デジタル化で市役所の現場業務を改善
地方自治体の道路維持業務におけるデジタル化推進の検討

研究の概要

背景と課題

近年、政府は様々な計画や法律を制定し、社会および行政のデジタル化を推進している。2021年9月にはデジタル庁の創設も予定されているなど、今後もデジタル化推進の流れが続くと思われる。

しかし、ICTの適切な活用は地方自治体ではまだ十分とは言えない状況であるとする指摘もあるなど、地方自治体の業務では今なお紙資料を主体とした業務が多く確認できる。

道路維持業務においても、業務で必要な図面を印刷して現場に持ち出しているなど紙資料を主体として業務が進められており、デジタル化が進んでいないといえる。

現在でも、図面をデジタルで閲覧できるシステムは多数の民間企業から提供されているものの、高機能かつ高価格なものが多いため、予算の制約を強く受けてしまう自治体は手を出せない可能性がある。

先行研究では、道路維持業務のデジタル化に必要な機能や情報などについて、実証を通じた職員の意見をもとに十分に検討したものは見当たらない。

そこで本研究では、実際の道路維持業務にデジタル化を導入する実験を行うことで、業務支援において優先度が高い機能を示すとともに、現場業務のデジタル化について実態を明らかにすることを目的とする。

提案手法

職員にヒアリングを行った結果、「現場での情報取得」と「現場情報の記録」の2つの側面での支援が求められていることが確認できた。これらは業務用端末を導入することで支援できる可能性があると考えた。

そこで、道路維持業務を担う職員に業務支援用端末を貸し出し、実際の業務での活用を依頼した。

屋外への持ち運びやすさを考慮して、ハードウェアはタブレット端末を選定した。またソフトウェアは、無料で利用できるOpen Source Softwareであり、QGISで構築したプロジェクトファイルの閲覧・地物の登録が可能であるという特長から、アプリ「QField」を選定した。(図1)

職員の要望をもとに、端末に搭載する図面は路線網図・航空写真・地番図とした。これらは全て市役所で保有するデータであるため、無料で調達可能である。

また、同じく職員の要望をもとに、現場情報の登録項目は日時・時刻・担当者名・処理状況・案件種類・メモ・写真とした。

図1 端末のデータ構築の流れ

評価・実証

①現場での情報閲覧と②現場情報の記録という2つの側面からの支援を目的として、実証実験を行った。

閲覧に関しては、地番図や路線網図の情報を現場で閲覧できることで、庁内と現場の職員間のやり取りがスムーズに進むなど、円滑な業務遂行に貢献できる可能性が示された。また、紙媒体の記録をデジタルデータ化して端末に搭載することで、庁内でも迅速な情報取得に貢献できる可能性がある。

一方で、多くの情報を地図上で重ね合わせて表示する場合、読み込みに時間がかかるなど、閲覧時の操作利便性が低下してしまうことも明らかになった。

記録に関しては、現場では時間の制約が強く、記録作業のための時間の確保が難しいことが明らかとなり、実際に記録を行い続けた職員はわずかであった。

そこで、時間を比較的確保しやすい自席での要望の記録を前提として運用を図ったところ、備忘録的な活用を行う職員が見られた。

なお、今回の支援では主に無料で利用できるアプリと市役所が保有するデータのみを活用したため、初期費用としては約3万円~の運用が可能であると試算される。

この試算を職員に示したところ、「新規に予算建てをせずとも確保できる可能性があり、現実的な価格であると思う」との意見を得た。あくまでも単一自治体の職員個人の意見であることに注意する必要があるが、予算が確保しにくい道路維持業務においても実現可能性が比較的高いデジタル化の手法を考案できたと考えられる。

成果と提案

本研究では、地方自治体の道路維持業務を対象として、業務支援用端末を貸与して実証実験を行った。

実証実験の結果、道路維持業務のデジタル化において優先度が高い機能は閲覧記録であることを確認した。

端末で閲覧する情報は、特に地番図や路線網図の需要があり、また現在紙媒体で記録されている図面も画像データに変換して搭載することで業務改善につながる可能性が示された。

また記録に関して、現場では情報を入力する時間が確保できないことから、端末の活用が困難となることが明らかとなった。しかし、運用方法を工夫することで、活用の幅が広がることが確認された。

以上のことから、業務支援のために図面をモバイル端末に搭載するほか、現場での端末操作時間を短縮させるような操作利便性を確保する必要が示唆された。

この記事は、下記の論文を要約したものです

由井 貴大(2021)地方自治体の道路維持業務におけるデジタル化推進の検討、2020年度筑波大学理工学群社会工学類卒業論文。

後記

  • この研究を始めるまで、タブレット端末やアプリ「QField」を使ったことがなかったため、使い方を教わりながら、まずは自分が端末・アプリを使いこなせるようになることを目指しました。
  • 実証実験中は、4~5週間おきに市役所への訪問を重ね、職員との対話を通じて率直な意見の把握に努めました。
  • 職員から寄せられた意見に対応するため、研究期間中は常に改善手法を模索していました。