【2023年度5班】ITf. (IMAGINE THE foods’ FUTURE)~ご飯(5班)の未来を救え~

演習/連携
2024-06-01

背景・目的

この演習は、私たち班員の「最近身の回りのモノの値段が高い」という実感からスタートした。特にスーパーに行った際には、野菜の値段の高さに驚くばかりである。食料品の価格上昇ランキングを見ると、生鮮野菜は卵類に次いで2番目に物価上昇が大きくなっている[1]。健康のために野菜を食べるべきだということは分かっていても、こんなに野菜の値段が上がっていると、買うのを諦める人も少なくないだろう。

そこで、「学生が野菜を安く手に入れる!」ことを演習の目的とした。

この目的達成のための手段として、まずは自分たちで野菜を栽培することを考えた。

自分たちで野菜を作る方法を模索する中で、「遊休農地」という現在農地として使われておらず、今後も農地利用の可能性が低い農地があることを知り、その土地を利用することを考えた[2]。

ヒアリング調査

先に挙げた「学生が安く野菜を手に入れる」という目的を達成する方法として、学生による自家栽培システムを提案できないかと考え、その提案内容の実現可能性について検討に向けて、ヒアリングを行った。

調査概要

ヒアリングを以下の5名に行わせていただいた。

表1:ヒアリングまとめ

ヒアリング調査を踏まえて

ヒアリング調査を経て、遊休農地が増加していること、そしてそれに伴う周辺環境への悪影響などの問題が明らかになった。また、農業においては深刻な人手不足や経営難、みんなの食堂(つくば市版子ども食堂)においては野菜供給が不安定であるといった問題が判明した。

以上のヒアリング調査から、学生による野菜の自家栽培システムを変更し、新たに、遊休農地において学生が収穫作業を行い、管理を農家の方して頂くというシステムを考案し、このシステムの実現可能性の検討を開始した。

図1:新たなシステムイメージ

定量的算出

以上のシステムイメージの実現可能性について考えるにあたり、「種類iの野菜を条件j(何人で何秒作業するか)の下で収穫すると、何個の野菜を収穫できるのか(Nji)・使用農地面積はいくらか(Sji)」の計算を行った。

定量的算出に用いた計算式は以下の通りである。

表2:定量的算出に用いた数式

以下のi, jから得られる野菜の種類別の個数と使用農地面積は表3の通りである。

  • i:大根, にんじん, ピーマン
  • j:50人で計4時間作業する(tj = 14400, pj = 50)

ただし、hiとciは以下の数値を用いた。

  • h大根 = 40, hにんじん = 20, hピーマン = 20 (収穫時間は仮定した)
  • c大根 = 47500, cにんじん = 206857, cピーマン = 1351428([3], [4]より)
表3:定量的算出結果まとめ

以上から、50人でも多くの野菜が収穫できることが分かり、収穫した野菜をみんなの食堂や学生全体に分配するという新たなシステムの実現可能性は高いと考えた。

新たなシステム提案

私たちは、以上に示してきたシステムを「授業単位として開講」することを提案する。

授業という形をとることで、学生の参加のしやすさや動機(単位取得)を確保することができることに加え、農家の方に対しては持続的労働力の提供を行うことができるという利点があると考える。

図2:授業のしくみ

授業名は「都市の遊休農地問題」とし、週1日・2コマ分の授業を5週間(計10コマ)行う。授業内では遊休農地問題に関する講義や、現地での収穫作業、収穫できた野菜の配布作業などを行う。収穫した野菜は、農家の方と履修者で分け、みんなの食堂に適切に分配、余りをその他の学生に配布しようと考えている。

図3:システムメリット

このシステムによって、「学生が野菜を安く手に入れる」という目的の達成に加え、「遊休農地の有効活用」、先述の子ども食堂への「野菜の安定供給」という、3つの要素を達成できるのではないかと考えている。

まとめ・発展可能性と課題

まとめ

私たちは、生鮮野菜の値段が上昇しているという背景を踏まえ、「学生が野菜を安く手に入れられるようにする」という目標を掲げた。また、調査やヒアリングを通して発見した問題である、「全国的に遊休農地が増加している」ことや「みんなの食堂の野菜の供給が不安定である」ことといった問題の解決と目標の達成を併せて達成することができるシステムとして、授業としての遊休農地活用システムを提案した。

この提案は、現在日本全体で社会問題となっている遊休農地の問題、学生の生活苦に対しての 1 つの解決策となるではないだろうか。

発展可能性と課題

私たちが提案したシステムは、都心でより有効性が高くなる可能性がある。ヒアリングさせて頂いた新田室長より、現在耕作に使用されていない遊休農地は、耕作に利用されている農地に比べ、その土地にかかる固定資産税が高く設定されており、都心近くでは遊休農地にかかる固定資産税が宅地並みに高く設定されている。そのため、節税のため、やむを得ず農地で農業を続けられている農家の方がいると伺った。

以上のことを踏まえると、このシステムは、そのような状況にある都心の農家の方に対して、有効性が高いのではないかと考えている。

授業システムの課題としては、以下の3点があげられる。

1つ目は、学生への野菜の配布方法の確保である。
この課題に対しては、授業時間内で袋詰めを行い、夏季は夏季休業中に大学内で練習を行っている部活などに配ることや、秋学期は、同時期に開講されている必修の授業で配布することを考えている。

2つ目は、天候や野菜の個体差などの不確実性による収穫量の変動である。
この課題に関しては、実際に農地で調査・検証を行う必要があると考える。不確実性を軽減させるための施策として温室栽培が考えられるが、温室の導入には多大なコストがかかるため非現実的であると考える。

3つ目は、授業に協力して頂く農家の方の動機の確保である。
この課題に対しては、伊藤社長や吉野先生へのヒアリングで分かった、農地は何も育てていないと、3年ほどで、土地の状況が悪くなり、商品作物を育てる農地として使えなくなってしまう。そのため、農家の方は農地をいつでも、商品作物を育て始められるよう維持するために、何かを育てておきたいとのことだった。ここに、この課題に対する解決策が見いだせるのではないかと考えている。今は使用していないが将来的に使用する可能性がある農地を持つ農家の方にとって、授業に協力することで、農地をよい状態で維持することができること、これがインセンティブになるのではないかと考えている。

レファレンス

[1]総務省統計局, 消費者物価指数​.https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf. 最終閲覧2024.1

[2]e-Gov法令検索, 農地法. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229. 最終閲覧2024.1

[3]作況調査(野菜), 農林水産省. https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/index.html. 最終閲覧2024.1

[4]食材の目安量, 【味の素パーク】たべる楽しさを、もっと。. https://park.ajinomoto.co.jp/recipe/basic/ingredients_bunryou/. 最終閲覧2024.1