【2022年度1班】TSUKUBUCKS WATER -筑波大生が自由に飲める水を-

演習/連携
2023-02-10

課題

背景

水分を摂取することは健康上非常に重要なことである。現在の筑波大学において、飲み物を持っていない状態でのどが渇いた時にとる行動は「我慢する」または「飲み物を購入する」かの2つである。ここで私たちは現在の筑波大学は自由で十分に水分を補給できる環境にあるのだろうかという疑問を抱いた。のどの渇きの我慢は健康に悪影響を及ぼす。また飲料の購入は学生にとって経済的な負担を与えるとともにペットボトルや缶のゴミによる環境負荷が問題である。筑波大学では食堂営業時間中のみに利用できるティーサーバー(給茶機)等はあるもののいつでも利用できる給水器として機能している給水設備はない。このような現状を踏まえて「健康」・「経済」・「環境」の問題を解決して、筑波大学でいつでも安全でおいしい飲料水を提供する給水設備として水筒等のマイボトルで利用するウォーターサーバー(以下WS)の導入に注目した。

図1 筑波大学における水分補給の現状

加えて名古屋工業大学の研究[1]によるとある病棟の休憩室にWSを設置したところ看護師たちの滞在時間や会話量が有意に増加し、アンケートでも66.7%の看護師の方々の会話が増加したとのことであった。 このコミュニケーションの誘発のような我々の班ではただ単にWSで飲料水を提供することにとどまらず、WS設置により生み出される新たな付加価値についても注目した。

目的

我々の本演習での目的は以下のとおりである

  • 筑波大学におけるWS設置の有用性を明らかにする
  • 付加価値を交えた筑波大学ならではのWSの設置方法を提案する

データ

事前調査

事前調査ではWS導入の前段階として、ヒアリング調査とアンケート調査を実施した。

ヒアリング調査

大学側に対して給水設備の設置状況やWS設置に関して大学側の方針などを把握するため学生生活課にヒアリング調査を実施した。

図2 ヒアリング調査概要
事前アンケート調査

学生側に対して学生の水分補給の現状とWSの需要の把握をするために筑波大生を対象にしたアンケートを実施した。

図3 事前アンケート調査概要

本調査

本調査では実際にWSを設置した上での実地調査に加えて、利用状況等を調査するためのアンケート調査、本格的な導入にあたってのプロセス等の把握のために他大学へのヒアリング調査を実施した。

実地調査

(設置概要)

 設置条件(電源と水道)を満たし、人が多い場所である3A103食堂にWSを設置して実地調査を行った。

図4 WS設置の様子
図5 WSの主な仕様

また今回の実験では筑波大学ならではのWSの運営を考えるという理由で、掲示板用ホワイトボードインスタントコーヒーなどのWSのお湯で利用できるオプション飲料設置を行った。掲示板には話題の提示としてW杯の優勝予想やWSについての自由記述コーナーを設置した。インスタントコーヒーなどの設置は、水以外の飲料が作れることの需要を測るために設置した。今回は無料での設置だが、本格導入の際は有料オプションとして利益を得るものとする。

図6 ホワイトボード設置の様子
図7 コーヒー等のオプション設置の様子

(調査概要)

 設置したWSとその付加価値について、以下のような項目について調査を実施した。(12月1日から16日の平日12:00,18:00に実施)

  • 利用回数カウンター 利用の際に1回押すことを促すポスターと共に設置(押さない人もいるため、多少正確ではない)
図8 回数カウンター
  • 流量計 WSの稼働に用いられた水の量を計測(ろ過に必要な流量も含むので実際の利用量は表示の1/2)
図9 流量計
  • 観察・利用者へのインタビュー 人の流れや利用方法を確認
図10 インタビュー・観察の様子
事後アンケート調査

学生が実際にWSとその付加価値を利用して、どのような意見を持ったか、本格導入するためには何が必要かを調べるために事後アンケート調査を行った。

図11 事後アンケート調査概要
ヒアリング調査

WSを全学的に導入する場合、ある程度の台数を確保する必要があるが、その時に国立大学で特に問題になってくるのは運営費と管理方法である。そこで既にWSを導入している国立大学である東京農工大学にヒアリング調査を実施した。加えてWS導入の結果、どのような影響があったのかについても大学と学生双方に調査を実施した。

図12 東京農工大学ヒアリング概要

分析

事前調査の分析

ヒアリング調査では大学側のWS設置への意向や給水設備の現状について調査し、設置にあたって考慮すべき点の整理を行った。アンケート調査では、学生の学内での水分補給の現状やWSの需要について調べ、WS導入の妥当性について議論した。

本調査の分析

実地調査の分析

カウンターからの利用回数や流量計からWSの需要やWSのもたらす経済、環境面の効果について検証した。付加価値の調査では、観察においてホワイトボードの書き込み上でコミュニケーションが発生したかについて検証した。またコーヒー等オプションの利用個数を計測し、その需要について検証した。

事後アンケート調査の分析

学生がWSの導入によって、得られた「健康」「経済」「環境」面の影響をアンケートから分析する。また利用しなかった学生にもアンケートを配布し、WSに対する学生の詳細なニーズを分析する。

ヒアリング調査の分析

東京農工大学へのヒアリング調査では、筑波大学への提案の際にコストや管理面といった考慮すべき問題について農工大の導入事例から参考にする。

結果

事前調査の結果・考察

ヒアリング調査の結果・考察

 学内に給水設備は存在しているものの、利用時間が限られているため新たにいつでも利用できるものが必要である。WS導入について大学側の意見は、全学での導入に関しては前向きに検討し、 導入にあたってのコストと学生のニーズに照らし合わせて予算を確保するとのことであった。よって設置の際にはコスト面について考慮する必要がある。また調査の過程で学内の管理が縦割り行政であることがWS導入の際に障壁となり、これを抑えた提案が必要になると感じた。

アンケート調査の結果・考察 

 筑波大生の水分摂取の現状について「経済」「環境」の面を見ていく。経済面について、図を見るとペットボトルの清涼飲料より水を買う方が無駄と感じる人が有意に多い。[t(263)=8.00,p<0.01] ペットボトルの水と清涼飲料では、水の方が購入に対してお金の無駄だと感じる傾向がある。

図13 ペットボトル飲料の購入について

また環境面についてマイボトルの利用を尋ねたところ、マイボトルをいつも利用している学生は約32%で利用率が低いことが分かった。最後に需要について、筑波大学内でWSが導入されたら利用したいかという質問に対して、約80%の学生がもしWSが導入されたら利用したいと考えていることが分かった。

以上のアンケート結果からWSには需要があることが分かる。加えてペットボトルの水をマイボトルでの調達に転換することで、プラスチックごみの削減と学生の経済的な負担を減らすことにつながると考えられる。

本調査の結果・考察

実地調査

以下の図はWSを設置していた期間の12/2~12/26までの利用流量と利用回数の累積のグラフである。初日から安定して利用量が増加しており一定の需要があることがわかる。16日間の計測では653回、約409ℓ(流量は濾過などに必要な量も考慮しているため実際の利用量は数値の1/2ほどである)の利用を確認した。この量は500mlペットボトル818本分に当たる。国産ペットボトル飲料水 500mLを自動販売機から購入し、空になったペットボトルをリサイクルする際の温室効果ガス[CO2]排出量は238.7gと算出される。今回の演習だけでも約195kgの温室効果ガス排出を防ぐことができたため、環境負荷の軽減に役立ったと言える。また学生にとってはこれだけの水を無料で入手することができ、経済的負担の軽減がなされた。 

図14 WS設置期間の利用について

付加価値について、まずコーヒー等のオプションについてだが、以下の利用状況を示した表より、利用者がいて需要があることが分かる。

図15 オプション飲料の消費について

またホワイトボードについて観察(画像参照)から利用があったことが確認でき、掲示板上でのWSの要望や活用方法で運営側と学生、投票で学生間のコミュニケーションが見られた。

図16 掲示板でのコミュニケーションの様子
図17 掲示板に集まる学生の様子
アンケート調査

まずWSを利用した学生の「健康」「経済」「環境」面における認識について見ていく。

以下のグラフからWSを利用した人がWSの利用によって水を飲む量が増えたと感じる傾向があることが分かり、WSに健康促進効果があることが分かる。

図18 WSの利用によって水の摂取量が増えたかについて

以下のグラフ、図表よりWSの利用によって金銭的メリットがあったと感じる学生が多く、WSを利用したいと感じた理由として「お金を節約できる」といった点があげられていることからWSに学生の経済的支援効果があると考えられる。

図19 WSによる経済的メリットについて

以下のグラフからWSの利用によって、以前よりペットボトルの利用が減少した、環境意識が高まったと感じる学生が多いことが分かる。これからWSに学生の環境意識向上効果があると考えられる。

図20 WSによる環境的メリットについて 

次にWSの存在を知っていながらも利用しなかった学生に向けたアンケートの結果を見る。利用しなかった理由として「場所がわからない・行きにくい」といった場所に関する問題点があり、改善することで利用率の向上が見込まれる。また「自分で持ってきた飲み物で十分だから」利用しなかった学生が多かった点は看過できないが、水分摂取量が増加する夏季などでは状況が変化すると考えられる。

図21 利用しなかった理由について
ヒアリング調査

 農工大におけるWSの運営について、農工大では「農工大プラスチック削減5Rキャンパス」と呼ばれる大学全体でプラスチックごみを削減するキャンペーンを実施している。コストに関しては大学運営費の一部で賄っており、ウォーターサーバーの導入・維持管理も全学規模で行っている。このような形での導入により、筑波大学でもコスト・管理の縦割り問題に対処できると考えられる。

 東京農工大学でもWSを導入したことによる学生の経済的支援と環境意識向上、大学内のプラスチックごみの減少といった効果が見られるとのことであった。しかし東京農工大学ではWS導入と同時に自販機でのペットボトル飲料販売を廃止しており、そのことによる不便さを述べる声もあるとのことであった。

提言

以上から筑波大学においてWSの設置が健康面・経済面・環境面において有用であることが確認できた。そこで以下のような形で筑波大学へのWSの導入を提案する。

  • コストや維持管理面での問題を解決するために、筑波大学で現在実施している「DESIGN THE FUTURE機構」によるSDGsを意識した教育や研究[2]の一環としてWSの設置・運営を全学的に行うことを提案する。SDGsの課題にはWSで改善可能なものがいくつもあるためWSの利用という学生を巻き込む形で、この機構での目標を達成に貢献できると考える。
図22 DESIGN THE FUTURE機構
  • より多くの学生が利用できるような設置台数と設置場所を以下のように考案した。しかし本演習では、時間の制約上これらの設置場所がWSの設置の適切さについて詳細に調査をすることができなかった。適正な設置場所の選定について、水道と電源というWS設置のための条件を満たす地点と人どおりが多く、需要のありそうな場所、自販機の位置関係などを照らし合わせて行う必要がある。
図23 設置場所の提案
  • WSと併せたコミュニケーションを生み出す掲示板の設置やコーヒー等のオプションの設置により魅力的な学内の空間を作りだす。

レファレンス

[1] 飯島幸奈, 須藤美音, 平岡翠. 病棟看護師を対象とした業務中の休息による疲労及びコミュニケーションへの影響. 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集. 2020,第8巻 性能検証・実態調査編, p185-188
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2020.8/0/2020.8_185/_article/-char/ja (最終閲覧:2022.12/18)

[2] 筑波大学EFFORTS OF UNIVERSITY OF TSUKUBA筑波大学の取り組み

https://www.osi.tsukuba.ac.jp/sdgs/effort(最終閲覧:2022.12/18)