囲の災害においてはデジタル支援も欠かせない、ということも研究背景の一つである。

現在、支援・調査に入っている能登半島地震については、現地の状況をみてみると、層破壊(1階部分の倒壊)が道路に面した家屋で連続しておきていること、地震による家屋倒壊と地震による被災が同時に起きたこと、輪島市の面的な火災などが目についた。災害対応において、今は、2週間程度発災から経過したところで、水道や電気といったフローを回復する期間だと一般に言われるタイミングである。しかしながら、まだ行方不明者も多く、被害情報の収集が完全には終わっておらず、道路閉塞や断水により、避難所で生活を送っている人数が減っていない。車が必要な地域だが道路利用が難しく、家に帰っても水がないためであると考える。また、今後の復旧・復興に向けて、能登半島外から大量の応援者・作業員が来る中で、災害瓦礫の処理、応急仮設住宅の設置とともに、応援者・作業員の滞在・宿泊場所をどうするかという問題もあり、空間・空地マネジメントが課題になりそうである。能登半島へのアクセス道路の容量が小さいこともあり、半島内外の移動を減らすためにも、効率的な空間マネジメントが必要となるだろう。マネジメントにより。学校が再開できれば、子供たちを日中預けることができ、親世代の経済活動が活発化するという面もある。

災害対応の第一歩として、状況認識の統一(Common Operational Picture)が必要である。色々な人が関わる中で、状況認識を統一して、意思決定していくために、GISやダッシュボードを活用しながら、可視化していくという支援を行っている。復旧・復興にあたって、効率的な調査実施に向けても貢献したいと思っている。

次に、地震10秒診断のプロジェクト例を通じて、取り組んだことを紹介したい。個々人で地震に対する備えが必要になるが、そもそも考えるきっかけや時間がない、備えようとしても情報が難しい、自分にどう影響するかわからない、どう備えればいいかわからないという問題がある。こうした問題を解決するために、個々人の位置情報と災害関連データを掛け合わせて、自分ごと化、リスクの理解、自分に合った備えを進めるための仕組みとして地震10秒診断をつくった。災害リスクに関する情報は多くの研究がなされており、地震発生確率や生活インフラの回復必要日数の試算などがある。そうしたデータを有効に活用する取り組みである。同時に、すべての情報を、一般の人に届けても、判断できないという中で、渡す情報やユーザーインターフェースの工夫を行い、サイトを構築した。

こうした取り組みやCommon Operational Pictureと共通することであるが、知見をつなげて、災害時に何が起こるのかがわかるようにしたいと思っている。例えば、ある状況・被害が起きていれば、他の問題も起こるという被害の連鎖を可視化する・わかるようにすることができれば、災害の全体像を把握するために役立つのではないかと思って、研究開発に取り組んでいる。