工場敷地外での緑地整備は地域環境に貢献するか
自治体の工場立地法敷地外緑地制度の活用方策に注目して

研究の概要

背景と課題

工場立地法の制定と規制緩和

  • 日本経済は高度経済成長を経て、大きな成長を遂げた。しかしながらその裏で全国各地で無秩序な工業化もなされ、公害の発生など周辺の生活環境は悪化した。
  • 上記の状況を顧みて、周辺環境を保全するために経済産業省によって「工場立地法」が制定された。この法律により、工場の敷地内には一定の緑地を確保することが求められた。(図1)
図1 工場立地法の緑地面積規制について
  • 時代が下るにつれて、工場立地を取り巻く状況は変化し、技術の進展等によって工場の発する環境負荷は低減し、一律の緑地面積規制により建て替えのできない工場が出現するなど法律が実情にそぐわない状況が生じた(1) 。
  • これを受けて経済産業省では市町村条例による自治体ごとの緑地面積の基準引き下げと敷地外緑地制度の導入など規制緩和と工場立地法運用の市町村移譲に取組んできた。

敷地外緑地緑地制度

  • 本研究では導入された規制緩和のうち敷地外緑地制度に注目する。敷地外緑地制度とは工場が生産施設の拡大時等十分な緑地を確保できない場合、工場の敷地外に緑地を整備することでも緑地面積基準を満たすことを認める制度である(図2) 。
図2 敷地外緑地制度の概要
  • 敷地外緑地制度は工場立地法運用例規集によると運用のためには各市町村で適用基準(ガイドライン)を定める必要があり、このことから各自治体で制度の運用方法が異なってくる。
  • 各自治体の制度内容や敷地外緑地整備事例について網羅的整理は未だ行われていない。
  • 敷地外緑地制度とその大元である敷地外緑地制度に関する既往研究では、工場緑化は今や周辺との緩衝機能にとどまらないこと(2)や敷地外緑地制度には公民連携による緑地整備の可能性(3)や工場立地法は都市緑化に関わる規定の中でも実行力が強く、民間による緑地整備において重要であること(4)(5)が明らかになっている。
  • 上記の既往研究から敷地外緑地制度は緑の量を減らさない工場立地法の規制緩和方策であることが示唆されているが、各自治体の制度の内容と活用状況、緑地整備事例の体系整理はされていない。

研究の目的

本研究では、敷地外緑地制度の各自治体の制度設計・運用状況、整備された敷地外緑地の把握を行い、
規制緩和による産業振興と地域環境の保全を両立する敷地外緑地制度活用のあり方を考察する

分析

調査対象

  • 敷地外緑地制度ガイドラインを制定している全国の39自治体(*)を対象とした。
  • (*)の自治体の抽出について、
    WEB上で「敷地外緑地」のキーワード検索からガイドラインの存在を公表している自治体を抽出

(対象自治体)
安芸高田市、会津若松市、飯塚市、石岡市、市原市、射水市、宇美町、越前市、行方市、刈谷市、嘉麻市、川崎市、熊本市、桑名市、鞍手町、古賀市、桜川市、堺市、知立市、筑後市、千葉市、玉城町、玉名市、燕市、鶴岡市、留萌市、南足柄市、三条市、新潟市、藤沢市、鉾田市、福岡市、門真市、御船町、横手市、横浜市、和歌山市、高槻市、ひたちなか市、中間市

以下の4つの着眼点に基づいて分析を進めた。

①:国での制度活用の論点と各自治体のガイドライン内容の比較

概要:国発行の資料から立地法の変遷、制度の導入経緯、特に国の想定する活用を調査し、またWEBにてガイドラインの存在を公表している自治体(*)のガイドライン内容の調査を行う。

  • 経済産業省の発行する工場立地法運用例規集(6)による国の運用想定は以下の通りである。この内容に基づいて各自治体は敷地外緑地制度のガイドラインを制定し、運用する。
運用例規集による国の運用想定
  • 敷地外緑地制度を利用する条件や状況に関しては例規集をより具体的に解説した工場立地法解説(7)においての解釈の余地は少なかった。
  • 各自治体は国の例規集の内容を踏襲しており、自治体ごとの差異が少ない。
    どの自治体でも「工場敷地内に未利用部分がないこと」、「生産施設面積の変更時(減少除く)に適用を認める」、「実質的に緑地に係る準則の充足」、「対称工場の周辺地域の生活環境の保持を求める」といった制度利用の条件や状況に関する記述がガイドライン内容に含まれた。
  • 整備される敷地外緑地の具体的内容に関しては解説でも様々な形態が想定されているなど解釈の幅が広い。
  • 各自治体間で整備緑地の形態をどこまで具体的にイメージしているかが異なっており整備に至るまでの過程や整備内容については地域ごとに多様性が見られる。
    緑地の具体的内容としては用途地域等の工場の周辺環境」、「工場と敷地外緑地の距離関係」、「敷地外緑地として認められるもの」、「敷地外緑地等の整備方法」といったものが挙げられるが、各自治体のガイドラインを見てみると具体的な整備場所や内容を規定、緑地の整備方法を規定、例規集の記述通りの内容、敷地内の緑化も担保する要求をする自治体など多岐にわたった。

②:制度運用実態と制度需要のある自治体の特徴

概要:抽出した39自治体(*)を対象に各自治体の工場立地状況、工場緑化への取組みの現状、敷地外緑地制度の運用状況と運用経緯等を尋ねるアンケート調査を実施し、回答が得られた22自治体から調査結果の分析を行う。

(アンケート実施自治体)
会津若松市、安芸高田市、宇美町、越前市、桜川市、射水市、市原市、宇美町、越前市、門真市、川崎市、熊本市、堺市、桜川市、射水市、市原市、千葉市、玉名市、中間市、新潟市、南足柄市、藤沢市、福岡市、堺市、 横浜市、和歌山市

制度運用実態と運用経緯
  • 敷地外緑地制度の運用状況については以下の図(3)の通りとなった。
図3 敷地外緑地制度の運用状況
  • 敷地外緑地制度を実際に運用もしくは検討中である自治体の経緯は以下の(図4)となった。
  • 結果から敷地外緑地制度を運用する経緯は工場の設備拡大等の投資に対して十分なスペースがないことが主であることが伺える。
図4 ガイドライン制定自治体かつ運用自治体に関しての運用経緯
  • 運用したことのない自治体の敷地外緑地制度を運用しなかった理由は以下の(図5)となった。
  • 結果から運用のない自治体では準則を満たしている工場が多く、制度の必要性が薄いことが伺える。
図5 ガイドライン制定自治体で制度を運用しなかった理由 
制度需要のある自治体の特性

敷地外緑地制度の運用との関連が見られる各自治体の工場立地年代、現状の緑地面積準則達成状況といった特性に注目する。

  • 工場立地法制定以前に形成された工場は、工場敷地内に緑地を整備する余地が残されておらず現状の緑地面積規制に不適合で建て替えや設備拡張が難しいことが多い。
  • ガイドライン制定各自治体の工場立地年代と制度運用状況の関係は以下の(図6)の通りである。
  • 結果から工場立地法の制定以前に主に工場が形成されたために、現状準則不適合の工場をもつ自治体にとって制度需要が高いことが分かる。
図6 各自治体の工場立地年代と制度運用状況の関係
  • ガイドライン制定各自治体の緑地面積準則達成状況と制度運用状況は以下の(図7)の通りである。
  • 結果から先述した通りのような基本的に準則を満たしていない工場をもつ自治体に需要があるが、準則を満たしている工場においても敷地外緑地制度の運用が見られる。このことから今後の増設等で潜在的に緑地不足となる工場をもつ自治体にとっても制度の需要があると言える。
図7 各自治体の緑地面積準則達成状況と制度運用状況の関係

③:制度設計・運用時の他分野との連携状況

概要:実施したアンケート調査のうち、各自治体の制度設計・運用時における他分野との連携といった項目に注目して分析を行う。

前提:工場緑化と一般的な都市緑化の違い

前提として工場緑化と一般的な都市緑化の管轄の違いを知っておくべきである。一見どちらも民間による緑地整備によって都市に緑地を整備する決まりである。しかしながら工場緑化は経済産業省管轄の工場立地法に基づくものであるのに対して、一般的な都市緑化は国土交通省管轄であるという違いがある。経済産業省ではできる限り工場の立地を進めて、国土交通省は都市の環境を保持し、改善していくという点で両者のスタンスには差がある。

図8 工場緑化と一般的な都市緑化の違い
  • 上記の(図8)から工場緑化においては立地法に基づく面積率等の量的確保を充足しているかについて主眼が置かれており面積率さえ満たしてしまえば基準を達成できる形になっている。加えて各自治体では緑地整備専門のの部局でなく、経済系の部局が工場緑化の許認可を担っているため質の高い工場緑化を目指すには両部局間の連携が鍵となってくる。
各自治体の工場緑化の取り組み状況
  • 各自治体の工場緑化全般に関しての緑化の質を高めるための取り組みについて示したものが次の二つのグラフである。
  • (図9)は工場緑化と緑地整備・環境関連分野との関わりについて示したものである。
  • 結果から多くの自治体は立地法管轄部署のみで工場緑化を指導しているものの緑化条例や工場緑化自体のガイドラインを併用して質を高める取り組みもあることが明らかになった。
図9 各自治体の工場緑化施策においての緑地整備・環境関連分野との関わり
  • (図10)は工場立地法管轄部署において、工場立地に係る届け時に必須となる緑地面積率以外に確認している項目があるかどうかを示したものである。
  • 結果から届け出時には緑地面積率に加えて、緑の配置といった項目が確認され、緩衝機能が重視されており、一部では緑視率も確認されていることが明らかになった。
図10 工場立地法における届け時に自治体で緑地面積率以外に確認している事項
敷地外緑地制度設計・運用時の部局間連携状況
  • 敷地外緑地制度を有効活用し、質の高い緑地を整備していくためには都市における緑地・環境保全との方針を踏まえて制度の設計・運用を行うことが重要である。
  • 敷地外緑地制度を設計もしくは実際に運用するにあたって工場立地法を管轄する部局が他の緑地・環境系の部局との連携を行っているかを整理したものが(図11)である。上部分が設計時、下部分が運用時を表している。
  • 表の見方として、例えば緑がかかっている部分は敷地外緑地制度設計・運用時で緑地分野と連携が行われるかつ工場緑化全般でも連携が実施されていることを示している
  • 結果から工場緑化時で連携を行っている自治体は制度設計運用時でも連携している傾向にあること、運用時の連携は設計時よりも連携が弱いこと、加えて実例が見られる自治体がどの連携パターンにも属していることから制度活用時の連携の形態は多岐にわたることが明らかになった。
図11 各自治体の工場緑化時と敷地外緑地制度設計・運用時の部局間連携の状況について

④:敷地外緑地整備事例の整理と制度活用による効果と課題

運用事例の類型化
  • 実際に運用が見られた自治体を以下の(図12)の通りに類型化することができた。
  • まず土地所有の観点から自治体等が所有する公有地へ敷地外緑地の整備を行う公有地整備型と民間企業や個人が所有する民有地に対して整備を行う民有地整備型の二つに大別することができる。
  • 公有地整備型については制度を用いる企業が公有の緑地整備に対して費用負担のみを行い、実質的な整備は自治体が実施する費用負担型企業が費用負担だけにとどまらず、敷地外緑地の直接整備と維持管理まで実施する企業負担型に分けられる。費用負担型については整備対象が森林である場合もあれば、公園である場合もある。
図12 運用事例の類型化
各事例の特徴と制度運用の効果と課題
  • 各事例の特徴として、基本的に工場近隣での緑地整備が重視されている中、森林整備型では市内全域の緑地整備に繋がり、公有地整備型では自治体の関与と部局間連携により整備状況が透明であることが確認された。
  • 民有地整備型については場所や整備方法について特定につながることから非公開となっており、情報が所得できず、緑地の質については不透明である。
効果
  • 工場事業者による費用負担が自治体の緑地整備に関する財政的負担を軽減する
  • 地域に不足している緑地が工場事業者により整備され、地域緑化計画の推進に貢献
  • 民有地でも賃貸契約により、土地の所有者にとって管理困難な緑地の整備

従来の工場緑化と異なる形態となるが、規制緩和をしても量を減らさず地域に同等規模の緑地を整備できる

課題
  • 民有地整備型は私有地が対象で、土地の面積規模などから規制の対象外となり、自治体の介入が困難である
  • 企業の方針で緑地の継続可否等が決まり、持続するかどうかが不安定

制度を抜け道的に利用され、質が低く、持続しない緑地が整備される可能性

成果

  • 4つの着眼点についてのまとめは以下の通りである。
 4つの着眼点のまとめ

地域に貢献する敷地外緑地制度の活用方策

自治体の緑地計画の指針や課題を踏まえ、部局間の連携を図りながら設計や運用を進めることが重要。

特に、公有地への整備は実現しやすく、質の確保も比較的容易であることが本研究の成果として示される

レファレンス

(1) 経済産業省(2007) 「工場立地法に関する地方自治体及び事業者アンケート調査結果概要」
(2) 村上善明他(2024) 「近代都市計画制度の発展過程における工場緑地の理念の変化-工場の「庭園化」から「緑化」への展開」: 都市計画論文集,Vol.59, No.3,日本都市計画学会, (2024)
(3) 三瓶由紀他(2018) 「行政による制度を活用した里山保全の可能性」: 南紀生物,第60巻,第1号, (2018)
(4)御手洗潤他(2006) 「我が国における建築物の緑化義務を課する法制度に関する比較研究」: 都市計画論文集,No.41-3,日本都市計画学会, (2006).
(5)植田直樹(2022) 「緑化条例の効果と課題を踏まえた総合的な緑地の整備と利活用に関する研究 -緑地駆動型のまちづくりに向けて-」: 筑波大学社会工学博士論文, (2022)
(6)経済産業省(2017) 「工場立地法運用例規集」
(7)一般財団法人日本立地センター(2015) 「工場立地法解説(第8版)」

後記

 最初このテーマで研究を始めた時は自分の当時持っていた関心とズレがあったことに加えて、かなりニッチで事例も少ない分野でもあったので「自分は一体何をやっているんだろう…」とモチベーションが上がらない日々が続きました。 (その他プライベートもうまくいかず苦しい時期でした。)しかしながら調査の中でご協力頂いた自治体の担当者様方の自分の研究に対する関心や協力への姿勢を目の当たりにし、自分の研究に対して社会的な意義を感じることができるようになりました。加えて中間発表前に付きっきりで指導してくださった藤井先生、一緒に悩んでくれた同期のおかげで思考が洗練され、そこから研究についての「感覚」を少しずつつかむことができるようになり、そこから前向きに調査や調査結果の整理、論文執筆に取り組むことができました。この1年間卒業論文に取り組み、問題について粘り強く自分の頭で考えることを通して自分の学んできた都市計画・まちづくりに関しての解像度が高まり、より広い領域に関心を持てるようになりました。この経験は研究成果を出すこと以上に自分の成長につながったと感じます。これからはお世話になった方々への感謝を忘れずに、これからの学生生活と自分の携わる物事に熱意を持って向き合い続けたく存じます。研究を進める上で協力して頂いた全ての方々に対して、この場を借りて心より感謝申し上げます。