銀河はどのように進化していくのか
渦状銀河NGC 1232における分子ガスと星形成の関係

背景と目的

銀河の多様性を生み出した銀河進化を考える上で、星形成について考えることは重要である。そのためには星形成の場となる分子雲を調査することが必要である。星間物質は主に星間ガスと星間微粒子に分かれる。星間ガスの中でも最も低温かつ高密度なのが分子ガスであり、温度は10 [K]程度、典型的な密度は3×103 [cm−3]程度である。この分子ガスが集まり分子雲を形成している。

分子雲の観測には、分子が電波を放出するプロセスを利用する。分子雲の主成分となる水素分子(H2)は電気双極子モーメント(電荷の偏り)を持たず、分子雲のような低温では微弱な電波しか放出せず観測が困難である。そのため、観測には次いで存在量の多い一酸化炭素(CO)が用いられる。

本研究では、渦状銀河NGC 1232(オリオン座の隣にあるエリダヌス座の方角にある銀河)を対象とする(図1)。この銀河は複数の腕を持ち(マルチプルアーム)、回転軸を地球に向けている(フェイスオン)ため、銀河円盤上での星形成について詳細に調べることができる。また、周波数80~950 [GHz]帯のミリ波・サブミリ波領域で稼働している電波望遠鏡、ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)で観測されたデータの中から、12CO (𝐽=1−0) 輝線(分子の回転エネルギーが変化、すなわち回転量子数Jが1から0へと遷移した際に輻射される電磁波)を用いる。

図1 渦状銀河NGC 1232(ESO/IDA/Danish 1.5 m/R.Gendler and A. Hornstrup. (CC BY 4.0) http://www.eso.org/public/images/ngc1232b/

本研究では、比星形成率(sSFR: specific Star Formation Rate)と星質量の関係、星形成率(SFR: Star Formation Rate)と分子ガスの質量面密度の関係、及び星形成効率(SFE: Star Formation Efficiency)を調べた。

データ解析

解析には次の4種類のデータを用いた。

  • ALMAで観測された12CO (𝐽=1−0) のデータ
  • GALEX衛星(Galaxy Evolution Explorer、紫外線宇宙望遠鏡)で観測されたFUV(遠紫外線)データ
  • WISE衛星(Wide-field Infrared Survey Explorer、広視野赤外線探査機)で観測された波長22 [𝜇m](赤外線)のデータ
  • WISE衛星で観測した3.2 [𝜇m](近赤外線)のデータ

星形成率(SFR)の面密度(ΣSFR)の導出には遠赤外線と22 [𝜇m]の強度を用いた。分子ガスの質量面密度(ΣGAS)の導出にはCOの積分強度を用いた。星質量(M)の導出には3.2 [𝜇m]の強度を用いた。星形成効率(SFE)と比星形成率(sSFR)はそれぞれ、ΣSFR / ΣGAS、SFR / Mとして導出できる。
なお、データの解析には、Pythonをベースとした対話シェル型のソフトウェアパッケージCASAを用いた。

結果

星形成率(SFR)の面密度(ΣSFR)、分子ガスの質量面密度(ΣGAS)、星形成効率(SFE)を求めた(図2)。また、NGC 1232の光度から星質量(M)を求めると、log10(M*/𝑀) = 10.7となった(𝑀は太陽質量)。星質量とSFRに基づき比星形成率(sSFR)を求めると、log10(sSFR) = -10.2となった。

図2-a 星形成率(SFR)の面密度
図2-b 分子ガスの質量面密度
図2-c 星形成効率

議論

ΣSFRについて、先行研究(Alexandre et al. 2018)と同程度の値を得ることができた。渦巻銀河では ΣSFR = 10−3~10−2 [𝑀 yr−1kpc−2]の値をとることが多く(Grosbøl & Dottori et al. 2012)、NGC 1232は他の渦巻銀河と同様のΣSFRをとることが分かった。

星質量とsSFRの比較として、銀河全体でのsSFRと星質量の値をプロットしたもの(図3)に、NGC 1232のデータをプロットした。この図において、銀河は星形成の活発な領域(青線)から星形成が不活発な領域(赤線)へと進化すると考えられているが、NGC 1232は青線に近いことがわかる。

これよりNGC 1232は比較的星形成が活発な銀河であり、また天の川銀河と同程度の星質量の大きい銀河であることが分かった。

図3 銀河全体でのsSFRと星質量(Schiminovich et al. 2007より改変)

ΣSFRとΣGASをNGC 1232内のあらゆる点で比較するため、銀河面上の各点で値をとってグラフにプロットした(図4)。図中の赤線はデータを最小二乗法によって直線でフィッティングしたものである。これをべき関数で表すと、ΣSFR = 4.1 × 10−3 × ΣGAS0.37 [Myr−1kpc−2]となる。すなわち、ΣSFRは傾きが0.37のべき乗則となっており、Kennicutt (1998)の導出した値(= 1.4)より小さくなった。

図4 ΣSFRとΣGASの相関(3σ以下を除く)

SFEについて、ΣSFRを重ねて比較した(図5)。銀河の内側でSFEが低くなっており、外側で高くなっていることが分かる。特に中心部分では分子ガスがみられず、ほとんど星形成が行われていなかった。

図5 SFE(カラー)とΣSFR(等高線)の比較

中心部分では分子ガスの分布がみられず、ほとんど星形成が行われていないこと、さらには内側でのSFEが低いことから、NGC 1232は内側から星形成を終え始めているのではないかと推測される。これは、星質量がM~5×109𝑀より重い銀河は中心部から星形成が終わっていくという先行研究(Perez et al. 2013)と合致する。

まとめ

本研究では、渦状銀河における分子ガスと星形成の関係について調べ、どのように銀河進化が推移していくのかを明らかにするために、ALMAによって得られた渦状銀河NGC 1232の12CO (J = 1 − 0) の輝線を解析し、星形成と分子ガスさらには星質量を比較することでNGC 1232がどのような星形成段階にあるのかを推定した。

  • NGC 1232の波長22 [𝜇m](赤外線)、3.2 [𝜇m](近赤外線)、FUV(遠紫外線)のデータから銀河全体での星質量とsSFRの値を求めた。求めた値をSchiminovich et al. (2007)のグラフにプロットすると、星形成の活発な領域(青線)に近い位置となった。
  • NGC 1232におけるALMAの観測データ(CO)から、質量面密度を求めた。また、銀河内の各点で星形成率の面密度と比較し最小二乗法によってフィッティングを行うと、傾きが0.37のべき乗則となった。つまり、星生成率がガス雲の質量密度に比例しておらず、星形成が穏やかということになる。
  • 銀河の内側の星形成効率(SFE)が低くなっていることから、NGC 1232は中心から星形成が終わり始めており、星形成の活発な銀河から星形成の不活発な銀河へと移っていく可能性が示唆された。