広域的な観点からみた拠点階層設定の検討計画と実態の乖離に着目して

研究の概要

背景と課題

  • 現在、人口減少に伴う施設撤退が著しく、施設等を集約した拠点の形成が市町村主体の拠点計画により進められている
  • 都市計画区域では,主に都市計画マスタープラン、立地適正化計画などの拠点計画が考えられ(図1)、都市計画区域外では「小さな拠点」の形成も目指される
  • 拠点には階層性がある(「大都市拠点」から「小さな小さな拠点」(*)までの6階層(図2))が、都市型拠点と小さな拠点は別々に計画されている
図1: 拠点計画の関係性
図2: 広域的な拠点階層のイメージ

 *「小さな小さな拠点」は構想段階で計画段階でない

  • 今後の更なる施設撤退に伴い、市町村域を超える広域での拠点間連携の必要性が考えられるが、都市部と中山間地域だけでなく、市町村間でも広域かつ統一的な拠点階層の整理がされておらず、極めて非効率な圏域構造を招きかねない

本研究では、群馬県内の市町村における拠点計画について、独自に構築した拠点抽出アルゴリズム、及び判別分析を用いて、拠点の位置や拠点階層を様々な視点から整理・比較した。それと同時に、広域かつ統一的な観点から拠点計画を行うために必要な拠点抽出方法及び階層決定方法の提案をした。また、拠点計画とその実態の乖離をあきらかにし、今後の拠点見直しに際して必要となる視点を示唆した。

分析

分析の概要

分析対象地域群馬県全域
データ市町村の拠点計画における将来都市構造図
施設データ
交通行動・道路データ 等
分析方法拠点抽出アルゴリズムを利用した分析
判別分析やGISによる空間分析 など

計画拠点[P]の位置と階層決定

  • 現在の拠点計画の策定状況を整理し、計画拠点[P]の位置と階層を決めた(図3・4)
図3: 都市型拠点(計画拠点[P])の決定フロー
図4: 都市型拠点(計画拠点[P])の階層決定フロー

潜在的な拠点(計画拠点[S])の決定

従来からの拠点計画において必要とされてきた施設集積の観点(C視点)からの計画拠点[S(C)]を抽出し、計画拠点[S(C)]の拠点階層を決めた(図5・6)計画拠点[S[C]]は、都市型拠点と非都市型拠点で異なる抽出方法を採用した(図5・6)

図5: 都市型拠点(計画拠点[S(C)])の抽出フロー
図6: 非都市型拠点(計画拠点[S(C)])の抽出フロー

計画拠点[S(C+T)]の想定

C視点だけではなく、近年の「コンパクト+ネットワーク政策」を踏まえ交通の需要と供給を考慮したC+Tの視点を想定した
計画拠点[S(C)]と同じ位置において、C視点とC+T視点のそれぞれの拠点階層を比較し、乖離について明らかにした
具体的な拠点階層ポテンシャルの式は下記の通り

これらの拠点情報を元にさらに分析

計画拠点[P]内の施設立地と拠点階層に関する判別分析を行うと、計画上は都市型拠点でも、小さな拠点レベルの拠点が計画拠点[P]における小さな拠点の2倍以上存在したり、小さな拠点未満レベルのものが上位階層にも複数存在したりするなど、拠点階層に関する計画と実態の間に乖離が生じていることが明らかになった(図7)

図7: 計画における拠点階層別の実態からみた拠点階層の割合
  • 計画拠点[S(C)]と計画拠点[P]を比較した結果、計画拠点[S(C)]として抽出されない計画拠点[P]が複数存在した(図8)
    位置が一致する計画拠点[S(C)]と計画拠点[P]においても大きく拠点階層が乖離した(図9)
    これらのことから、拠点階層やその位置が、計画拠点[S]と計画拠点[P]の間において乖離が生じていることが明らかとなった
図8: 実態(C)から抽出されない計画拠点[P] 
図9: 計画拠点[P]と計画拠点[S(C)]の階層的乖離
  • 計画拠点[P]と計画拠点[S]で階層的乖離が生じている箇所に着目すると、計画拠点[S]におけるC視点とC+T視点の拠点階層の比較から現在の計画拠点[P]は施設集積により拠点階層を決定している可能性が高い(図10・11)
    全ての計画拠点[S]を対象としたC視点とC+T視点の拠点階層を比較すると、C視点の拠点階層では地域拠点や生活拠点、小さな拠点において集中トリップ数が同程度になることから、現状の拠点階層設定におけるT視点の欠如が考えられる(図12)
図10: 計画拠点[P]と計画拠点[S(C+T)]の階層的乖離
図11: 各視点と計画拠点[P]における拠点階層の一致関係
図12: 計画拠点[S(C)]と計画拠点[S(C+T)]における拠点階層の乖離

提言

  • 「計画拠点[P]の位置と階層」、「計画拠点[S(C)]の位置と階層」及び「計画拠点[S(C)]と同じ位置におけるC+T視点での拠点階層」の決定方法を提案
    市町村主体の拠点計画について下記の点を示唆
    • 拠点階層の広域かつ統一な観点による見直しの必要性
    • 施設集積と交通の両視点を踏まえる必要性
    • 複数市町村による広域において改定時期や着目する実態を統一することや、各市町村の意向についてコンセンサスを取ること、都道府県などの広域行政と連携することで、拠点計画の足並みをそろえていくことの重要性

レファレンス

国土交通省ウェブサイト: 立地適正化計画作成の手引き、http://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_ city_plan_tk_000035.html (最終閲覧2019.5)
首相官邸ウェブサイト: まち・ひと・しごと創生本部小さな拠点の形成、https://www.kantei.go.jp/jp/ singi/sousei/about/chiisanakyoten/(最終閲覧2019.5)
山根 優生・森本 瑛士・谷口 守(2017): 「小さな拠点」拠点が有する多義性と「コンパクト+ネットワーク」政策がもたらすパラドクス,土木学会論文集D3,Vol.73,No.5,pp.I_389-I_398.
山根優生・谷口守: 小さな拠点の客観的選定による農村部の地域構造分析-“モノ”と“コト”に配慮した指標の提案と試行-、農村計画学会誌、36巻、pp.304-310,2017.
国土交通省ウェブサイト: 「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」、http://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000043.html(最終閲覧2019.5)

この記事は、下記の論文を要約したものです

下山 悠(2020)広域的な観点からみた拠点階層設定の検討-計画と実態の乖離に着目して-、 2019年度 筑波大学 大学院 博士課程システム 情報工学研究科 修士論文.

後記

  • 各市町村でバラバラに策定されている計画に対し、どのような統一的な基準を用いるかの検討に苦労しました。
  • 複数のビックデータ(群馬県内の全施設や交通行動など)を用いたため、分析がなかなか終わらず、何回も試行錯誤しました。
  • VBAを用いて拠点抽出のために複雑な条件処理を行ったため、夜の間にPCに作業させることが何回もありました。