研究の概要
背景と課題
社会的ジレンマ
突然だが、あなたが「どこかへお出かけしたい!」と思った時、図1のように、どのような交通手段で向かうか迷った経験、あなたにもあるのではないだろうか?
このような、個人の利益の最大化行動と公共利益の最大化行動の何れかを選択しなければならない社会状況のことを、「社会的ジレンマ」と呼ぶ[1]。
ここで、交通問題に起因する社会的ジレンマの解決法の一つとして「モビリティ‧マネジメント」がある。
モビリティ・マネジメント(MM)
モビリティ‧マネジメント(以下「MM」と表記)は、新道路建設等のハード施策のみ、法的規制や金銭的な手段のみで交通問題を緩和するのではなく、それらとコミュニケーションを適切に組み合わせた上で、「コミュニケーションを中心に据えた交通政策」[2]である点が特徴である。
MM施策においてはどのようなコミュニケーションの手法が市民の意識・行動変容に効果的であるかが重要となる。
そこで、本研究にてMMツールとして取り上げるのが「交通すごろく」である。
交通すごろく
交通すごろくとは、交通の社会的ジレンマを分かりやすく体験する為のボードゲームである。中部青年技術士会(現 日本技術士会中部本部青年技術士交流委員会)が2005年にMMツールとして開発した[3]。
交通すごろくは、通常のすごろくと同様に4 – 8人で行うボードゲームである。通常のすごろくと異なるのは、サイコロを用いない代わりに、「クルマ」と「電車」の2枚のカードを用いる点である。プレイヤーは、ターン毎に選んだ人数が多いほど“渋滞”して進めるマス数が減る「クルマ」か、乗客が多くても時刻表通り走る為に必ず一定のマス数進める「電車」の何れかのカードを、他のプレイヤーと相談せずに選択し、一般的なすごろくのように目的地に先に到着する事を目指す。なお、本研究では、ゲーム盤につくばエクスプレス線の路線図を用いた。
交通すごろくには、「電車」カードを選択した場合4マス進めるBASICバージョン(以下「BASIC」と表記)と併せて、公共交通不便バージョン(電車で進めるマス数が半減する、以下「公共交通不便」と表記)等がある。
公共交通不便では、電車カードが不便になる事でクルマカードの利用が増加し、BASICよりも”渋滞”が激しくなる。その為、殆どの場合ゴールまでの所要ターン数がBASICに比べて倍近くに増加する。即ち、電車だけが不便になるのに、クルマにも所要ターン数が増加するという悪影響が出ている。
ゲームプレイ後、ゲーム中に記録したカードの出し方を確認しながら、BASICと比べたゴールの遅れや、感じた理不尽の原因が交通の社会的ジレンマである事、交通の社会的ジレンマを解消する為に行っている事や行うべき事を解説する。
クルマカードの人数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
クルマカード | 9 | 7 | 4 | 2 | 1 | 0 | 0 |
電車カード(BASIC) | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
電車カード(公共交通不便) | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 |
このような実際の日本で進行しつつある問題を、すごろくというボードゲームに落とし込んで体験してもらう事で、交通の社会的ジレンマについて考えるきっかけとなる。この事を企図して、交通すごろくは作成・実施される。
本研究の目的
MMに関する既存研究は数多く存在するが、交通すごろくをMMツールとして用い、定量的に分析を行った論文は、筆者の知る限り谷口ら(2008)[4]の他に存在しない。谷口ら(2008)[4]では小学生を対象としている為、交通すごろくに関して小学生以外を対象とした研究は過去に行われた事がない。
そこで本研究では、高校生及び成人を対象とする事とし、目的を以下の2つに定めた。
1) 交通すごろくの高校生及び成人への適用と、ゲーム参加前後の態度変容効果の把握
2) 交通すごろくのプロセスと結果を分析し、プレイヤーの戦略を類型化することによる、交通すごろくプレイヤーの戦略の特徴や構成比、社会的負荷の関係性の把握
使用データ
調査概要
本研究で用いるデータは、筑波大学の講義内や学会、研究会等の場において対面で、日本在住の高校生及び成人を対象として調査を実施し、収集した(概要は表2を参照)。
調査方法 | 学会等で、交通すごろくのプレイと前後アンケート調査への協力を要請 |
対象者 | 日本在住の高校生及び成人 |
調査数 | 88名 |
調査時期 | 2022年7月 – 10月 |
調査主体 | 筑波大学公共心理研究室 |
事前アンケート(23問:個人属性、クルマや公共交通への態度並びに普段の交通行動等について質問)/交通すごろくのプレイ(カードの出し方を記録)/事後アンケート(9問:クルマや公共交通への態度並びに交通すごろくの戦略について質問)の順で88名に調査を行った。その他、2018年度と2019年度に筑波大学社会工学類の大学説明会(オープンキャンパス)にて実施した交通すごろくについて、カードの出し方データのみを83名分入手することが出来た(事前・事後アンケートは実施されていない)。以下、交通すごろく及びアンケートの実施、並びにアンケート回答者の概要を示す。
実施日 | 場面 | 参加者数 |
7月22日 | 筑波大学の留学生向け英語講義 | 9 |
8月26 – 27日 | 第17回JCOMM(日本モビリティ・マネジメント会議) | 24 |
9月8日 | 筑波大学・早稲田大学交通系研究室 合同ゼミ | 36 |
10月30日 | 高校生向けフォーラム「自動運転バスから,未来の柏はどう見える?Vol. 2」 | 16 |
– | (回答者の希望により公表しない) | 3 |
アンケート回答者数合計 | 88 | |
‘18/’19年度 | 筑波大学社会工学類大学説明会 | 83 |
交通すごろく実施データ合計 | 171 |
(別記ない場合2022年実施)
なお、アンケート回答者のうち77.8%を関東地方在住の回答者が占めた。また、回答者のうち71.9%が20代以下、75.6%が男性の回答者となっている。
データ分析
ここでは分析の概略を述べるに留める。分析の詳細については、論文本文を参照されたい。
目的1:高校生・成人の態度変容効果
目的1では、同じ項目(質問A:表4)を交通すごろく実施前後に質問し、前後の回答について差の検定を行う。既存研究の谷口ら(2008)[4]で用いられた方法を利用する事で、小学生との比較も可能である。ただし、回答結果は正規分布に従っていないため、対応のある2群間の差のノンパラメトリック検定であるウィルコクソンの符号付き順位検定を行った。
なお、「道徳意識(Moral Obligation: MO)」及び「重要性認知(Awareness of Consequences: AC)」は、「階層規範活性化モデル」を援用したものである。詳しくは谷口ら(2009)[7]を参照のこと。
番号 | 名称 | 質問A. 以下の各質問についてそう思うかどうか, あなたが最も当てはまると思う数字に〇を付けてください (※ここでの「まち」は小学校区レベルを指します) |
---|---|---|
A1 | まちと公共交通_MO (道徳意識) | まちに良いバス,電車ネットワークを作っていかなければならないと思いますか? |
A2 | まちと公共交通_AC (重要性認知) | もっと良いまちにするためには,良いバス,電車が必要だと思いますか? |
A3 | 公共交通利用_MO | できるだけ,バス,電車を利用しなければならないと思いますか? |
A4 | 公共交通と公共利用_AC | バス,電車を良くするためには,バス,電車をもっと使うことが必要だと思いますか? |
A5 | クルマ抑制_MO | できるだけ,クルマの利用を控えなければならないと思いますか? |
A6 | 公共交通とクルマ抑制 _AC | バス,電車を良くするためには,クルマを控えることが必要だと思いますか? |
(回答:「思わない」-「そう思う」の5件法)
目的2:プレイヤーの戦略の把握
目的2の分析では、まず交通すごろくカード出し方データについて各種評価指標を設定し評価、プレイヤーのカードの出し方を数値化する。続いて評価値を変数として因子分析を行い、因子得点と「自他影響度」を変数として非階層クラスタ分析を行う。この結果と、事後アンケートにおける交通すごろくで取った戦略に関する質問の回答結果を基に、戦略の類型化を行った。
評価指標
カード出し方データの評価指標は次の表5の通りである。これらの評価指標を用いて、プレイヤーのカードの出し方の数値化を行った。
表5の凡例
P:計算対象のプレイヤー
Tall:全ターン
Tn:計算対象ターン(Tn-1は計算対象ターンの前のターン)
Xn-1:Tn-1でクルマと電車のどちらか,より多く進めたカード
名称 | 定義 | 設定意図 | |
1 | 連続同一 カード割合 | Pが連続で同じカードを出し続ける最大回数 | 本指標が高いプレイヤーは同じカードを出し続けるプレイヤーであり、片方のカードへのこだわりが強い可能性が高いことが分かる。 |
2 | クルマ カード割合 | PがTallのうちクルマカードを出した割合 | 本指標が高いプレイヤーはクルマカードを出す割合(回数)が多く、「クルマ依存」であると言える。拡張性を考慮し回数ではなく割合とした。 |
3 | クルマ進み割合 | PがTallのうちクルマカードで進んだマス数の割合 | 本指標が高いプレイヤーはクルマカードで進んだマス数が多く、「クルマ依存」であると言える。進んだマス数はカードの回数から単純には算出できない為、「クルマカード割合」とは独立した変数としている。 |
4 | 前回多進 カード選択割合 | PがTallのうち“TnでXn-1を選んだ”ターンの割合 | 本指標が高いプレイヤーは、前ターンの成績を参考にカードを選択することが多いプレイヤーであると考えられる。 (例:あるターンでクルマを選んだプレイヤーが一人だけだった結果電車よりも多く進めた時に、次のターンでプレイヤーがクルマを選んだら1回と数える。これの全ターン中の割合。) |
5 | CO2排出量平均 | TallのCO2排出量の平均 | 社会的負荷を見る。合計ではなく平均としたのは「クルマカード割合」と同じ理由である。 |
6 | 今回多進 カード選択割合 | Tallのうち、“Tnでクルマか電車のより進めた方(同じを含まない)を選んだ”ターンの割合 | 本指標が高いプレイヤーは、「他プレイヤーを出し抜けるカード」を選択できているターンが多いと言える。進めたマス数が同じの場合数えないのは、他プレイヤーを出し抜けていない為。 |
7 | 今回多進 カード進み割合 | Tallのうち、Tnでクルマか電車のより進めた方(同じを含まない)を選んだ時に進めたマス数の、進んだマス数全体に対する割合 | 本指標が高いプレイヤーは、「他プレイヤーを出し抜いて進んだマス数」が多いと言える。進んだマス数はカードの回数から単純には算出できない為、「今回多進カード選択割合」とは独立した変数としている。進めたマス数が同じの場合数えないのは、他プレイヤーを出し抜けていない為。 |
因子分析
続いて、評価指標によって評価した数値について因子分析を行った。その結果、クルマカードに関する評価指標が多い「クルマ依存度」(値が高いほどクルマカードを多く出している)、他のプレイヤーを”出し抜けている”か否かに関する評価指標による「出し抜き度」(値が高いほど出し抜けている)、同じカードを出し続けるか否かの「同一連続度」(値が高いほど同じカードを出し続けている)の3つの因子となった。
「自他影響度」
ここでは、本研究において独自に開発した指標であり、本研究の特色の一つである「自他影響度」について取り上げる。
「自他影響度」は協力ゲーム理論の「シャープレイ値」の考え方を援用したものである。シャープレイ値とはプレイヤー同士のある提携によって得られた利益を分配する方法の一つであり、プレイヤーの貢献度に基づいて計算される。詳細は岸本(2015)「協力ゲーム理論入門」[8]等を参照されたい。
自他影響値では、シャープレイ値の特に限界貢献度の考え方を用いて「計算対象のプレイヤーがゲームに参加している事で増える”理論上必要な最小ターンの間に、プレイヤーが進めるマス数の、全員分の合計”の期待値」を算出する。即ち、計算対象のプレイヤーが、自らや他のプレイヤーの進めるマス数に及ぼす影響を定量化している。計算方法は論文本体を参照のこと。
この自他影響度が高ければ、計算対象のプレイヤーのカード選択が、自らを含む「プレイヤー全員の”進めるマス数”合計」を増加させており、結果的に皆のためになる(利他的?)行動を取っていると言える。
クラスタ分析/戦略類型化
先述の因子分析の結果の因子得点と「自他影響度」を組み合わせてクラスタ分析を行い、事後アンケート(「あなたは,何を重視して,どのような戦略で交通すごろくに臨みましたか?各バージョンについて,理由も含めてできるだけ詳しくお答えください.」:自由記述)の回答を基に解釈した結果、表6及び表7のようになった.
No | n | 戦略名 | 特徴(命名理由の概要) |
---|---|---|---|
1 | 34 | 電車中心・ 柔軟戦略 | 電車多用という回答が多く、状況に応じて途中で戦略を変更も |
2 | 19 | クルマ中心・電車で出し抜き戦略 | クルマの速さ理解した上で電車を活用したという回答が多数あり、出し抜き度が高い |
3 | 11 | 利己的戦略非一貫戦略 | 運任せ等のプレイヤーがおり、また自他影響度が非常に低い |
4 | 37 | 平均的電車連続戦略 | 電車多用という回答が多く、同一連続度が高い |
5 | 4 | 利他的電車連続戦略 | クルマ依存度が低く、同一連続度は高く、自他影響度は非常に高い |
6 | 11 | 無自覚的クルマ依存戦略 | クルマ依存度が高いが、電車を多用という回答も複数ある |
7 | 23 | 平均的行動戦略 | 回答に傾向が無くクラスタ中心の値もこれと言った特徴が無い |
8 | 18 | 電車中心・クルマで出し抜き戦略 | 電車多用しつつ周りの様子を見てクルマを選択という回答が複数あり、出し抜き度が非常に高い |
9 | 5 | クルマ依存・成功戦略 | クルマ依存度、出し抜き度、自他影響度が何れも非常に高い |
10 | 6 | 利己的クルマ依存戦略 | クルマ多用という回答が多く、自他影響度は非常に低い |
No | n | 戦略名 | 特徴(命名理由の概要) |
---|---|---|---|
1 | 10 | 電車依存戦略 | 電車多用という回答が多く、同一連続度が非常に高い |
2 | 27 | 利己的風見鶏・平均戦略 | クルマと電車適宜選択と回答、出し抜き度0近く自他影響度は低い |
3 | 12 | 平均的クルマ依存戦略 | クルマ多用という回答が多く、同一連続度が非常に高い |
4 | 9 | 利己的風見鶏・失敗戦略 | 非二元論的回答多いが出し抜き度は低い、自他影響度非常に低し |
5 | 17 | 利己的クルマ依存・失敗戦略 | クルマ多用という回答が多く、出し抜き度は非常に低い、自他影響度は低い |
6 | 5 | 利己的クルマ依存・成功戦略 | 出し抜き度が非常に高く、クルマ依存度、同一連続度は高い、自他影響度は低い |
7 | 42 | 無自覚的非クルマ依存戦略 | クルマを多用したという回答が多くあるものの、クルマ依存度は0に近い |
8 | 25 | 中立柔軟戦略 | 交互に選択という回答が多く、同一連続度が比較的低い |
9 | 16 | 利他的柔軟戦略 | クルマ依存度0近く同一連続度比較的低し、自他影響度非常に高し |
10 | 7 | 出し抜き成功戦略 | 出し抜き度は非常に高いがクルマ依存度は0近く同一連続度は0 |
これらの戦略について、より大きな枠組みである戦略群に分類した。戦略群は、1)中心に用いるカード別にクルマ中心戦略群、中立戦略群、電車中心戦略群の3つ(中心カード別)、2)社会的ジレンマの視点から利己的戦略群、平均的戦略群、利他的戦略群の3つ(利己・利他別)、にそれぞれ大別することで、傾向の把握を試みた。
成果
目的1:高校生・成人の態度変容効果
回答者全体について分析を実施した結果、質問A6(公共交通とクルマ抑制_AC)は1%有意、A3(公共交通利用_MO)は5%有意となった(それ以外の質問は10%水準で有意な差なし)。このことから、交通すごろくには一定程度態度変容効果は存在する、すなわち交通すごろくはMMツールとして有効に活用できると言える。
目的2のプレイヤーの戦略群の利己・利他別で分割し分析を実施したところ、利己的戦略群の戦略を採ったプレイヤーは、平均的戦略群や利他的戦略群の戦略を採るプレイヤーに比べ、有意な差が出る質問が多い事が分かった。この事から、交通すごろくは(少なくともゲーム内で)利己的な行動を取りやすい人に対して、公共交通を利用すべきであるというメッセージを伝えやすいと言える。
目的2:プレイヤーの戦略の把握
まず戦略を中心カード別に分類して傾向の把握を試みた。その結果、公共交通不便でクルマ利用が増え”渋滞”が激しくなるのは、クルマ中心戦略群プレイヤーの増加ではなく、電車を中心に利用していたプレイヤーがクルマも利用するようになる事(中立戦略群の増加)によって引き起こされるという事が示された。これは、年代別や普段の交通態度・行動類型別等で分割しても同様の傾向が見られ、普遍的な傾向と言える。
続いて戦略を利己・利他別に分類して傾向の把握を試みた。その結果、BASICで平均的戦略群の戦略を採っていたプレイヤーが、公共交通不便では利己的戦略群へ流れる傾向にある事が判明した。電車が不便になり、プレイヤー全員が進みにくくなった事から利己的な戦略を選択するようになったと考えられる。プレイヤーを属性等で様々に分割した結果、東京特別区の居住者等、この傾向が当てはまらない属性が存在することも分かった。
すなわち、交通すごろくという限られた場面ではあるが、公共交通が不便になる事によって、クルマ利用が増加し交通行動が利己的になる事が判明した。
謝辞
本研究における調査分析は、科学研究費(基盤B) “ASEAN諸国におけるモビリティ・マネジメントの実行可能性に関する実証分析(代表:谷口綾子)”、並びにJST-RISTEX 科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム”ELSI を踏まえた自動運転技術の現場に即した社会実装手法の構築”(代表:中野公彦)の助成によるものである。
筑波大学システム情報系の秋山英三教授には、「自他影響度」をはじめとする、ゲーム理論の枠組みを援用した分析を行うに当たって、多大なるご助言を頂いた。厚く御礼申し上げます。
また、交通すごろくとアンケート調査の実施にご協力頂いた、筑波大学の谷口守教授並びに近未来研究室の学生の皆様、早稲田大学の森本章倫教授、北野尚宏教授並びに交通・都市研究室の学生の皆様、筑波大学地球規模課題学位プログラムの学生の皆様、第17回日本モビリティ・マネジメント会議にご参加の皆様、高校生向けフォーラム「自動運転バスから、未来の柏はどう見える?Vol. 2」にご参加の皆様に感謝申し上げます。
参考文献
[1] 藤井聡:TDMと社会的ジレンマ:交通問題解消における公共心の役割, 土木学会論文集, 第667巻, IV-50号, pp.41-58, 2001.
[2] 社団法人土木学会:モビリティ・マネジメント(MM)の手引き, 2005.
[3] TMOワーキンググループ:渋滞すごろくの概要と効果, http://chubu-ipej.sakura.ne.jp/seinen/workgroupe/panel_b02.pdf, 2005.
[4] 谷口綾子, 浅見知秀:交通問題をテーマとした学校教育プログラムにおける「葛藤」の効果, 第43回都市計画論文集, pp. 775-780, 2008.
[5] Vugt, M. V., Meertens, R. M., and Lange, P. A. M. V.:Car Versus Public Transportation? The Role of Social Value Orientations in a Real-Life Social Dilemma, Journal of Applied Social Psychology, 第25巻, 第3号, pp. 258-278, 1995.
[6] Hollander, Y., Prashker, J. N.:The applicability of non-cooperative game theory in transport analysis, Transportation, 第33巻, pp. 481–496, 2006.
[7] 谷口綾子, 藤井聡:社会的ジレンマでの協力的行動を記述する「階層的規範活性化モデル」の提案 ~理論的検討と交通・環境・まちづくり問題への適用~, 土木学会論文集D, 第65巻, 第4号, pp. 432–440, 2009.
[8] 岸本信:協力ゲーム理論入門, オペレーションズ・リサーチ, 第60巻, 第6号, pp. 343-350, 2015.
この記事は、下記の論文を要約したものです。
・前川凜:ゲーム理論の枠組みを援用した交通すごろくの効果検証, 2022年度筑波大学理工学群社会工学類卒業論文, 2023.
後記
本研究の特色として、ゲーム理論の考え方を用いている事が挙げられる。シャープレイ値の考え方を援用するにあたっては、当然ながらまずシャープレイ値の考え方を理解する必要がある。この理解には少し苦労したが、事前に想定していたほどではなかった。これは、社会工学類の1年次に、都市計画だけでなく社会経済システム主専攻の授業も受け、ゲーム理論の基礎を学んでいたからに他ならない。当時は他主専攻の事ではなく、早く都市計画についてもっと学びたいと考えていたが、本研究で様々な分野について触れておくことの重要性を身を以て理解した。本研究は、都市計画主専攻の枠に収まらずに、今まで社会工学類で学んだことを広く活用した、まさに「つくばの社工」の研究とすることができたのではないかと考える。
また、本研究は交通すごろくの実施が必要不可欠だが、アンケートのみを行う調査と異なり、オンライン上のみで交通すごろくを簡潔させることは困難であった。そこで、A0サイズの交通すごろく盤面(つくばエクスプレスの路線図)を含む交通すごろくセットを、つくばから松江や群馬などの各会場に持ち込み、交通すごろくを実施した。交通すごろくをプレイしていただいた方々に重ねて感謝するとともに、交通すごろくを実施できる場面を準備して頂いた綾子先生、交通すごろくセットの輸送に各所で協力してくれた公共心理研究室の学生の皆様に、この場を借りて謝意を表します。