コロナ禍による訪問型関係人口の変化とその要因
-「継続・復帰・中止・新規」の観点から-

概要

背景

・関係人口への着目
 近年、我が国では人口減少や高齢化により地方部を中心として地域の担い手不足が問題となっている。そこで、注目されているのが「関係人口」という概念である。
 「関係人口」は特定の地域に継続的に多様な形で関わる者1と国土交通省により定義されている。

・関係人口の変化
 コロナ禍で外出や人との交流が抑制されたことやそれに伴うテレワークの普及などにより、訪問型関係人口を取り巻く状況に変化が生じたと考えられる。
 本研究ではコロナ禍による訪問型関係人口の変化について4つのパターンを想定し、すべての訪問型関係人口を①継続群②復帰群③中止群④新規群のいずれかに分類した。また、これらの4つの群をまとめて活動状況群と称している。(図1)

図1 コロナ流行前・中・後に着目した訪問型関係人口の活動状況群の分類

・現状の課題と求められる方向性
 コロナ禍により多くの変化が起きた状況下で、中断してしまった訪問型関係人口の復帰や新たな社会情勢下での継続性のある訪問型関係人口の創出が求められていると考えられる。

・本研究の目的と内容
 本研究ではコロナ禍における訪問型関係人口の変化について基礎的な分布を示すとともに、変化要因やペルソナについて多変量解析を用いて明らかにすることで、阻害要因に対応し、 継続性のある訪問型関係人口創出・拡大にむけての参考情報となることを目的とする。

使用データ

・使用する調査
 本研究では2023年に国土交通省が行なった「地域との関わりについてのアンケート」1を使用する。訪問型関係人口に関して全国網羅的かつコロナ禍を通しての関わり状況を捉えているうえに、サンプル数の規模も大きく信頼性のある結果の導出が可能となっている。

・活動状況群の抽出
図1にて示した活動状況群の抽出にはアンケート内の「現在地域とのかかわり方は、コロナ禍の影響等によりどのような状況にありますか」という設問の回答により分類されている。(図2)

図2 活動状況群の抽出

データ分析

・基礎集計
 訪訪問型関係人口の半数以上は継続群であり、コロナ禍でも関わりを続けてきたことがわかる。一方で約45%がコロナ禍により関わりを一時中断し、復帰にも辿り着けていない中止群が全体の10%程度を占めていることが分かる。全体の関わり数が約3,500万であることから1,500万超の関わりが一時中断し350万の関わりが復帰に至っていないということになる。またコロナ禍以降に関わりを持ち始めた新規群は全体の約3%を占めており、数にして100万程度となる。(図3)※Nは拡大後の値

図3 活動状況群の分布

・活動状況群のペルソナ
 主成分分析・クラスター分析により訪問型関係人口の8つのペルソナを抽出し、サンプルをこれらに分類した。(図4)

図4 訪問型関係人口のペルソナ

 活動状況群別にペルソナ類型の分布を見てみると、継続群ではビジネス活用型や準日常関わり型の割合が多くなっていることや新規群では都市遊興型や遠方関わり型の割合が多くなっていることが読み取れる。(図5)
 また、対応が必要とされる中止群において割合が多くなっているのは地域づくり主体型や農林地活用型(市街地)であることがわかる。この二つの類型の共通点としては、若年層であることや直接寄与型といった活動タイプであることが挙げられ、こうした層の復帰へのアプローチが必要であることがわかる。

図5 ペルソナ類型の分布(活動状況群別)

・訪問型関係人口の変化要因
 コロナ禍による訪問型関係人口の変化について、その分岐要因を把握するために本研究では判別分析を行なっている。(図6)

図6 分析に用いる目的変数のイメージ(継続・復帰要因)

 判別分析によって主に以下の結果を得ることができた(図7)
 個人・世帯属性に着目すると継続や復帰に負の影響を与える要素があることが分かる。先行研究ではこういった人は地域づくりへの思いがあるポテンシャルを持った層として認識されていて、実際に訪問したいと思いやすいことが分かってる。ただ、本研究のように経年情報で見てみると、複数地域での活動に対する両立というものに限界があるということが示された。この結果は関係人口施策を考えるうえで非常に重要な観点で、すでに移住政策なんかで起こっているような自治体間の奪い合いが関係人口に関しても起こりうるとも考えられる。
 訪問頻度に着目してみると、高頻度の関わりほど継続できており、復帰もしやすくなっていることが分かる。日常行動に近く身近であることから継続へのハードルが低く、関わり手の視点からも必要性が高く復帰にもたどり着きやすいといったことが考えられる。
 関わり理由に着目してみると楽しさ・生きがいや地域愛着が継続や復帰に正に影響していることが分かる。仕事や所属組織としての活動をこえて、内発的動機を得ることで訪問型関係人口の維持・確保が可能であることが示唆される。

図7 訪問型関係人口の継続・復帰要因に着目した判別分析結果(一部抜粋)

・コロナ禍以降の訪問型関係人口の新規創出要因
 コロナ流行によりテレワークの普及など人々のライフスタイルにも変化が生じたと考えられる。そこで、コロナ禍以降の訪問型関係人口の新規創出要因と無関与者における訪問以降の発生要因を特定するための反罰分析を行なった。(図8)

図8 分析に用いる目的変数のイメージ(創出要因)

 判別分析によって主に以下の結果を得ることができた(図9)
 実行動に大きく正に影響を与えているのは18~34歳であったり、民間団体に帰属する職種であることが分かる。ただ、こういった層は訪問意向に対しては正に影響していない。つまり、出張先での関わりなど、いわば半強制的にかかわっている人たちであることが分かる。国や地方自治体としては、そうした層にも積極的にアプローチが必要といえる。

図9 コロナ禍以降の訪問型関係人口創出要因に着目した判別分析結果(一部抜粋)

成果と提案

・本研究の成果
本研究ではコロナ禍による訪問型関係人口の変化とその要因を把握することによって、今後の関係人口施策の方向性を示す結果を得ることができた。(図10)

図10 本研究の成果

後記

 本研究ではコロナ禍という訪問型関係人口全体に対して阻害要因が降りかかったタイミングに注目し分析を行なった。平常時においても同様に変化要因を特定する必要があり、そうした部分は今後の課題といえる。

参考文献

1.国土交通省:関係人口の実態把握, 2024年3月, (最終閲覧2024.12)