【2023年度7班】脱・乱横断~路渡り上手へのみち~

演習/連携
2024-06-01

研究の概要

背景と課題

 筑波大学周辺は歩行者だけでなく多くの自転車や自動車が走行しており、道が混雑する時間帯には自転車と自動車が接触しそうになることが多い。特に横断歩道を使わずに歩行者や自転車が道を渡ろうとする時にはヒヤリハットが多発している。実際に事故にあったことはなくとも、毎日の通学の度にこのようなヒヤリハットを経験することは避けたいものである。
 このような危険な横断は乱横断と呼ばれ、近年社会的な問題になっている。乱横断は一般的には、横断歩道を利用しない危険な横断、と認識されているものの明確な定義はない。乱横断は重大な事故に繋がる危険があり、警視庁は注意喚起を行っている。
 また、永脇・鈴木[1]によると、多くの筑波大学生が該当する16~24歳の層において乱横断をする理由について「横断歩道が近くにないから」、「交通量が少ないから」、「周辺施設に行きたいから」という3つの理由が80%近くを占めている。このことから、乱横断が発生する要因として発生箇所の周辺環境が影響していることがわかった。
 以上の背景を踏まえ、本研究では乱横断に着目して筑波大生の移動中の危険を減らすことを目的として、周辺環境に対する提案を考えた。

使用データ

実地調査

 事前に乱横断が日常的に行われていると感じている箇所の調査を行った。調査箇所は図1の8箇所である。その結果、乱横断が発生する原因は建物間または大学内外への動線に合った横断歩道が設置されていないことではないか、と考察した。
 さらに詳細な原因を考え、それぞれの特徴から表1の3タイプに分類を行った。それぞれのタイプから、「バス停前」から利用者が多い第三エリア前、「複雑なT字路」から横断歩道が必要な場所になく歩行者にとって不便な陸上競技場東側、「境界」から乱横断が多く見られた平砂トンネル周辺を選び、実地調査を行った。調査内容は乱横断をする人数、車と自転車の交通量、車の速度、時間帯は1限に向かう時間帯である平日8:15~8:45である。

図1 調査箇所
バス停複雑なT字路境界
乱横断の特徴バスを降りた直後の乱横断複雑なT字路部分での乱横断大学の出入り口部分での乱横断
周辺の横断歩道の状況近くにあるが使わない無い、またはわかりにくい無い、または遠い
他の原因他の人もやっているどこを渡ればいいかわからない大学敷地内外の接続が悪い
表1 乱横断のタイプ分類

実地調査

 乱横断が起きている場所で事故が起きているか調べるために学生部学生生活課から筑波大学周辺の直近6年分の事故データを頂き、GISを用いて分析した。

データ分析

実地調査

 調査の結果、表2、表3の結果が得られた。第三エリア前と平砂トンネル前の2地点では90%以上の人が乱横断をしていた。一方で陸上競技場東側では乱横断は調査時には見られなかった。また、全ての地点で多くの車が制限速度を超える50km/h 程度で走行していた。 また、それぞれの地点に特徴的な危険性が見られた。第三エリア前バス停ではバス利用者の大半が乱横断しており、自動車の死角となるバスの裏からの乱横断が発生している。陸上競技場東側では車や自転車の交錯点が多く、車や自転車の導線が複雑でわかりにくい。平砂トンネルでは乱横断箇所がバラバラであり、歩行者や自転車の動線が不明瞭である。さらに、自動車の平均速度が速いうえに交通量が多い。

調査箇所乱横断数横断者数乱横断率
第三エリア前バス停555.917
平砂トンネル20115.931
陸上競技場東側00
表2 乱横断数
調査場所交通量(北→南)交通量(南→北)交差数交差率平均速度
第三エリア前バス停1195926.47250
平砂トンネル694124.11955
陸上競技場東側775949
表3 各箇所の交通量と自動車の平均速度

事故データ分析

 事故データから路上の事故を抜き出しGISを用いて地図にプロットしたものが図2である。ここからペデストリアンデッキ上の事故が多いこと、自転車単体の事故が多いことがわかった。また、乱横断に関係するデータに着目すると、乱横断に関係する事故は少ないことがわかった。しかし、事故自体が珍しいことであり、だからこそ利用者が危険と考えていても対処されにくい場所があるのではないか、という疑問を抱いた。
 そこで、潜在的危険のある箇所を調べるために、大学関係者はどのような場所を危険だと感じているのかを調査するためにアンケート調査を実施した。アンケートではヒヤリハットを感じたことのある場所をGoogle My Mapを用いて地図上にマークしていただき、その場所がなぜ危ないと思ったか、簡単なコメントをお願いした。その結果が図3である。この図から解答箇所の半数ほどは直近6年分で事故が起きていない場所であることがわかった。また、第三エリアバス停前・陸上競技場東・大学会館東側の3地点は事前調査を行った場所と一致しており、乱横断が起きている箇所を危険だと感じる人がいることがわかった。

図2 筑波大学周辺における事故発生
図3 事故データと照らし合わせたアンケート結果

成果と提案

 事故データの結果から事故が起きていた場所と乱横断が起きている場所は一致しないことがわかった。しかし、乱横断が起きている場所は利用者が危険と感じる場所であり、同じような事故は起きていないが利用者が危険と思っている場所が多くあることがわかった。事故の裏には多くのヒヤリハットが隠れており、将来的に重大な事故が起こるリスクがあること、また利用者が危険と感じていることから、乱横断は対処すべき問題だと考えた。
 また、乱横断に伴う危険性の背景として、重大な事故に繋がる自動車のスピード超過や乱横断は危険であるという認識の薄さがあるとわかった。
 実態調査の結果を受け、それぞれのタイプの代表例に対して乱横断を予防するための提案を考えた。提案の主軸は横断歩道の新設・移動とラウンドアバウトの導入である。提案にあたり、学内の横断歩道や道路について管理所在を調べるために11月6日10:30~11:15に筑波大学施設部にヒアリングを行った。その結果、大学施設部の管理はループ道路の内側とその周辺の緑地帯までであり、平砂トンネルとそこから続く学内を横断する道路に関しては市の管轄ということがわかった。また、横断歩道の新設事例について、様々な要素を考慮して検討した結果新設を断念した事例はあるものの、過去に新設した事例もあるとのことだった。このことより、明確な理由と周辺環境が合致すれば、大学内の横断歩道の導入は可能である。以上を踏まえてタイプごとに提案を行う。

バス停前:バス停前では横断歩道はあるものの、建物への動線とあっていないため横断歩道が使われないことが問題であった。例えば取り上げた第三エリア前ではバス停からF棟に向かう時間は乱横断をすると現在の横断歩道を使うより1分短縮される。このことから、横断歩道を動線にあった位置に設置することで乱横断を予防できると考える。また、トリックアートなど車が認識しやすいデザイン性のある横断歩道を設置することで、車が横断歩道の前で減速し、事故の危険性を減らすことを期待できる。

複雑なT字路:複雑なT字路では乱横断は見られなかったものの、動線が不明瞭である。そこで、ラウンドアバウトへと変更するとともに、歩行者が使いやすい位置に横断歩道を設置することを提案する。ラウンドアバウトでは自動車の動線だけではなく、自転車の動線も矢印で示される(図4)。これにより自動車・自転車・歩行者の動線を明確にするとともに、交差点へ入る自動車の侵入速度を低下させ安全性を向上させることに繋がると考える。

境界:平砂トンネル前は横断歩道がなく、広範囲で乱横断が起きていることが問題である横断歩道を新設することで、現在広い範囲で起きている横断を集約することが期待できる。これにより、車から見ても自転車・歩行者の動線が予想しやすくなり、安全性が向上することが期待できる。

図4 ラウンドアバウトへの提案

後記

 7班では最初は違うテーマですすめようと考え、初めの2週間を使っていた。しかし、テーマを詰めるうちに自分達の考える案が難しいことがわかり、振り出しに戻ってしまった。中間発表までの期間がとても短くなってしまい、それまでに発表内容を詰めることが大変だった。
 また、乱横断をテーマにした後も乱横断が起こる箇所と事故データが一致せず、発表の後,先生方から事故が起こっていないということは危険ではないということではないか、という指摘があった。私達は乱横断が原因で事故が起こっている箇所もあり、そもそも事故がレアケースであり、事故が起こっていないから危険ではない、ということにはならない、事故が起こる前段階であるヒヤリハットへの対処が必要と考えた。しかし、それを覆すための論拠が足りず、発表後も考えさせられる課題となった。

レファレンス

[1]永脇有里子・鈴木弘司(2022):都市内道路における乱横断発生要因と抑制策に関する分析, P A_156 ,交通工学論文集,第8巻,第2号(特集号A),pp.A_149-A158
筑波大学/2023/筑波キャンパスマップ/最終閲覧日2024/1/1(https://www.tsukuba.ac.jp/access/tsukuba-campus/)
Gigazine/2017/株式会社キタック/新潟市西蒲区 角田浜交差点ラウンドアバウト(環状交差点)供用開始!/最終閲覧日 2024/1/1  (https://kitac.co.jp/roundabout)