【2021年度第5班】全集中!π型の呼吸~無限?オンデマンド編~

演習/連携
2022-09-11

課題

背景

新型コロナウイルスの影響で場所や時間を問わずに受講できることが利点であるオンデマンド授業が普及した[1]。

しかし、その際に「履修したい授業の時間割が重複していて、片方がオンデマンド授業であるにも関わらず、どちらかの授業の履修を諦めざるをえない」という状況が生じた。

そういった背景から、2つの問題意識が提起された。

一つ目に、「建築士受験資格に必要な科目が多い上に、授業の重複が多く、履修できない授業がある」という点である。資格取得希望者、特に社会工学類においては建築士の受験資格希望者が多く、その受験資格を得るための履修科目は非常に多い。そのため、他の履修したい科目との重複もあり、問題として挙げられる。

二つ目に、「学際的な学びの難しさ」である。他学類他主専攻の科目を受講できることが筑波大学の魅力だが、授業の重複が多く履修したい授業が履修できないため、学修方針である「π型の学び」の実現が難しくなっていると考えた。なお、ここで言う「π型の学び」とは、基礎科目や専門基礎科目を幅広い分野に跨って受講し、それらで培った知識や経験を複数の分野で掘り下げていくことを指している。

目的

この状況と問題意識で述べたことを踏まえ、オンデマンド型の授業を活用した履修登録方法を考案したいと考えた。

なお、本演習においては

(1)授業形態がオンデマンド型かつ成績評価がレポートである“完全オンデマンド授業”が対象
(2)他の授業と曜時限が重複していても履修可能
(3)現状オンデマンド授業で問題がない授業に限り検討し、オンデマンド授業を拡大させるという目的はない

という3点を方針として議論を進めていく。

データ

まず、提案する履修登録方法の実現可能性検証のため他大学の事例調査を行った。
次に、学生側の状況把握のため社会工学類学生へアンケート調査を行った。
最後に、教員側の現状把握のため社会工学類所属の教員へヒアリング調査を行った。

アンケート調査の概要

アンケートの作成にあたって、筆者らは2020年度春AB都市計画実習ライフスタイル班の研究[2]を参考にした。

この研究では、「知識授与型の科目はオンライン活用可能である」といった結論が出されている(知識授与型とは、「教員が一方的にすでに十分確立されている知識を与える授業」を指す)。

また、知識授与型の科目は1年生向けの科目に多くことから、1年生の頃にオンライン授業を受講した1、2年生を調査対象とすることが望ましいと判断した。調査の概要を表1に示す。

表1 アンケート調査概要

ヒアリング調査の概要

今回、ヒアリングをするにあたって2つの目的を設定した。

①本提案の課題であった完全オンデマンド授業の重複履修を少しでも実現に近づけるために本演習における提案の課題を見つけること
②筆者らの提案はオンデマンド授業が続くことを前提としているので、オンデマンド授業に対する教員の考えをお聞きすること

である。

これらの目的を達成するために、ヒアリング調査では社会工学類カリキュラム委員長である繁野麻衣子教授と理工学群学群長である秋山英三教授のお二方にご協力していただいた。

分析

データで紹介した調査における分析方法を以下に示す。

他大学の事例調査の分析

インターネット上での調査を通して、国内外の事例をまとめ、オンデマンド授業を活用した重複履修制度における筑波大学での実現可能性について議論を行う。

アンケート調査の分析

  • 1年時に履修したい科目の重複経験がどの程度あったのかを分析する。
  • 重複した科目の中でオンデマンド授業であった科目はいくつあったかを分析する。
  • オンデマンド授業において科目の重複履修が可能になった場合、履修単位数の増加数について分析する。

以上の項目などについてアンケートを行い、履修状況オンデマンド授業に対する意識を数値化してグラフや表に落とし込み、実態について可視化する。

ヒアリング調査の分析

アンケート調査の結果とヒアリング調査の結果を比較し、学生と教員の意識の違いや重複履修が抱える問題を導く。

結果

他大学の事例調査[3][4][5][6]

早稲田大学

2007年時のオンデマンド授業は857科目、2021年時は1315科目とコロナ禍前からオンデマンド授業を活用している。曜時限がある授業とない授業がある(テストの有無などの関係)。

立教大学

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンデマンド授業を別の授業と曜時限が同じであっても重複して履修することが可能になった。

東京外国語大学

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンデマンド授業を曜時限外に設定した。

ハーバード大学

全214のオンラインコースを開講しており、Pythonによる人工知能の紹介、宗教・紛争・平和、高次元データ分析など文系理系問わず多くの科目がある。ほとんどの科目はオンデマンド型で配信され、定められたアクセス期限内であればいつでも受講が可能である。

他大学の事例を踏まえて、大きく分かったことは二つある。

一つ目は早稲田大学のようにコロナ禍前から完全オンデマンド授業を活用していた大学が国内にあり、現在では国立大学でも完全オンデマンド授業が活用され、曜時限を設けない仕組みにしている大学もあるということである。

二つ目は海外では国内の大学よりもさらに文系理系問わずに多くの授業が完全オンデマンドを活用しているということである。

以上のことから筑波大学でも制度上は実現可能であり、学際的なπ型の学びを推奨している筑波大学にとって需要がある提案であると考えた。

アンケート調査の結果

(1)問題意識の検証

本調査ではまず、「履修したい授業が被ってしまうと、両方オンラインで受講できるにもかかわらず、時間割による制約によって一方を諦めざるをえない」という問題意識が、筆者らのみならず、社会工学類全体で共有されたものであるかを検証した。

図2のように91%の人が履修したい科目の重複を経験したことがあり、その重複した科目の中にオンデマンド授業が含まれていた人は少なくとも87%いることがわかった。以上の結果から、筆者らの問題意識は社会工学類で共通のものであると言える。

図2 科目重複に関する質問

(2)重複履修が可能になった際の履修数の変化

次に、オンデマンド授業において科目の重複履修が可能になったとしたら、履修単位数をどの程度変えるかを質問した(この質問に際して、上限単位数は変わらず45単位であることを想定)。

その結果は図3の通りである。

図3 履修数と単位数の関係

履修単位数を「変えない」: 42%
また「1~2単位増やす」: 36%

という結果となっており、極端に履修単位数を増やす人は少ないと考えられる。

このことから、「学生が履修数を増やしすぎてしまう」というヒアリング調査で明らかになった懸念は完全に解消するわけではないが、一部楽観的にみることができると考えた。

(3)オンデマンド授業の実態

次に、オンデマンド授業そのものの実態の調査を行った。

回答者には、「オンデマンド授業に満足していること」「オンデマンド授業に対する不満」、そして「オンデマンド授業を受講するタイミング」について、いずれも複数選択で回答してもらった。

それらの結果はそれぞれ図4、図5、図6の通りであるが、オンデマンド授業の問題点として、

  • 学生間、教員と学生の交流が希薄になる
  • 授業を溜めてしまう
  • 画面を見続けるので疲労が蓄積する

といったことが挙げられる。

図4 オンデマンド授業に満足していること
図5 オンデマンド授業に対する不満
オンデマンド授業の受講のタイミング

(4)アンケート分析を踏まえて

アンケート調査を通して、

  • 履修したい科目が重複した経験がある人が多い
  • 重複履修が可能になっても極端に履修数が増加することはない

ことが明らかになった。

これらのことから、筆者らの提案には一定の需要があり、履修単位数の急激な増加は履修単位数によって制御できると考えられる。

同時に、学生間や教員と学生の交流が希薄になることや授業をためてしまうことによって様々な問題が生じていることが考えられる。

ヒアリング調査の結果

重複履修制度導入による懸念

時間割が固定されない科目が増えることによって学生が履修数を増やしすぎてしまい、

  • 成績の悪化
  • 単位を落としてしまう
  • 他の科目と被らないテストの日程や教室の確保

などスケジュール管理という点を懸念されていた。

秋山先生のご意見

時間割の制約がなくなり、科目の履修人数が多くなることによる教員の成績評価時の負担増加という点も懸念されていた。

繁野先生のご意見

オンデマンド授業に対しては、繁野先生は意識の低い人と高い人の差が大きくなってしまうこと、また、授業中、生徒が内容を理解できているのか分からず、授業のペースをどのようにすればいいのか分からない といった点からどちらともいえないとおっしゃっていた。

オンデマンド授業の活用について

秋山先生は、オンデマンド授業は教室の制約で他学類の授業がとれないという問題を解決できるなどのメリットがたくさんあるため、PF(合否)で判断する科目は実施しやすく、今後も活用されていくだろうとの見解を示しており、特に一年生の大教室を利用する科目で積極的に使っていきたいとの意見を持っていた。

よってこのヒアリングにより筆者らの提案を導入する上での主な課題は、時間割が固定されていない科目の学生の履修数が増えることによる学生のスケジュール管理が困難になること教員の成績評価の負担であると考えられた。

提言

以上の内容を踏まえ、筆者らは筑波大学でのオンデマンド授業を活用した重複履修制度の導入をすべきであると考える。

オンデマンド授業に関する問題については以下のような提案により解決に繋げる。

新たな履修登録制度の提案

「AB・Choice」

「AB・Choice」においては、ABモジュール開設の完全オンデマンド科目を、Cモジュール単体でも開講する。

また、年間履修上限単位数は従来通り45単位とするものの、完全オンデマンド科目に限り、年間55単位を超えない範囲で上限に含めないこととする。

従来の上限解除には、学類ごとに制約が設けられているが(例えば社会工学類においては「前年度において、35単位以上の卒業要件科目を修得し、その科目数の80%以上が「A」以上であるもの」と定められている)、この制度については全ての学生を対象とする。

提案の背景

筆者らは、ABモジュールに授業が集中し、Cモジュールの授業数が少ない点に注目した。

そもそもCモジュールは、インターンや留学などの長期間の活動に取り組みやすくするための期間である。

確かに、そのような観点から見れば、Cモジュールの開設科目数は最適に近いと言える。しかしながら、全ての学生がそのような長期活動に取り組むわけではなく、むしろそのような学生は少数である。

そこで、筆者らはCモジュールを活用し、Cモジュールの開設科目を増やすことが有効であると考えた。

提案における具体例の提示とその効果

前章で提案した「AB・Choice」を実際に導入した際を想定し、時間割例を提示する。

これにより、筆者らの提案が実現可能であることを示す。

図7は、重複履修が可能になった際の1年春Aの時間割例である。この時間割で履修すれば春ABのみで35.5単位履修できる。

図7 重複履修が可能になった際の1年春Aの時間割例

この時間割は現実的なものではなく、重複履修が可能になった際の極端な例として示しているが、重複履修でここまで履修数を増やすことができ、興味・関心が広い学生にとっては理想に近づいたと言える。

ここで「AB・Choice」を導入し、図7の時間割をより現実的なものに近づける。

図8は「AB・Choice」を利用し、Cモジュールに移動した完全オンデマンド科目を、時間割に当てはめずにChoice科目とした際の時間割例である。

図8 「AB・Choice」導入後の1年春Cの時間割例

「AB・Choice」導入前は春ABのみで35.5単位履修していたところ、「AB・Choice」導入後は春ABで20.5、春Cで18単位に分散することができた。

問題意識として挙げた建築士受験資格のための科目についてもCモジュールにて重複可能になれば、履修が容易になると考えられる。

2021年度開設されていた建築士受験に関わる指定科目95単位の中で必修科目や都市計画の専門科目と重複していた科目は32単位であった。重複している科目のどちらかが完全オンデマンドであるものは5単位、期末試験があるオンデマンド授業を含めると23単位であった。これらの科目が重複可能になれば、図9のように建築士受験資格の目標単位数である60単位の修得が可能になると考えられる。

図9 3年次までに履修できる単位数の変化

その他の問題に対する提案

オンデマンド授業の視聴履歴公開

授業を溜めてしまうという不満の解消に向けて、対面授業とオンデマンド授業の目的の差異を整理した。
対面授業の目的は授業内容の他に、

  • 友達に会いに行く
  • 教員と話す
  • 空気感を味わう

などが挙げられる。

しかし、オンデマンド授業の目的は殆ど授業内容に依拠し周りの様子がわからず、この目的の違いが不満の本質であると考えた。

現在オンデマンド授業では時間的に強制力のあるもので成績評価がなされている。それらに付随して授業を視聴することは学びの本質から外れているのではないかと考えた。

以上のことから、周りの取り組みが可視化されれば、やる気安心感を得られると考え、周りの様子の情報を補完するため、オンデマンド授業の視聴履歴を公開することを提案する。

モグライン

中間発表の質疑応答にて重複履修と「もぐり」の違いについて質問を受けた。

「もぐり」とは他大学や履修していない講義をこっそりと聞きに行くことであり、対面授業が主体の頃はよく見られた光景だった。

また、質疑内ではある学生が履修登録していない授業のmanabaのコースにこっそり入れてもらったという情報もあり、筆者らはオンライン版の「もぐり」ではないかと考えた。

そこで筆者らはオンデマンド授業を全学生に動画公開する「モグライン」を提案する。これを導入し「もぐり」を公認とすることによって多くの学生が授業を簡単に受講・確認出来るようになり、取りたい授業や人気の授業に簡単かつ自由にアクセスできるようになる。

謝辞

本演習を進めるにあたり、ヒアリング調査にご協力してくださった筑波大学システム情報系 秋山 英三 教授ならびに繁野 麻衣子 教授、アンケート調査にご協力してくださった皆様、この場を借りて心より感謝申し上げます。

レファレンス

[1]文部科学省: オンライン授業に係る制度と新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査(令和3年7月7日)(最終閲覧2021.11)
[2] 2020年度春AB都市計画演習ライフスタイル班:君たちはどう学ぶか
https://www.sk.tsukuba.ac.jp/~toshiw3/WWW/jisshu/jisshu1/report/2020/g2/index.html
[3] 早稲田大学: オンデマンド授業
https://www.waseda.jp/inst/ches/ctlt/teaching/ondemand/(最終閲覧2021.11)
[4]立教大学: 履修登録について
https://spirit.rikkyo.ac.jp/odc/SitePages/faq.aspx(最終閲覧2021.11)
[5] 東京外国語大学: オンデマンド型授業の履修登録について
http://www.tufs.ac.jp/student/NEWS/education/20200918_1.html(最終閲覧2021.11)
[6] HARVARD UNIVERSITY : Harvard Online Courses
https://online-learning.harvard.edu/(最終閲覧2021.11.12)