【2021年度4班】ecoEats-大学生のイートイン・テイクアウト・デリバリー実態と環境情報提供の効果-

演習/連携
2022-09-11

背景・目的

近年、コロナウイルスによってデリバリーやテイクアウトの需要が高まっている。しかし、その一方で私たちは使い捨て容器の使用量に伴うプラスチックごみの増加、配達における原動機付き自転車の使用によるCO2排出量の増加が環境に与える影響は大きいのではないかと考えた。

本研究の目的は以下の4項目である。

➀筑波大学周辺の飲食店でのイートイン、テイクアウト、デリバリー(以下ETDとする)におけるそれぞれの環境負荷を検証
②筑波大生のETDの利用実態を把握
③筑波大生のETDそれぞれの環境負荷を知った上での選択の変化とその要因を検証
④協力店に目的2、3の検証結果と当該店舗の環境負荷の数値を提示した時の、店主の態度変容の有無とその要因を把握

データ

研究の流れは図1のとおりである。

図1 研究の流れ

まず、使い捨て容器、消費者・飲食店の移動、食器洗浄の観点ごとにCO2排出量を自動で算出できるエクセルを作成し、ETDそれぞれの環境負荷量の大きさを試算した。

次に予備調査として消費者(筑波大生)23人にヒアリング調査を行い、ETDの利用実態の把握を行った。その結果、消費者のETDの利用には①天気②人数③緊急事態宣言の有無の3条件が大きく影響していると考えられた。それに加えて飲食店5店舗(筑波大学周辺)にもヒアリング調査を行い営業形態の現状や希望の把握、テイクアウトやデリバリーに用いる容器の種類や重さなどを調査した。

先ほど示した3条件の組み合わせを絞るために、実験計画法の直交表を用いました。天気、人数、宣言の有無の3因子にそれぞれ2つの水準を設定し、直交表を作成することで、全ての組み合わせを実行すると8条件になってしまうところを、4条件に絞ることができた。今回は、アンケートを以下の表のように4通り作成し、1人につきいずれか1条件のみを示すことにした。アンケートの流れは図2の通りである。

天気人数緊急事態宣言
条件A晴れ1人なし
条件B晴れ複数(4人)あり
条件C1人なし
条件D複数(4人)あり
図2 消費者アンケートの流れ

分析

消費者アンケートの元データ数は307名分で、そのうち最後まで正確に回答してある有効な最終データ数は177名分であった。分析には分析解析ツールであるSPSSを用いて行った。

まず図3をみると環境負荷情報提示によってイートイン希望度が増加した人が、テイクアウト、デリバリー希望度が増加者した人よりも多く、より環境負荷の小さい形態へ選択が変化したといえ、環境負荷情報の提示は効果があったとわかる。また、図4においても「イートインは環境負荷が少ないから」「ゴミが出なくて楽だから」の理由を選択する人が増え、「イートインは環境負荷が少ないから」を選択した人数は14倍にまで増加しており、意識変化が見てとれる。

図3 環境負荷提示前後におけるETDそれぞれの希望度の変化(人)
図4 環境負荷情報提示前後のイートイン選択理由(人)

図5をみると環境負荷情報提示によって環境負荷の少ない返却・回収容器の希望度が増加したことがわかる。

また、図6のように環境負荷情報の提示と送料が与える飲食形態の希望度の変化についてのt検定を行った。二者の与える影響を比較したところ、環境負荷情報の提示はイートイン希望度の増加を促すのに対して、送料の付加はテイクアウト希望度の増加も促すことがわかった。よって環境負荷情報提示の方が送料の付加よりも、選択をイートインに促す効果が大きいといえる。

図5 環境負荷情報提示前後における容器別の希望度の変化(人)
図6 t検定による環境負荷情報提示時と送料条件を追加時のETDの希望度の平均(%)

最後に、飲食形態の選択変容とその要因について、重回帰分析を行った。図7は、各条件につき、環境負荷情報提示前のイートインの希望度と、情報提示前後での希望度の変化量を従属変数y、提示前のイートインの選択理由と、提示後の選択理由を、それぞれの説明変数xとして、重回帰分析を行った結果である。環境負荷情報提示前は、イートインを希望する人の選択理由は、「イートインの方が美味しいから」に有意差があったが、環境負荷情報提示前後の差に対して分析してみると、選択理由として「イートインの方が美味しいから」の有意差はなくなり、「環境負荷が小さいから」が有意に大きくなっているため、環境負荷情報の提示が、消費者の選択理由を「環境負荷が小さいから」に変容させる効果があったといえる。他に見られる傾向としては、緊急事態宣言なし・複数人の条件では、店の雰囲気を楽しみたいを選ぶ人が減少したことがあげられる。

同様の分析を、テイクアウト、デリバリーに関しても行ったものが図8、9である。テイクアウトでは情報提示前は、家で食べたいのを理由にあげる人が多かったが、提示後はその有意差はなくなった。他に、条件Dにおいては情報の提示に関係なく、環境負荷が小さいからと複数人だからを選ぶ人が多い、などの傾向がある。デリバリーでは情報提示前は外出が面倒だから、雨だから、緊急事態宣言下だからを選ぶ人が多くいましたが、提示後はその有意差は見られなくなりました。条件Aでは、提示前後ともに、家で食べたいから選ぶという人が有意に多いという結果も得られました。

図7 重回帰分析による 選択変容の要因の分析: イートイン
図8 重回帰分析による 選択変容の要因の分析: テイクアウト
図9 重回帰分析による 選択変容の要因の分析: デリバリー

結果

消費者アンケートの分析結果をもとに、ヒアリング調査に協力してくださった飲食店に以下の流れでフィードバックを行った。

①そのお店でのETDの環境負荷量についての資料を見せ、ETDのどれを推奨したいかを伺う
②消費者の環境負荷情報提示前後のETDの希望度の変化についての資料(図3)を見せ、ETDのどれを推奨したいかを伺う
③消費者の環境負荷情報提示前後の容器別の希望度の変化についての資料(図5)を見せ、どの容器の使用を推奨したいかを伺う

まず、環境負荷情報を提示した結果、テイクアウト、デリバリーによる環境負荷量を考慮したいもののコストや手間を考えると店ごとに推奨したい形態に変化は特になかった。また、返却・回収容器による環境負荷への対策には良い反応を得られたが、すべてを返却・回収容器に変更するにはやはりコストや手間がかかってしまうため使い捨て容器の使用をゼロにすることは難しいと考えられる。よって環境負荷情報提供は意識変容には効果的であると思われるが、コストや手間を考えると行動変容にまでは影響しないためそれを考慮した案が必要とわかった。

提言

以上の結果を踏まえて解決策として考えられる案の一つとしてニュージーランドの「アゲイン・アゲイン」という制度を紹介したいと思う。

コストや手間を考慮した案として、現在日本でもマイボトルを利用すると割引される制度を導入しているお店がある。それに加えて自分のお弁当箱やお鍋を持っていくと容器代が割引される制度が提案できると考えられるが、出先でお弁当を買うときに空の容器を持ち歩くことはあまり現実的ではない。

「アゲイン・アゲイン」ではステンレス製のテイクアウト専用容器を貸出すときにデポジットを支払い、加盟店どこでも容器を返却するとデポジットは全額返金されるという制度である。このように日本でもお弁当箱を貸出し、加盟店どこでも返却できるサービスがあれば店舗も消費者も継続的にエコ活動できるのではないかと考えた。

参考文献

(1)松橋 啓介、工藤 祐揮、上岡 直見、森口 祐一: 市区町村の運輸部門CO2排出量の推計手法、最終閲覧日12月20日に関する比較研究、環境システム研究論文集Vol.32, 2004年10月、最終閲覧日12月20日
(2)東京都環境局公式ウェブサイトttps://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/500200a20201207113423859.html,最終閲覧日12月20日
(3)マルゼン公式商品カタログ
最終閲覧日12月20日
(4)東京都水道局公式ウェブサイトhttps://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/shiyou/jouzu.html,最終閲覧日12月20日
(5)環境省公式ウェブサイト
平成17年度版環境白書、P50~、最終閲覧日12月20日
(6)SPSSによる重回帰分析、https://spss-statistics2020.com/2020/08/16/,最終閲覧日12月19日
(7)FUZITSU公式ウェブサイト
https://www.fujitsu.com/global/,最終閲覧日12月20日
(8)again again公式ウェブサイト
https://www.againagain.co/eu-how-it-works,最終閲覧日12月20日