【2020年度5班】高速道路と鉄道 二つの“道”から覗いたコロナ禍の日本 -意識と行動に着目して

演習/連携
2021-01-26

課題

COVID-19(以下コロナ)によって、経済活動に欠かせない自動車交通が停滞気味となり、観光渋滞が一気に解消した。しかし、第2波収束後には観光による移動需要が復活し、コロナ前の水準に戻るときもあった。感染への不安から公共交通機関から自動車に切り替える人を考慮すると、コロナ前よりひどい渋滞が発生する可能性もある。また、公共交通機関に着目すると、感染不安から利用が減少している。電車利用時のコロナ感染確率試算と人々の感染リスク認知の間には大きな差があり、人々は実際の感染リスクを誤認しているのではないだろうか。そこで本研究の目的は以下の3つとなる。
コロナの流行及び収束と人々のコロナへの不安度と自動車による交通量の関係について探る
現在の列車乗車の感染リスクについて試算し、実際の人々の認知上のリスクと比較し、ギャップがどれ程あるのか探る
③試算した感染確率を人々にフィードバックし、電車利用の利益と実際のリスクを正確に天秤にかけて判断するのに有効なフィードバック方法を調査する

コロナ禍の高速道路と鉄道における問題意識

データ

①アンケート調査

コロナ禍において人の行動はどのように変化したのか、コロナに対するリスク認知やイメージはどのようなものだったのかを調査するため、Googleフォームを利用してアンケート調査を実施した。LINEやメール等で拡散し、249名(プレアンケート調査: 9名、本アンケート調査: 240名)の方々に協力していただいた。回答は選択式で、不安の程度やリスク認知に関する質問は「どちらとも言えない」を含む5件法を用いた。

調査内容は以下の通りである。

②既往研究

アンケートの質問項目を作成するにあたり、より公平で正確な質問にするため既往研究レビューを行った。

参照論文は以下の通りである。

③交通量データ調査

コロナ前とコロナ禍での交通量の変化を調査するため、国土交通省の『全国・主要都市圏における高速道路・主要国道の主な区間の交通量増減』を利用してデータ収集を行った。

参照: https://www.mlit.go.jp/road/road_fr4_000090.html

④公共交通利用時の感染リスク算出

アンケート調査の際に回答者に掲示するため公共交通利用時の感染リスクを算出した。より正確なデータを求めるため2種類の方法で行った。以下にその詳細を示す

  1. 土木計画学研究委員会の試算方法
    調査時点で最も感染者総数が多かった一週間(8/3〜8/9)のデータで試算。計算式は土木計画学研究委員会のものを使用した。
    感染率=感染者数÷公共交通利用人数×100
    公共交通利用人数=人口×一人当りトリップ数×鉄道・バスの分担率×移動率
    参照: https://jsce-ip.org/2020/06/03/covid19-survey/
  2. Maogui Huら(2019): Transmission in Train Passengers, An Epidemiological and Modeling Study における試算方法
    2019年12月19日~2020年3月6日までの間に電車内で無感染者72093名と感染者2334名が接触した際の感染率に関する調査を参考に感染リスクを算出。
    参照: https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1057/5877944

分析

上記のアンケートを用いて目的1~3とそれに関する仮説を検証するため分析を行った。以下にその概要を示す

  • 目的①に関する分析としてコロナの流行や人々の不安度と自動車の交通量の関係の有無を探る分析を行った。
  1. 人々のコロナに対する不安度に関係する因子をみつけるため性別や年齢などの基本属性やコロナの感染者数との間、また人々の観光回数等の行動のデータを用いてt検定や相関分析
  2. 人々の不安度と道路の利用状況をクロス集計し関係の有無を分析
目的①に関する分析a, bの関係
  1. コロナに対する不安のどの要素が観光行動や不安度に影響しているのか因子分析
目的1の分析cの概念図
  • 目的2に関する分析として電車乗車時の人々のリスク認知と実際の感染リスクにはギャップが存在するという仮説を検証するための分析と感染リスクにつながる要因を探るための分析を行った。
  1. 1回電車に乗車した際の感染リスクについて自由回答の形で求めたアンケート結果の分布の考察
  2. 年齢や性別等の基本属性や当人がコロナに関する情報源として参考にしている参考情報源、通勤通学手段やコロナに対する不安等とリスク認知の関係を求めるための重回帰分析や相関分析。
目的2の分析bの概念図
  • 目的3に関する分析として試算により得られた状況別感染リスクについてアンケート回答者に感染する確率を述べたネガティブ群フレームと感染しない確率を述べたポジティブ群フレームの2パターンで問いかけそれに対しての不安度について分析した。
  1. 状況別の感染リスクを公開された際の不安度の差異についてt検定
  2. ポジティブ群とネガティブ群間の不安度の差異についてt検定
目的3の分析a, bの関係
  1. それぞれの不安度の分布に対する考察

結果

始めに仮説の結果について述べる。
新型コロナ感染者数と人々の不安度: 第1波と第3波では感染者数と不安度が相関しているが、第2波では相関していない。

COVID-19各不安度別の割合と感染者数1日平均人々の不安度と高速道路交通量は連動しており、6時点のため非有意だがほぼ相関している。

COVID-19各不安度別の割合と高速道路交通量(前年度比)

人々の不安度と観光回数:強く相関しており、不安度が高いほど観光回数が少ない。

観光回数一か月平均とCOVID-19各不安度別の割合の推移

以上のように、コロナの新規感染者数と高速道路交通量が負の相関関係にあるという仮説はおおむね検証された。
また仮説の検証以外にも、アンケート調査の分析から以下のことが分かった。
外出を控え、また人込みを避ける人ほど観光回数が有意に少ない。

外出控え・人込み避と観光回数の相関分析

7月以降は若い人ほど不安度が低く、観光回数が増加する。

年齢と不安度の相関分析

年齢と観光回数の相関分析

全ての期間で女性の方が不安度が高いが、観光回数については7月以降は有意な男女差が見られない。

COVID-19不安度の平均値の男女別推移

観光回数男女別推移

また、「コロナへの不安」のどの要素が観光行動に影響しているかについての分析の結果は、以下のようになった。

因子分析の結果「恐ろしさ」「感染の可能性」「知識」「対処可能性」の4因子が得られた。ただし、6月から10月は「感染の可能性」がなく、また(11月)現在は「対処可能性」がなくなった。

[4-5月]コロナへの不安の因子分析結果

[6月]コロナへの不安の因子分析結果

[(11月下旬)現在]コロナへの不安の因子分析結果

「恐ろしさ」因子が最大の標準回帰係数→コロナに対して恐ろしいイメージを持つ人ほど不安度が高くなる。

[4-5月]コロナへの不安度と因子:因子得点による重回帰分析の結果

[6月]コロナへの不安度と因子:因子得点による重回帰分析の結果

[(11月下旬)現在]コロナへの不安度と因子:因子得点による重回帰分析の結果

4-5月と現在の心理状況は似ている→第2波では“コロナ慣れ”の傾向。

各質問項目におけるコロナへの不安因子の分類の経時変化

「恐ろしさ」因子から現在まで一度も観光していない人がいる
→コロナが原因の観光取りやめに「感染の可能性」因子が大きく影響。

[4-5月]「コロナへの不安因子」と「2020年4月~現在まで、一度も観光していない人=1,1,0」の二項ロジスティック回帰分析結果

[4-5月]「コロナへの不安因子」と「2020年7月以前(GOTO前)にコロナが原因で観光を取りやめたことがある人=1,1,0」の二項ロジスティック回帰分析結果

感染確率見積もりに関する分析について以下に述べる。

アンケート調査より、公共交通機関を一回利用した際の感染確率見積もりは平均で8.9%、中央値は5.0%という結果が得られた。

コロナを考慮して交通手段を変えた人にフォーカスして分析すると、平均値は21.2%、中央値は10%であった。

土木計画学研究委員会による同状況での感染確率試算方法を用いて推計される感染確率は0.038%であるため、人々の感染確率見積もりは実際の確率より高いと言える。

感染確率の見積もり分布

相関分析の結果より、年齢とアンケート実施時のコロナに対する不安度が高いほど感染確率を高く見積もる傾向にあることが分かった。

感染確率の見積もりと年齢、アンケート実施時のコロナ不安度の相関分析結果

重回帰分析の結果より、アンケート実施時のコロナに対する不安度が高い人、テレビニュースを参考情報源とする人、通勤通学手段が自家用車の人、自家用車を保有している人が感染確立を高く見積もる傾向にあることが分かった。一方、感染しても自分で治せると思っている人、男性、居住地が首都圏にある人は感染確率を低く見積もる傾向にあることが分かった。

重回帰分析の結果

次に、感染確率の試算値の伝え方の枠組み(フレーム)の差異が人々の不安度に与える影響について述べる。

今回は、感染確率の試算値をネガティブ群フレーム(○○%感染する)とポジティブ群フレーム(××%感染しない)として提示し、その差異が不安度に与える影響を検証した。

下図に示すように、ネガティブ群(A~D)とポジティブ群(A’~D’)を用意し、それぞれに5件法(5非常に感じる~3どちらでもない~1全く感じない)で回答をもらいその平均値を比較した。

AとA’(隣に感染者が座る)BとB’(友人等と利用する)の比較では、「感染しない(ポジティブ群)」と提示した方が、不安度が有意に低い。

フレームによる不安度の差

また全体的にポジティブ群の方が不安度が低かったため、不安度の緩和を求めるなら「感染しない」と提示した方が有効だと考えられる。

提言

調査結果や考察を踏まえ提案について述べる。

まず、コロナ感染者数から高速道路交通量を予測するモデルの構築を提案する。今回の調査では感染者数と高速道路交通量の間にはある程度関係があることが読み取れた。しかしデータ不足やアンケート回答者と高速道路利用者は違う可能性があるなど課題がある。そのためモデルの構築には

①今後発生しうる感染ピーク時の感染者数と不安度の相関の調査
②路線ごとに高速道路交通量を軽自動車や普通車に限定して再度集計
③県や市町村ごとの感染者数及び不安度、路線ごとの高速道路交通量の相関分析
④高速道路利用者を抽出した調査

が必要となる。

公共交通に関しては、試算を公開し電車利用が利益となる人の行動変容を狙い電車利用を復活させることを目的とした活動を提案する。しかしこの活動のためには通勤通学時に行動変容が望める人がどの程度いるのか調査する必要がある。またどのような形式での情報公開が効果的かつ現実的であるか、公開した情報が不安低減につながり感染回避行動の縮小を導かないか等が課題となっておりさらなる調査も必要となる。

謝辞/参考文献

実習全体を通してご協力いただいた皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。

  • 都市計画実習担当教員各位
  • プレアンケート調査にご協力いただいた谷口教授の研究室の方々
  • 本アンケート調査にご協力いただいたみなさま

最後に、お忙しい中演習時間外にも議論、分析のサポートやレジュメやスライドの改善へのご指導をしていただいた谷口綾子教授とTAの南手健太郎さんに心から感謝申し上げます。

参考文献は以下の通りです。

[1] NHK(2020)お盆休みの高速道路 交通事故半減 渋滞も大幅減 新型コロナ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200818/k10012571411000.html(最終閲覧2020年10月20日)

[2] NHK(2020)4連休の最終日 各地の高速道路で渋滞https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200922/k10012630071000.html(最終閲覧2020年11月9日)

[3] NHK(2020)お盆の新幹線や特急の利用者数
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200818/k10012572171000.html(最終閲覧2020年11月9日)

[4] Maogui Huら(2019): Transmission in Train Passengers,An Epidemiological and Modeling Study
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1057/5877944

[5] NHK(2020)新たに確認された感染者数(NHKまとめ)https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/(最終閲覧2020年11月2日)

[6] 川由 加理、池松 裕子(2011)我が国における術前不安の素因と影響要因および看護援助に関する文献考察、Journal of Japan Academy of Critical Care Nursing, 7(3), 43-50

[7] 稲益 智子ら(2018)日本人の感染症に対する脆弱性認識とリスク認知、Diss, 順天堂大学、科学技術振興機構

[8] 榊原 良太、大薗 博記(2020)日本における新型コロナウイルス感染症をめぐる心理・行動に関する調査―予防行動・将来の見通し・情報拡散に焦点を当てた検討(最終閲覧2020年11月21日)

[9] 岡本 真一郎(2008)感染症リスクの言語的コミュニケーション―不確実な表現の印象の比較―、日本心理学会第72回大会発表論文集、78

[10] Paul Slovic(1987): Perception of risk, Science, 236(4799), 280-285,
https://www.researchgate.net/publication/325954197_The_perception_of_risk

[11] 松井 裕子(2003)放射線のリスク・イメージと不安との関係─ 胸部レントゲン検査と原子力発電所の比較から─、Journal of the Institute of Nuclear Safety System, 10, 63-70.

[12] 柴田 宗典、内山 久雄(2008)観光旅行者の幹線交通機関選択における意思決定プロセスの分析、土木計画学研究・講演集, 37.

[13] 谷口 守、石田 東生、小川 博之、黒川 洗(1995)通勤・通学交通手段分担率の変化と都市特性の関連に関する基礎的研究、土木計画学研究・論文集、12, 443-451.

[14] 小平 裕和、日比野 直彦、森地 茂(2014)自動車を使用した観光行動の観光統計および交通統計の個票データを用いた時系列分析、土木学会論文集D3 (土木計画学), 70(5), I_423-I_432.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/70/5/70_I_423/_article/-char/ja/

[15]土木計画学研究委員会(2020)「新型コロナウイルスに関する行動・意識調査」の実施と結果報告(速報)
https://jsce-ip.org/2020/06/03/covid19-survey/(最終閲覧2020年11月9日)

[16] 国土交通省(2020)主要都市圏における高速道路・主要国道の主な区間の交通量増減
https://www.mlit.go.jp/road/road_fr4_000090.html(最終閲覧2020年11月9日)