概要

背景と目的
関彰商事のグループ会社が運営するコンビニエンスストアでは、オープン時は本部作成の棚割を導入するが、以降は店舗スタッフの経験や勘に基づく調整が柔軟に行われていた。これは状況に応じた変更が可能というメリットがある一方、属人化によるリスクも同時に抱えている。
- 属人化によるリスク:
- 店舗間での知見のばらつきによる収益性の差異
- 優秀な社員の離職に伴う店舗運営スキルの低下リスク
このプロジェクトの目的は、データの活用により「売れる棚のルール」を確立し、経験による判断からの脱却と売上の最大化を両立することにある。
事前分析・準備
施策の実施に先立ち、対象の絞り込みと分析基盤の構築を以下のステップで行った。
対象商品の決定:
ABC分析を行い、売上への貢献度の大きい商品に対象を絞り込んだ。その後、店舗へのヒアリングを実施。変更頻度が一定(週1回程度)で、棚の自由度が高く効果測定がしやすい「ドライ飲料(お茶、水、ジュース等)」を対象に決定した。

棚割のデータ化:
過去の棚割データが蓄積されていなかったため、実店舗での測量および撮影を毎週実施し、商品名・寸法・配置位置を手入力でスプレッドシート化。分析可能な計14週分のデータセットを構築した。
結果
施策1:数理最適化による棚配置作成の試み
当初は、予測モデルと数理最適化(Gurobi)を組み合わせ、理論上の売上を最大化する棚割の自動生成を試みた。
実施プラン:
- 予測モデル: 商品の高さやフェイス数を変数として販売数量を予測
- 最適化問題: 予測モデルによる販売数量をインプットとして、物理的な制約を満たしつつ、総売上を最大化する配置を算出
- 実店舗への実装
予測モデルにおける試行錯誤:
1. 先行研究をもとにしたGLMモデルの作成
Drèzeら (1994)の研究で定式化されたフェイス数と高さの効果をもとにモデルを作成

結果: WAPE(加重平均パーセント誤差)で75.3%
2. 他のモデルの導入と比較
結果: WAPEが43.1%まで改善
3. LightGBMに天候特徴量を追加・複数店舗のデータを統合して分析
結果: WAPEが32.9%まで改善
モデルの問題点:
- WAPE(加重平均パーセント誤差)を30%台まで改善したが、商品・棚の組み合わせの多さに対してデータが不足。
- モデルの解釈性が低く、実店舗への実装にはリスクが高いと判断し、戦略の転換を行った。
分析の中での発見:
商品単位で分析すると予測精度の高い商品と低い商品が存在する。

- 高精度な商品の例: 特定のお茶、ごみ袋など売上が安定している商品
- 低精度な商品の例: 新商品、季節商品など
→予測精度の高い商品群に絞った施策に転換
施策2: 予測精度の高い商品に絞った棚の入れ替え
実施プラン:

過去の棚割変更効果の定量化:
ANCOVAにより変更前後での数量の増減とp値を求める→平均販売数量が増加: 赤、平均販売数量が減少:青
→さらにp値<0.10の棚変更の割合により濃淡を色分け

この結果から以下のような傾向が見られた。
売れる←2段目 > 3段目 = 4段目 > 5段目 > 1段目→売れない
予測精度の高い商品のリストアップ:
使用したモデル: CatBoost
使用したデータ:販売数量データ・天候データ・カレンダー情報
R2>0.2の商品を予測精度の高い商品としてリストアップした。
入れ替え箇所の選定

現状の棚割に対し、以下の入れ替えロジックを適用した。
- 売れる段に移動: 「売れない段」に置かれているAランク(売れ筋)商品
- 売れない段に移動: 「売れる段」に置かれているD・Eランク(死筋)商品
入れ替え効果の定量化

予測モデルによる予測値を「ベースライン(配置変更しなかった場合の想定売上)」とし、実績値と比較した。
- 売れる段へ移動した商品: 販売数量が13.6%増加
- 売れない段へ移動した商品: 販売数量が0.1%減少
- 最終的な売上向上率: +12.2%(ベースライン比)
この結果から売れる商品を売れる位置に移動した方がいいという結論になった。
まとめ
- 今まで蓄積されていなかった棚割のデータ化を行った。
- 棚割の数理最適化に挑戦したが、期間中に十分なデータを得ることが厳しいと判断して断念
- 予測精度の高い商品に絞った入れ替えに方針を転換
- 売れ筋商品を「売れる段」に、比較的売れにくい商品を「売れない段」に移動した結果、12.2%の売上向上を達成した。
今後の展開
- 他カテゴリ・他店舗: 今回人数の制約により分析範囲を特定店舗の飲料のみに絞ってしまった。施策を他カテゴリ・他店舗へ展開することでより一般的な棚割の知見を得る。
- 棚割データ取得の自動化: 今回、最も時間がかかってしまったのが、棚割のデータ化作業となる。そこで棚割データの自動取得により商品数×フェイス数×段の数という組み合わせの量に見合ったデータを得ることで、今回断念した棚割の数理最適化につなげられる。
後記
本プロジェクトは、他分野混合の学生チームによる産学連携の取り組みとして、関彰商事株式会社の皆様、データサイエンティストの高木様、そして指導教員の若林先生のご協力のもと、半年間にわたり活動してまいりました。
当初、私たちは「コンビニの実店舗における棚割の最適化」というテーマを掲げましたが、その道のりは困難の連続でした。実店舗特有の商品の入れ替わりの速さや変数の多さは、予測モデル構築の大きな障壁となりました。さらに、モデル構築に必要な販売数量データも、データ量が極めて膨大であることから、システム上の制約で直近40日前までしか記録を遡れず、このデータ期間の短さもプロジェクトを難航させた要因の一つです。中間発表に至るまで試行錯誤を繰り返す日々が続きましたが、若林先生の温かいフォローと、高木様による的確な軌道修正のおかげで、最終的に意義のある結論へと導くことができました。
チーム内では、唯一のデータサイエンス経験者であるD3の譚さんが、モデル作成から毎週の資料作成まで「メインエンジン」としてプロジェクトを力強く牽引してくれました。また、M1の吉田さんは非常に緻密な作業が求められる棚割データの作成を引き受けてくださり、土台を支えてくれました。
最後になりますが、データの提供のみならず、店舗での棚替え作業や視察への同行、現場視点の貴重なアドバイスをくださった関彰商事株式会社の皆様に、心より深く感謝申し上げます。
参考文献
- Drèze, X., Hoch, S. J., & Purk, M. E. (1994). “Shelf management and space elasticity.” Journal of Retailing, 70(4), 301-326.
- Sigurdsson, V., Saevarsson, H., & Krishna, A. (2009). “The effects of different shelf configurations on consumer purchasing behavior: A field experiment.” Journal of Applied Behavior Analysis, 42(4), 741-755.
- Düsterhöft, T., Hübner, A., & Schaal, K. (2020). “Shelf-space optimization: A systematic review and an analysis of current literature.” European Journal of Operational Research, 282(1), 252-269.