観光バス“るーぷる仙台”の路線最適化

演習/連携
2022-11-30

1.はじめに

 震災後の地域の復興では、様々な産業の経済的な活性化に繋がる観光業の役割は大きい.しかし、地方では交通機関が少なく移動が不便という問題がある.交通機関を増やすことで利便性は向上すると考えられるが、その分費用がかかってしまう.そこで本研究では、観光バスを対象として、費用を抑えつつ利用者の利便性を最大化するバス路線を構築することを考える.

2.研究の目的

 費用の指標として路線を一周する時間、利便性の指標として各観光地間を移動する合計時間を用いて、費用を抑えつつ観光客の利便性を最大化する路線を構築することを本研究の目的とする.さらに、仙台の観光バス”るーぷる仙台”と本研究で構築したバス路線の比較を行う.

3.モデル化とプログラムの説明

 本章ではバス路線を最適化する数理モデルと、実装したプログラムについて説明する.

3.1 モデルの説明

 観光バスの路線最適化を以下のようにモデル化した。

  • 集合
    • V: 観光地や駅の集合。
    • S: 路線の中⼼とする駅の集合。
    • C = V × V: 観光地間の組み合わせの集合。
    • E: 観光地間を結ぶ道の集合。
  • 定数
    • di,j ((i,j ) ∈ E ): 観光地i,j間の移動時間。
    • ms,t ((s,t ) ∈ C ): 観光地s,t間の利⽤者の需要。
    • α: 路線の合計移動時間の上限。
  • 変数
    • xi,j ∈{0,1}((i,j )∈E ): 観光地i, j間の道を路線に含むなら1、含まないなら0。
    • ys,t,i,j ∈{0,1}((s,t )∈C, (i,j )∈E ): 観光地s, t間の経路として観光地i, j間の道を路線に含むなら1、含まないなら0。
  • ⽬的関数(最⼩化)
    • Σ(s,t) ∈C Σ(i,j )∈E 𝑚s,t𝑦s,t,i,j𝑑i,j: 需要で重み付けした各観光地間の平均移動時間。
  • 制約条件
    • Σ(i,j )∈ E xi,j𝑑i,j ≤ α路線の合計移動時間を 𝛼 以下とする。
    • Σ(i,v )∈ E xi,v + Σ(v,j )∈ E xv,j = 2 (𝑣 ∈ 𝑉/𝑆): 各観光地 𝑣 を⼀度ずつ通る。
    • xi,j + xj,i ≤ 1((i,j )∈E ): 観光地i,j間の道を路線に含むとき、反対の道は含まない。
    • ys,t,i,j xi,j((s,t )∈C,(i,j )∈E ): 観光地i, j間の道を路線に含むとき、その道を観光地s, t間の経路に含められる。
    • Σ(i,s )∈ E ys,t,i,s + Σ(t,j )∈ E ys,t,t,j = 0 ((s,t) ∈ C ): 観光地s, t間に対してys,t,i,j ((i,j) ∈ E )が経路を表すための条件(1)
    • Σ(s,j )∈ E ys,t,s,j = 1 ((s,t) ∈ C ): 観光地s, t間に対してys,t,i,j ((i,j) ∈ E )が経路を表すための条件(2)
    • Σ(i,v )∈ E ys,t,i,v + Σ(v,j )∈ E ys,t,v,j = 0 (vV /{s,t },(s,t) ∈ C ): 観光地s,t間に対してys,t,i,j ((i,j) ∈ E )が経路を表すための条件(3)

3.2 プログラムの説明

 数理最適化ソルバーFICO Xpress Optimizationによって実装した。プログラムは集合・定数・変数の定義、目的関数と制約条件の定義、最適化の実行と出力の部分に分けられる。

図1.集合・定数・変数の定義
図2.目的関数と制約条件の定義
図3.最適化の実行と出力

4.データについて

 本章では、3.2章のプログラムに必要な入力データについて説明する。本研究では、仙台の観光バス”るーぷる仙台”との比較を行うため、図4の15ヶ所の観光地についてバス路線を構築する。また、路線の中心とする駅を図4の中心付近にある駅とする。そして各観光地間の移動時間と需要を計算する。需要は、近すぎたり遠すぎる観光地間は低く、るーぷる仙台のモデルコースに含まれる観光地間は高くなるように決定した。これらは図5のように記述している。

図4.るーぷる仙台の路線図
図5.入力データ

5.計算機実験の結果と考察

 図6は、路線の合計移動時間の上限を変えて最適化を実行したときの需要で重み付けした各観光地間の平均移動時間の推移である。現在のるーぷる仙台は、バス路線を1周するのに約59分かかっており平均移動時間は約27分となっている。として最適化した路線(図7)は、平均移動時間は約27分と変わらないのに対して、1周にかかる時間は56分以下となっている。として最適化した路線(図8)は、1周にかかる時間は59分以下であり、平均移動時間は約22分となっている。このように現在の路線よりも良い路線が構築できたと考えられる。

 表1は、るーぷる仙台でおすすめされているモデルコースについて各バス路線でかかる時間を比較している。平均の移動時間を比較すると、最適化によって構築した路線はいずれも現在の路線よりも短時間であることがわかる。「仙台のミュージアム」では現在の路線の方が短時間で移動できているが、需要を変更して再計算することやコースの回り方を変更することで改善する可能性がある。

図6.を変えて最適化を実行したときの重み付き平均移動時間の推移
図7.で得られた路線図
図8.で得られた路線図
表1.各モデルコースを1周する時間

6.おわりに

 本研究では、費用を抑えつつ観光客の利便性を最大化する路線を構築する最適化モデルを提案し、仙台の観光バス”るーぷる仙台”と最適化によって構築されたバス路線の比較を行った。その結果、現在のバス路線と利便性は変わらずに費用が抑えられる路線、または費用は変わらずに利便性は向上する路線を構築することができた。

 今後の課題として、アンケート等のデータを集めて需要を正確に推測することや、計算を効率化して大規模な問題を解けるようにすること、鉄道路線の最適化などに応用することなどが挙げられる。

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