課題
背景
今回の都市計画演習の授業で、我々6班のテーマは「つくばの都市計画史」です。 つくばという都市を都市計画という側面から考えたときに思いつくのは、 戦後開発された研究学園都市です。そこで、私たちはあえてつくばに学園都市と少し違う雰囲気を持つ集落があることに注目しました。それによって、昔からこの地に暮らしてきた人たちにとっての 「都市計画」とはどのようなものなのかを調べたいと思ったのです。 このような経緯から私たちは、谷田部という地域の調査を実施しました。 谷田部を選んだ理由の一つが、伊能忠敬によって描かれた地図(図1)です。
この中で、現在のつくば市のあるエリアの部分をよく見ると、「ヤタヘ」と記述されています。つまり現在でもつくば市に名前が残る谷田部という名の地域はこの時代には地域の中心地域であったことがわかります。この地域についての先行研究は以下の図2の通りです。
上のものは谷田部の商業について、歴史的な出来事が「にぎわい」にどう作用したかを詳細にまとめていて、下のものはつくば市で商業がどう変化したかを記しています。すでに行われている活動として、筑波大学藤田研究室によるr8ロゲイニングの活動があります。周辺市街地の理解が深まる取り組みとして谷田部でも行われています。私たちの班では、以下の図3のように調査を進めました。
結果
文献調査
谷田部はもともと地域の中心として、政治と商業の両方の機能を有していました。江戸時代には陣屋、明治時代には郡役所として中心となる施設があったことで行政の都市として様々な都市機能を引き寄せ、これらが集積していたことも分かっています。谷田部の発展は交通面の要因によるものが大きく、江戸時代に整備された街道などによって交通の結節点としての役割をもち、周辺地域との関係が深かったことが挙げられます。つくば市の誕生後も谷田部庁舎という現在のつくば市の分庁舎の一つがあり、この庁舎がつくば市合併から移転まで市役所であったことから当時は行政の都市としての側面が強かったことがわかります。しかし、研究学園都市の発展などで現在ではこのような中心的な機能は消失したといえます。このほかにも農業や商業の推移についても調べ、それらの結果から私たちは、以下のような経緯で現在の衰退が起こってしまったと仮説を立てました。まずは研究学園都市の建設です。これにあたり商業大規模な施設が台頭することとなりました。次にモータリゼーションです。古くからの商店街はモータリゼーションの社会に対応できないことが多く、谷田部でもこの側面は強かったのではないかと考えました。3つめとして行政機能の消失が商業機能に影響したと考えます。行政機能が徐々に無くなったことでまち全体としての衰退の加速の要因になったと考えます。最後に、北条など他のつくば市内の中心地域では主要都市とのつながりがありました。一方で谷田部にはそのような歴史があまりみられなかったことも衰退の要因の一つと考えます。
ヒアリング調査
これらの仮説をもとに商店街の今も営業しているお店の方に話を聞きました。文献調査などではわかりにくい地域の人からみた谷田部を知るため、事実だけでなく意見を答えてもらえるような項目を考え、ヒアリングを実施しました。高野屋商店の店主の方からは、商業の中心はみどりの駅に移動したように感じるとの意見がありました。商店街で閉店したお店の中には普通の住宅に建て替えたところもあるため、昔の商店街に戻ることはできないことや、高野屋商店さんの向かいにアパートが最近できて、住宅地になってきていることを教えて頂きました。また、谷田部の魅力については、お祭りなどのイベントのときには協力して積極的に参加する人が多く、行事がとても盛り上がることを挙げていました。 このエリアには、150年以上続く和菓子屋である玉川堂さんもあります。玉川堂のおばあちゃんからは、昔の商店街は通りに面するほぼ全ての建物がお店だったが、今は客足が遠のいていることを教えて頂きました。また、その場に居合わせた玉川堂のお客さんにも話を聞くことかができました。にぎやかだった時期は万博頃までで、おばあちゃんたちの子供世代(私たちから見ると親世代)がいなくなって、さびれていったそうです。それにより後継者不足で廃業するお店 が増え、商店街のお客さんが減ったようです。また、商店街は昔から車通りが多く、買い物客も車の利用が中心だったようです。
地図の比較
以下の画像のような地図を作成し、比較して調査しました。作成に際して使用した地図は1989年、1997年のゼンリン住宅地図、そしてgoogle mapです。比較した範囲は谷田部小学校などが存在する谷田部の中心地です。これらの地図を用いて、飲食店、商店、農地がどのように変化したのかを調査しました。まずは飲食店の変遷についてです。
1989年の地図から1997年の地図までの間には国道や県道沿いを中心に全体数が増加し、現在に至るまでには商店街地域で激減する一方、大通り沿道には新規の出店が見られます。続いて商店の比較です。
1989年から1997年の間では焦点の範囲が東西方向に拡大し、大通り沿道にも表れ始めたことが、現在にかけての期間では商店街地域で減少、県道沿いでは増加していることがよくわかります。1989年の商店はほとんど商店街中心部に立地していたことから、当時は商店街が賑わっていた谷田部の中心地域であったと考えられます。そこから現代にかけて、谷田部の賑わいが失われるのと同時に大通り沿いに賑わいの中心が変遷したことが読み取れました。最後に農地の比較です。
1989年は谷田部の大半が農地として利用されていたが、現在では大幅に減少したことが分かります。一方で谷田部川流域など新たな農地が生まれたことも読み取ることができました。
提案
地図を比較したことで谷田部は衰退しているということ、またヒアリング調査をしたことで谷田部の人は暖かく協力的であると気がつきました。よって私たちは谷田部を盛り上げるイベントを提案します。元来車通りの多い商店街ですが、人々に商店街を歩いてもらうことで活性化につながるのではないかと考えました。食事、買い物といったお金を使うイベントが発生するからです。まず、商店街観光の促進のために有名な店や史跡を記した視覚的にわかりやすいマップを作りました。
このマップの赤い道は千歳通りといい、谷田部商店街の中でも新しく道幅の広い道です。この道を中心として、以下のような具体的な商店街活性化の案を提案します。現在谷田部では地域交流を目的に年に一回秋にオータムフェアin谷田部を開催しています。今年は筑波大学の藤田教授の研究室のARを使った催しものや谷田部の文化をモチーフにしたプロジェクションマッピングなどを行ないました。ここから着想し、私たちは谷田部の千歳通りで開催する「谷田部 de マーケット」を提案します。これは、フィールドワークであった比較的車通りのすくない千歳通りで谷田部の野菜、つくば市の特産品、加工品を販売するイベントです。月2〜3回開催し、生産者と消費者が繋がれる場所を目指します。谷田部の商店街にあるお店やつくば各地の店を出店します。谷田部は昔、交通の結節点として栄えたという歴史があります。そして、千歳通りの周りには陣屋やつくば市庁舎があったことからも谷田部の中心となり、人を呼び寄せるポテンシャルを持っていると思います。谷田部 de マーケットの効果として以下のことが考えられます。つくば市や隣町からの訪問者が増加し、初めて訪れた人たちに谷田部という町を知ってもらえる機会になります。また、このマーケットで人と人、地域と地域のコミュニティーを形成する場になり、マーケット自体が新たな谷田部の魅力になりえます。以上のことを踏まえて、私たちは、この研究を通してあった「谷田部は衰退している」という現状を谷田部 de マーケットで食い止めることができるのではないかと考えます。
レファレンス
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つくいち. (2008). 参照先: つくいち: https://tsukuichi.jimdofree.com/つくいちって/
つくば市. (2018). 行政区別人口表. 参照先: つくば市: https://www.city.tsukuba.lg.jp/shisei/joho/jinkohyo/index.html
つくば市. (日付不明). 谷田部市街地の特徴. 参照先: つくば市: https://www.city.tsukuba.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/506/r2-yatabe.pdf
橋立多美. (2017年11月4日). 「にぎわい取り戻したい」合言葉 谷田部市街地でフェア 商店主や区長ら. 参照先: NEWSつくば: https://newstsukuba.jp/1545/04/11/
高橋裕美・朝廣和夫. (2014). 特別緑地保全地区と市民緑地における緑地保全活動と施策の運用について. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila/77/5/77_537/_pdf.
小口千明・高橋淳・上形智香・新宮千尋・中川 紗智. (2014). 茨城県つくば市谷田部市街にみる往年のにぎわい. 歴史地理学野外研究,16,63~97.
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