研究の概要

背景と目的
導入
- 最近,買い物やランチに行かれた場所はどこだろうか.近所のスーパーマーケット,商店街,駅ナカ,郊外の大型ショッピングモールなど様々であろう.しかし多くの場合,これらは複数の店舗が狭い範囲に集まった商業集積地となっている.
- 人の来訪状況に着目したとき,商業集積地に対してどのようなイメージを持たれるだろうか.昼も夜も老若男女を問わず多くの人が行き交う繁華街,夜に会社帰りの人々で活気を見せる飲み屋街,日中に近隣住民が買い物にやって来る商店街,休みの日に親子連れで賑わうショッピングセンターなど,特徴は多種多様である.
- しかし,都市においてどのような来訪パターンを持つ商業集積地がどの程度の割合で存在するのか,またどのような業種構成と関係しているのか,そしてどのようなバックグラウンドを持つ人が訪れているのか,といったことはこれまで暗黙の了解とされてきた.これらを詳細かつ俯瞰的・定量的に明らかにすることが,本研究の主要な試みである.
背景
- 土地利用と交通特性の関係を解明することは,都市交通計画の基本的事項の一つである.大規模開発では,従前の木造密集市街地の転換による防災性の向上や都市機能の集約・更新が期待される一方で,周辺で渋滞などの交通問題が発生することが懸念される.よって,開発により生じる交通の周辺への影響を適切に評価し,対策を検討する必要がある.国土交通省の大規模開発地区関連交通計画マニュアル[1]は,事務所および商業施設の発生集中原単位(床面積あたりの出発人数と到着人数の合計値)を示しているものの,事務所,商業施設,住宅以外の用途は対象外であり,近年の開発の多様化・複合化に対応して,多様な用途に対してきめ細かい予測を行うことが困難であることが課題とされる[2].
- 近年では交通関連ビッグデータが普及している.特にスマートフォンアプリに基づくGPSデータは一人一人の移動軌跡を緯度経度単位で把握することができるため,詳細な空間単位で人流を把握するのに有用である.
- 一方,商業は都市活動の基本的な要素の一つであり,あらゆる都市機能が集積した拠点としての機能も果たす.商業集積地の動態は,その周辺の生活利便性や,地域の活力に影響を与えると考えられる.そして近年,徒歩での利便性が高い場所に立地してきた商店街は,後継者不足,郊外型店舗の進出,Eコマースの普及などにより衰退傾向にあり,コミュニティの拠点として活性化させることが課題となっている[4].よって,現状の商業集積地の実態を評価し,将来の商業構造を見通すことが肝要である.
- 具体的には,施設の集積状況に加えて,来訪者の量や時間帯による変化,そして滞在時間,移動距離,居住地などといった交通の諸特性の実態を商業集積地ごとに把握して,商業集積地のパターン分類を行い,現状の商業構造を解明することが重要である.
- しかし,商業集積地の既存の分類方法は一面的・定性的である.商業統計[5]では,立地環境をもとに駅周辺型,市街地型,住宅地背景型,ロードサイド型,その他の5種類に分類されているものの,定量的な基準は示されていない.立地や圏域だけでなく,人の流動に関する時空間的な特性も考慮した定量的・俯瞰的な評価が必要となる.
- そこで,店舗情報を持つ電話帳データで商業集積地を抽出した上で,人々の流動の情報を持つ人流ビッグデータを活用すれば,ミクロレベルで人の移動・滞在状況,圏域を把握することができ,商店街をはじめとした商業集積地の相対評価やモニタリングに役立てることができる.
目的
以上を踏まえ本研究では,
- 街区レベルで建物用途ごとの発生集中パターンを明らかにすること
- 商業集積地における発生集中パターンや移動距離,滞在者の行動パターンや圏域の実態,および業種構成との関係を解明すること
- 既存の商業集積地の分類における発生集中パターンの多様性を示すこと
を目的とする.
使用データ
- 本研究の対象地は東京23区とする.選定理由は,GPSデータが入手可能であることに加え,高次から低次まで多様な形態の商業集積地が存在するためである.
- 使用するデータは, 2019年4月における株式会社Agoopのポイント型流動人口データ(GPSデータ),東京都の平成28年度区部土地利用現況および建物現況である.
滞在点の抽出
- GPSデータの日平均ID数は約19万人であり,東京区部の昼間人口[12]と比較するとサンプル率は約1.5%である.
- ここから,Pythonライブラリのscikit-mobility[13]のソースコードを一部変更して滞在点を抽出する.具体的には,元のコードでは,滞在終了が距離閾値を超えることがあるため,時間閾値以上の期間,距離閾値以内にある場合のみ抽出するように変更した.
- 矢部ら(2015)[14]より,半径50m以内で20分よりも長い時間連続して記録がある場合に滞在とみなし,滞在中に観測された全観測点の重心を滞在点とする(図1).
- なお発生量・集中量はそれぞれ滞在を終了・開始した人数として定義し,時間帯別に集計する.

街区の作成
- 土地利用現況・建物現況には,それぞれ敷地・建物ごとの代表土地利用用途が記載されているため,土地利用と交通の関係を分析するのに適していると言える.
- このうち土地利用現況調査からは,おもに宅地を貼り合わせて街区を作成する(図2).作成された街区数は110,948,面積は約409km2である.
- また,各街区においては建物用途別の延床面積を集計し,発生集中の用途別比較に用いる.

商業集積地の抽出
- さらに,株式会社ゼンリンの2021年の座標付き電話帳データベース「テレポイント®Pack!」法人版をもとに,街区レベルで商業集積地を定義する.
- 電話帳データには,店舗だけでなく事務所や工場など幅広い業種の情報が含まれるため,商業集積地を形成しうる業種として,商業集積統計[15]に含まれる223業種に絞り込む.そして,データの局所的な密度をもとに場所に応じたクラスタを形成するHDBSCANと呼ばれる空間クラスタリングにより,20店舗以上(高阪(2011)[16])の集積が含まれる街区を商業集積地として抽出する(図3).
- 抽出された商業集積地は1,045か所,施設数は91,576件であり,それぞれ東京都商店街実態調査[17]に基づく商店街数の57.1%,全施設数の57.9%を占める.

データ分析
建物用途と発生集中交通特性の関係
用途ごとに平均の何倍の発生・集中があるのか
- ここで,建物用途別に発生集中の大小関係を比較し,それぞれ時間帯別に平均に対して何倍の発生・集中があるのか明らかにする.被説明変数を街区ごとの発生量・集中量,説明変数を街区ごとの建物用途別延床面積とし,時間帯によらない固定効果と,時間帯により変化する変量効果の和を係数とするマルチレベルモデルを用いて,建物用途別の時間帯別発生指数・集中指数を求める.ただし指数は,1日の平均的な時間あたり発生量・集中量に対する倍率とする.
- まず全日では,平日は事務所建築物で平均の4.8~4.9倍,官公庁施設で2.9倍,土休日はスポーツ・興行施設で平日平均の4.6~4.7倍,専用商業施設で2.7~2.8倍程度であり,事務所建築物においては平日が土休日の6.7~6.8倍,スポーツ・興行施設においては土休日が平日の2.3~2.6倍程度の発生集中がある.
- 時間帯別では,平日では事務所の集中指数は朝と昼,発生指数は昼と夕方に2回,平均の10倍を上回る.一方,スポーツ・興行施設は夕方以降に単一のピークを持つ.土休日は,午後にスポーツ・興行施設が約16倍,専用商業施設が7~8倍となり突出している(図4).

時間帯別発生・集中パターンと建物用途構成の対応関係
- 発生量・集中量の時間帯別の変化パターンと建物用途構成の関係をクロス分析した結果を表1に示す.
- 朝の発生・夕方以降の集中は住宅系,平日の朝と昼の集中・昼と夕の発生は事務所,午後以降の集中・夕方以降の発生は商業系,特に平日の19時台以降の発生・集中は遊興施設が中心の街区で有意に多い.

(黒色:5%有意に多い、灰色:5%有意に少ない)
業種構成に着目した商業集積地の類型化と発生集中交通・滞在移動特性
滞在者の多い/少ない商業集積地の分布
- 滞在点密度を賑わいとみなすと,滞在点密度と店舗密度によって賑わいと店舗集積の関係を把握することができる.
- 店舗密度と滞在点密度の大小により商業集積地を等量分類すると,都心や副都心では店舗密度・滞在点密度ともに高い場所が多い一方で,周辺部の小規模駅付近を中心に,店舗密度は高いものの滞在点密度が低い商業集積地が存在する(図5).これは,核となる店舗が存在しないことや,住宅の割合が高いことが影響していると考えられる.
- よって,近隣住民の買い物利便性の維持のためには,これらの小規模駅付近の商業機能の維持・活性化が重要になると言える.

業種構成による商業集積地の類型化
- 商業集積地を特徴づける要素として,業種構成が挙げられる.これには,食料品などの日常的な買い物に適した最寄品集積や,衣料品や家電など複数の店舗で比較してから購入することの多い買回品集積,さらに娯楽・飲食や金融・宿泊などのサービス業の集積もある.ここでは,業種構成に基づき商業集積地を分類し,その内訳や分布状況を把握するとともに,後述するクロス集計にも用いる.
- 電話帳データの業種構成割合に基づきk-means法により商業集積地を類型化した結果を図6に示す.金融・宿泊高率や娯楽・飲食系は都心部(特に後者は繁華街),最寄品・医療高率は周辺部,最寄品・買回品高率は主要駅付近や郊外の大型SCでも見られ,滞在点密度は娯楽・飲食特化や最寄品・買回品高率は平均を上回り,最寄品・医療高率は下回る傾向がある.

発生集中パターンによる商業集積地の類型化
- そして,業種構成では表せない,本稿で主眼としている商業集積地の特性として,時間帯別の来訪パターンが挙げられる.そこで,トリップの発生・集中が観測された1,044集積を対象に,1時間ごとの発生集中・滞在パターンに基づきk-means法により商業集積地を類型化する.これにより,各集積で何時頃に到着/出発する人が多いか明らかにすることができる.その結果を図7に示す.
- 平日は,全体の27%にあたる282の集積で朝昼集中・昼夕発生で表される事務所の特性を持ち,5.7%にあたる60の集積で7時台に発生が突出する住宅の特性を持つ.
- 一方の土休日は,午後に発生・集中がともに増加する集積が平日の5.4倍にあたる189の集積で見られるほか,全体の半数程度は平均的な発生集中パターンを示す.
- 商業の特性はCGA06~CGA08に該当し,平日は夕方以降,土休日は昼~夕方のほうが発生集中が多い傾向がある.

- さらに,業種構成による類型とクロス集計ことで,発生集中パターンと業種構成の対応関係を明らかにする.
- 最寄品・買回品高率では午後の発生集中・滞在,娯楽・飲食系の集積では平日の夜および土休日の午後~夜の発生集中・滞在が有意に多く,消費目的で来訪していることが推察される(表2).
- 一方,都心部に代表される金融・宿泊高率は朝昼集中・昼夕発生・日中滞在が有意に多く事務所の傾向,周辺部に代表される最寄品・医療高率では朝発生・夜集中・深夜~早朝滞在が有意に多く住宅の傾向があり,商業が副次的な要素となっていることが推察される.

(黒色:5%有意に多い、灰色:5%有意に少ない)
同一業種構成類型内の平均移動距離の違い
- また,発生集中パターンだけでなく,来訪者の滞在時間や移動距離,トリップ長といった滞在移動特性も同時に把握することで,商業集積地の実態をより詳細に捉えることができる.ここでは,商業集積地の来訪者が1日に移動した距離の平均値である平均移動距離について取り上げる.
- 同一業種構成類型内の来訪者の平均移動距離を比較すると,例えば買回品集積の中でも,大型SC来訪者の移動距離は,都心部の百貨店等の半分未満の10~20km程度の場所が多い(図8).
- 東京区部における大型ショッピングセンターは,買回品を扱っているものの商圏が狭く,日常的な買い物の場としての側面が強く,旧来の近隣商店街と同等の機能を果たしていることが指摘できる.

商業集積地の滞在者特性分析
滞在時間と滞在用途に基づく滞在者の類型化
- ここまでは商業集積地を分類し,その傾向を把握してきたが,ここからは商業集積地に滞在する者を分類することを試みる.各商業集積地に,どのような場所でどの程度長時間滞在した人が訪れているか明らかにすることで,ニーズに応じた施策を展開するための参考になると考えられる.
- 商業集積地の業種構成類型別に,滞在用途と滞在時間に基づく滞在者類型(図9)の構成比を算出すると,買回品集積は多様な滞在パターンを示す一方,周辺部および最寄品集積は住居系の滞在時間が長い人々,都心部および金融・宿泊,娯楽・飲食系は通勤者が主流である(表3).
- おもに周辺部の最寄品集積では,昼間の滞在者は1日中居住地付近にとどまる主婦・主夫などが中心である一方,夕方以降は従業者が帰って来る.
- これより,時間帯ごとにターゲットとする客層を区別し,それぞれに合ったサービスを提供することで,利便性の維持と活性化につながると考えられる.


(黒色:5%有意に多い、灰色:5%有意に少ない)
推定居住地に基づく滞在者の類型化
- 続いて,商業集積地と来訪者の居住地の位置関係に基づき滞在者を分類し,商業集積地の来訪者圏域の実態を把握する.
- GPSデータに内蔵されている推定居住地が商業集積地と同じ区にある滞在者の割合を求めると図10のようになる.
- 平日・土休日ともに,ヒストグラムには0.1未満と0.6~0.7程度の2か所ピークがあり,来訪者圏域が広域と近隣で二極化している.
- 地図より,境界が山手線のやや外側にあることが分かり,境界の内側では広域商圏を持つ集積が密集し,外側では近隣商圏を持つ集積が多くを占める.ただし,周辺部でも事務所や大学を含む場所は比較的広域である傾向が見られる.

商業集積地への宿泊滞在者の来訪状況
- 商業集積地の来訪者のうち,活発な消費活動が期待される属性として,観光客をはじめとした宿泊滞在者が挙げられる.そこで,宿泊施設に夜間滞在したと推定される人を抽出し,各商業集積地における宿泊滞在者の構成比を算出する.
- その結果を図11に示す.都心部の買回品集積や娯楽・飲食系の集積で3%を上回る一方,周辺部では概ね0.5%を下回る.
- また,住宅地に近接する小規模な商店街は,宿泊滞在者の割合が5%程度と高い商業施設の付近にあるにもかかわらず宿泊滞在者の割合が0である場所もあることが分かり,商店街活性化のためには両者の連携が有効であることが示唆される.

既存分類における発生集中交通特性の多様性
商業統計[5]における既存の立地環境特性区分に基づく商業集積地区細分(以下,集積細分)ごとに,発生集中交通特性にどの程度相違性や類似性が見られるのか評価する.
各集積細分の発生集中パターン類型の構成割合を図12に示す.

駅周辺型
- 駅周辺型は,地下鉄や路面電車を除く駅周辺に形成された集積を指す.
- 午後の発生集中・滞在が多い商業の側面が強い場所が主要駅付近で約3割,平日朝昼の集中と昼夕の発生・日中の滞在が多く事務所の側面が強い場所が山手線やその内側の在来線の駅付近を中心に約15%,平日朝に発生が多く土休日の滞在人数がほぼ一定の住宅地の側面が強い場所が,周辺部の小規模駅を中心に約3割存在する.

市街地型
- 市街地型は,都市の中心の繁華街やオフィス街に立地する集積を指す.
- 商業の特性を示す場所は約2割にとどまり,平日に事務所の特性を示す場所が約4割,住宅の特性を示す場所が練馬区を中心に1割程度存在する.
- このうち練馬区北部の住宅地にある集積は,住宅地背景型の代表的な集積地と同様の特性を持つ.また,平日は事務所,土休日は商業の特性を示す場所も都心部を中心に存在する.

住宅地背景型
- 住宅地背景型は,近隣の住宅地に住む人々が利用する集積を指す.
- 商業の特性を持つ場所は1割に満たない一方,住宅の特性を持つ場所が約6割を占め,事務所の特性を持つ場所が地下鉄駅付近を中心に約1割存在する.
- このうち,商業の特性を持つ場所には大型SCの一部も含まれる.

ロードサイド型
- ロードサイド型は,幹線道路沿いを中心とする集積を指す.
- 商業的特性の集積は約1割,住宅的特性が4~5割,平日の事務所的特性の集積が約2割存在する.

駅周辺型のケーススタディ
練馬区サンツ中村橋商店街
- 西武池袋線中村橋駅を南北に貫く商店街である.
- 商店街はおもに住商併用建物から成り,駅付近には数軒の商業ビルが存在する.背後には戸建て住宅や集合住宅が建ち並んでおり,住宅の延床面積構成比は約 7 割であることから,郊外住宅地としての側面が強い.
- 滞在人数は,平日日中には居住者の出勤等により減少する傾向がある一方,土休日は 1 日を通してほぼ一定である.
- 滞在者の居住地は,平日・土休日ともに日中でも 6 割を超え,全滞在パターン類型の中でも近隣性が高い.
- 平日は,夜間の滞在者の 3 割以上は通勤型であり,日中にそのほとんどが流出する一方,土休日は通勤型がほぼなくなり,1 日を通して構成比がほぼ一定となる.


葛飾区亀有北口商店会
- JR常磐線亀有駅の北側に広がる商店街である.
- 駅付近には商業ビルや銀行があり,それ以外は概ね住商併用建物である.サンツ中村橋商店街に比べて,住宅の延床面積に占める割合が 4 割弱と少ない.商業施設の他にも,パチンコ店が 4 軒立地するなど,遊興施設も少なからず存在する.
- 居住地類型は,平日では深夜から早朝は同区内が中心で,日中にその他の割合が 2 割以上に増加する一方,土休日では日中よりも夜にその他割合が 2 割以上と高くなる.
- 日中における自宅滞在者の割合は,サンツ中村橋商店街よりも少ない一方,夕方以降に通勤型,23 区外滞在型,通過型の割合が高くなることから,仕事帰りの立ち寄りによる利用もあると推察される.


研究の成果
本研究では,ミクロレベルの交通実態を把握できるGPSデータを用いて商業集積地の発生集中パターンの実態や業種構成との関連,さらに移動距離や来訪者圏域などに関する空間分析を行い,おもに以下の点を明らかにした.
- 発生指数・集中指数の算出や用途構成ごとの交通特性の算出により,発生集中の量・パターンが建物用途構成と密接に関連していることを示した.
- 平日は27%が朝昼集中・昼夕発生で事務所の特性,5.7%が朝の発生突出で住宅の特性,土休日は18%が午後に発生集中増加,52%が平均的な推移を示すなど,発生集中パターンの特性を明らかにしたほか,これらの傾向が業種構成により異なることや,類似した業種構成でも場所によって来訪者圏域が異なることなどを明らかにした.
- 平日の市街地型では事務所,住宅地背景型では住宅の発生集中パターンを持つ集積が半数程度である一方,駅周辺型では主要駅付近を中心に商業のパターンを示す集積,周辺部小規模駅付近を中心に住宅のパターンを示す集積がそれぞれ30%程度存在し幅広い特性を持つことなど,既存の商業集積地区の分類における交通特性の相違性や類似性を把握した.
GPSデータを用いた街区レベルの分析により,これまでより詳細に交通の諸特性を明らかにすることができた.
本研究で明らかになった商業構造,および同一集積細分内の特性の多様性を念頭に,交通特性や来訪者特性に応じた商業機能の配置計画や活性化策の検討が進められることが望まれる.
謝辞
本研究で使用した土地利用現況調査データについては,東京都都市整備局より利用許可を頂いた.また,電話帳データベースは東京大学CSIS共同研究No.1246の一環として提供して頂いた.
ここに記して謝意を表します.
後記
- まず,ビッグデータの扱い方を習得するのに時間がかかりました.最初は,数GBのcsvファイルをExcelやArcGIS Proで開いてフリーズさせてしまったり,Pythonでも計算中にMemory Errorを発生させてしまったりと,失敗の連続でした.
- 既存のソースコードを一部変更して行った滞在点抽出では,パソコンの32GBのメモリを最大限活用しても,全期間の計算に半日以上は要しました.計算方法を改良する過程で,寝る前にプログラムを組んで,就寝中に計算を回すということもありました.
- しかし,このようなビッグデータの活用によって,これまで暗黙の了解であった都市と人々の活動の関係性を明らかにすることができたことに達成感を得ることができました.
- 都市計画主専攻の一学生として,他の大学では必ずしも入手できるとは限らない貴重なデータを使わせていただいていることに感謝するとともに,今後技術の進歩によってさらに有用なデータが開発され、研究に活かすことができるようになることを楽しみにしています.
- 一方,本研究では現状の解明が主要な目的となっており,課題に対する新規性や目的が弱いことは反省点です.今後の研究では,これまで以上に社会課題や目的を重視し,解決手段としてビッグデータを使うということを意識したいと考えています.
- 筆者の独力では本研究を成し遂げることはできなかったと思います.
ご指導いただきました鈴木勉先生,ゼミ等でアドバイスをいただきました嚴先鏞先生,さらに研究を進めるうえでお世話になったすべての皆様に心より御礼申し上げます.
参考文献
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この記事は,下記の論文を要約したものです.
竹内 真雄(2024),東京区部の商業集積地における発生集中交通・滞在移動特性,2023年度筑波大学理工学群社会工学類卒業論文.