【2023年度3班】君たちはどう逃げるか?

演習/連携
2023-12-26

背景

我々の研究内容を選定するために班の研究テーマである「空間データサイエンス」に関連する様々な社会的事象を各々で検証したところ、「防災」「避難」という観点において以下の知見が得られた。

○筑波大学周辺は大震災のリスクが高く、東日本大震災(以後3.11)と同程度の地震が30年以内に約66%の確率で起こると考えられている[1][2]。

○授業期間に大地震が起これば3.11よりも大きな被害や混乱が生じる可能性があるため[3]、適切な避難行動の提案は有用と考えられる。

○若者は他の年代に比べて防災意識が低く[4]、筑波大生は一人暮らしも多いため災害対策しづらいのでは?

○流動人口データの避難行動への活用の可能性がある。

目的

災害が発生した際の筑波大生の動向、防災意識を分析することで、混乱のなかでも適切な避難行動をとれるような仕組み、学生間で情報や資源を交換できるような組織・媒体を提供する。また地域に根付いた組織として区会の存在があるため、既存研究や各区会長の意見、学生の区会に対する認識等を検討案と照らし合わせて問題解決の糸口とする。

データ

ヒアリング調査

 大学周辺の区会の存在や活動内容、学生参加に対するイメージを把握するためにヒアリング調査を行った。

                  表1 ヒアリング調査概要

調査対象つくば市市民協働課
つくば市区会連合会
天久保、春日、桜地域内で運営されている区会のうち7区会
全代会
調査期間11/20~12/7
調査方法対面、メールでの回答

アンケート調査

 災害時に筑波大生、院生がどのような行動をとるか、また、災害発生に備えた区会参加への姿勢等を把握するためにアンケート調査を実施した。

                  表2 アンケート調査概要

調査対象筑波大学 学群生、院生135名
調査期間11/24~12/8
調査形式Google Forms

分析

GISによる分析

 中間発表までの研究から、災害時選択する避難場所と通過人数にはある程度の相関がみられた(通過人数が多いほど、アンケートでの回答が多い)。そこで災害時における学生の集合拠点として有用な場所を通過人数から特定、提供するために筑波大学内に滞在点のあるIDを対象に筑波大学指定の避難場所24箇所及び付近の公園16箇所におけるポリゴン内のポイントデータをカウント、比較した。

使用データ:Agoop ポイント型流動人口データ

使用ツール:ArcGIS Pro

 

図1 大学指定避難場所と周辺の公園のポリゴン

結果

ヒアリング

主な質問内容、回答を以下に示す。(回答は一部を抜粋、要約し区会は略称で記載)

○概況(区会連合会)

・全体の加入率は40.3%(加入戸数/市総世帯数)

・区会数は全597区会[8]

○区会連合会ヒアリング結果

・大前提として、どの区会も学生参加の活動はなく、議論に挙がったのはつい最近のことである。

・区会の平均年齢が高いことが災害時の不安要素になるため学生の参加が可能なら歓迎である。対応は各区会の住民による。

図2 区会全体組織図

○区会への質問内容

  • 学生とのかかわりは?

・商店主、飲食店主が個別にかかわることはあるが、区会としてかかわったことはない。市主催の一斉清掃の際に学生に手伝ってもらった、らしい。(天3)

・現セブンのごみの散乱がひどいことをきっかけに筑波大生が組織を発足した。学生が年々減っていき、今は0人である。(春4)

  • 学生が区会に参加することに対するご意見考えられる長所、短所は?

・参加は大歓迎だがそれほど集まりがない。

長所は思考の活性化、短所は入れ替わりが激しく深いかかわりを持てないことである。(桜2南)

・住民と学生では区会内での位置づけが異なり学生の参加は考えにくい。活動が少ないため長所、短所も想定できない。(春3)

  • 区会の会費、学生に対する減額措置の可能性は?

・会費は年3000円、減額措置は住民と要相談。(天1)

・会費は年500円、減額措置はあり得る。(春3)

  • 普段または災害時の公園の利用方法は?

・一斉清掃では陽の見公園に集合しているため、災害時には自然と集まる流れができるのでは?(桜2南)

・毎年、花見会として食事会を実施している(春4)

○全代会

全代会の方にヒアリングを行い本研究の検討案について意見を伺ったところ、通常時から全代会が主導して活動を行うことは厳しいかもしれないが、災害時に全代会が中心となって動くことは非常に有用であるとの回答を得た。また地域との連携が取れるような防災マニュアルの作成を提案の視野に入れていたため意見を仰いだところ、防災意識が低い学生にとって防災マニュアルは必要との回答をいただいた。

 【考察】

現段階において大学周辺住民と学生の関係は希薄であるが、災害時の共助を考慮すれば学生の区会への加入(加入にしないにしろ住民と何かしらの交流を持つこと)は積極的に推奨すべきであると言える。また、

学生参加に対する区会の反応は様々であり、それぞれについて適切な交流方法を模索する必要がある。

アンケート

・筑波大生は周辺の人との交流が少なく、災害時には地域で連携を取ることが難しい。(図3)

・災害に備えた自治組織の必要性を感じている人は多いが参加には積極的ではない。(図4)

・参加しない理由として費用・負担がかかる、忙しい、つまらなそう等が挙げられる。よって実際参加するとなると障壁があるため学生が参加したくなるようなインセンティブを設ける必要がある

・二次避難で避難所に行かない「その場に留まる+友人等と合流する」人が約半数である。(図5)

図3 周囲の人との交流
図4 災害に備えた区会について
図5 自宅にいる際の東日本大震災と同程度の地震に対しての避難場所

【交流場所の選定】

・アンケートの結果から大学生は行ったことがある、近い、広いことを理由として一次避難場所を選ぶ傾向にある。よって一次避難後の交流場所にも同様の条件に当てはまる場所を提案する必要性がある。

・行ったことのある場所は避難場所を通過する人数を計測することによって把握することができる。通過したことのある避難場所は実際に利用したことがなくても速やかに移動できる場所である。

・条件を満たす場所の候補には公園、駐車場、私有の未利用地が挙げられるが、駐車場は避難者が車と事故を起こす可能性(二次災害)がある。また、未利用地は土地が荒れている、数年後も未利用地である可能性が低いといったデメリットがある。一方公園を一斉清掃活動の集合場所に設定している区会もあることから自然に住民が交流できる場所となっている。

GIS

・利用者数の多い避難場所、公園は各地域に散らばっており、学内の場合は平砂学生宿舎駐車場や陸上競技場、中央図書館西側駐車場で利用者が多い(図6)

・学外についてはアンケート調査で回答が多かった天久保3丁目を対象としたところ、かきの木公園が同じ地区にあるしらかし公園と比べても人通りが多いことがわかった(図8)

・アンケート回答数が多かった天久保3丁目のケースでは、かきの木公園を交流場所として指定することが適切であると考えられる。

このように人流データとの関係から指定すべき交流場所を提供することは、天3以外の住区にも応用可能でありすべてのケースにおいて柔軟な対応が期待される。

図6 大学周辺避難場所・公園ID数
図7 大学周辺避難場所・公園ID数(天久保3丁目拡大)
図8 公園通過人数の比較

提言

適切な避難行動をとれるような仕組み、学生間で情報や資源を交換できるような組織・媒体を提供するために本研究では大きく分けて2つの提案を行う。

 ①オンライン地区会

全代会防災支部を設立し、オンライン地区会(地域別のLINEグループ)の作成をする。後に      全代会から地区代表が選ばれ、平時の際は防災マニュアル・地区、防災情報をオンライン地区会にて共有し、有事の際は災害情報、問い合わせフォーム・安否確認システムを共有することで区会、つくば市、大学とも連携が可能である。

図9 全代会防災委員(仮想)

②区会版、全体版防災マニュアルの作成

つくば市、大学が定めた避難所・避難場所の掲載や防災の心構え、ポイント型流動人口データから適切と判断した避難場所等を掲載したマニュアルを作成し、オンライン地区会にて学生、既存地区会との共有を実施する。

図10 防災マニュアル

防災マニュアル冊子版.pdf

【後記】

演習での活動を通して普段の授業だけでは得られない多くの知見を得た。アンケート調査では自身では気が付かなかった問題についても目を向けるきっかけを得、ヒアリング調査では外部機関と交渉、合意形成を行うためのスキルを磨くことができて良かった。GISによる分析では他の授業で身に付けた操作技術が実社会に存在する課題の分析にも応用できることが分かり、とても有意義に感じた。また複数人で研究を進めるうえではメンバー全員が積極的に意見を出し合い、それぞれの意見について慎重に吟味を重ねながら解を導くことが問題解決において最も重要なことであると学んだ。今後、実社会において同様の問題に直面した際には、今回の経験を生かして分析を重ねながら柔軟に対応していきたい。

レファレンス

[1]診断結果–地震ハザードステーション 

https://www.j-shis.bosai.go.jp/labs/karte/Y2023/5440103811/meshinfo.html

[2]東日本大震災の記録 – つくば市公式ウェブサイト 

https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/4/kiroku.pdf

[3]東日本大震災後の状況について–筑波大学 

https://www.tsukuba.ac.jp/images/pdf/risai_joukyou.pdf

[4]防災に関する世論調査(令和4年9月調査)調査結果の概要-内閣府 

https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-bousai/2.html

[5]都市計画実習-筑波大学 

https://www.sk.tsukuba.ac.jp/~toshiw3/WWW/jisshu/jisshu1/report/index.html

[6]大学生消防防災サークル支援事業 「京都学生FAST」-京都府 

https://www.pref.kyoto.jp/shobo/kyotogakuseifast.html

[7]学生の皆さん 自治会・町内会に入って,地域活動に参加しましょう。-京都市情報館 

https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000196570.html

[8]区会ガイドブック-つくば市 

https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/30/2023kukaigaidobuxtuku.pdf