【2022年度4班】つくばキックボード TSUKUBA KICKBOARD
~あらたな交通手段の参入~

演習/連携
2023-02-10

背景・目的

 近年、電動キックボード及びそのシェアリングサービスが,欧米を中心に急速な拡大を遂げている[1]。日本でも実証実験が各地で行われていたり、道路交通法が改正されたりと電動キックボードの導入・普及に向けた動きが進んでいる。

本演習では、電動キックボードを導入する対象地域として筑波大学を挙げる。筑波大学は、広大な面積を持つ上坂道も多く、徒歩では時間・労力を要する。また、筑波大学とその周辺地域は学生が多いことから、電動キックボードを利用しやすい層が多いと考えられる。これらのことから筑波大学では電動キックボードの導入に適しているのではないかと考えた。

本演習では以下の2点を目的とする。

1)電動キックボードに対する筑波大学の学生・教員の安全面の意識、及び利用意向を把握する

2)筑波大学に電動キックボードシェアリングシステムを導入する上での事業者側の意向・課題を把握する

最終的には、利用者となる筑波大学の学生・教員、及び事業者側に受容される電動キックボードシェアリングシステムを考案することを目指す。

データ

本研究の流れは以下の通りである。

図1 研究の流れ

まず、法律や海外での導入事例、事故に関する文献の調査を行い、電動キックボードの導入状況や問題点などを把握し、実際に試乗体験を行った。

そして、試乗体験で得た感想や意見や疑問点を踏まえ、アンケート調査を筑波大学の学生・教職員にご協力いただいた。その後、upr株式会社様、関東鉄道様、学生生活課様へのヒアリング調査、同時にアンケート分析についても行い、目的である利用者となる筑波大学の学生・教員、及び事業者側に受容される電動キックボードシェアリングシステムを考案し、まとめをした。

ヒアリング調査

電動キックボードシェアリングサービス事業者や関連組織の態度を調査するためにヒアリングを実施することに決定した。以下の表1の調査対象にヒアリングの依頼を行った。表1中において、「バス路線運営会社   様」となっているのは、直接会社名を記載する許可を得られなかったためである。また、コロナ禍であることや演習の時間が短いこともあり、対面でのヒアリングが難しかった。そのため、図2のような対面でのヒアリングとメールでのヒアリングを使い分けることとなった。

表1 ヒアリング調査対象とヒアリング依頼結果

図2 対面でのヒアリングの様子

(c)以下の表がヒアリング質問項目とその回答である。表2がupr株式会社様、表3がバス路線運営会社様に対するものである。upr株式会社には、電動キックボードシェアリングサービスの導入検討を行っている理由やサービスの仕組み、合同定期券というアイデアなどについてヒアリングを行った。バス路線運営会社様には電動キックボードシェアリングサービス導入により受けると考えられる影響への賛否や理由についてヒアリングを行った。

表2 upr株式会社様へのヒアリング質問内容とその回答

  ヒアリング項目 ヒアリングの回答
1-1 電動キックボードの筑波大学内への導入への賛否 完全に賛成。
1-2 筑波大学への電動キックボード導入検討の理由 道路交通法の改正で電動キックボードの規制が緩和されるため。路線バス縮小のために失われてしまう学生の足を補い快適な生活を送ってもらうため。すでに筑波大学ではカーシェアの導入がされているため。
1-3 筑波大学内に電動キックボードを導入することによるメリット、デメリット メリット:筑波大学関係者の生活の利便性向上、他大学も導入を検討してくれるかもしれないこと。
デメリット:安全性の問題で会社がリスクを背負うことになること。
1-4 筑波大学内への導入に際する懸念点 主な懸念点は安全性についてで、導入の際には利用者向けに講習会を開きたいと考えている。
1-5 筑波大学内への導入に際する規制 速度制限は6㎞で考えているが、学生の声なども参考に検討していきたい。
ヘルメットの着用は会社としては強く推奨したい。(サブスク利用者には何らかの形でヘルメットを提供できるようにしたい。)
1-6 利用ルールを順守させる方法 企業としては啓蒙活動しかできないため、安全講習を開くなどでルールの徹底を呼び掛けることを考えている。
1-7 電動キックボードの車道走行を順守させる方法 歩道、車道をGPSで区別するのは難しいが、車道モード、歩道モードで点灯するライトの色を変えて警察が一目で違反を確認できるようにはなっている。
1-8 利用者の対象年齢 ポートの設置場所が大学内に限られている場合、利用者は18歳以上ではないかと推測している。16歳、17歳の利用はあまり想定していない。まだ深く検討していない。
2-1 ポートの位置。つくば駅にポートを設置するのか否か ポートに充電設備は置かない予定で、現在の駐輪場と同じ位置への設置を考えている。また、シェアカーの近くにポートを設置することで双方の利用促進にもつながるのではないかと考えている。
2-2 利用料金 サブスクではない利用者に対しては、50円の基本料金に加えて1分ごとに15円の価格設定を考えている。月額のサブスクはバスの通学定期(学生と教員向けの定期券ではなく通常の定期券のこと)よりも安い価格設定を考えている
2-3 利用方法 利用者が好きな時間に利用できるシステムを考えている。
2-4 需要の変化に対する対策 カーシェアでは夏休みに割引キャンペーンを行ったところ、5%であった稼働率が40%まで増加した車種もあった。同様のキャンペーンを電動キックボードにも適応出来るとよい。また、大学での需要が少ない時期(夏休み、冬休み)には観光地での需要は増加すると考えられるので、車体を観光地に移動させることで需要と供給のバランスを保つことも考えている。また、電動キックボードを車両ごと貸して、シェアカーと一緒に旅行で利用してもらうことも考えている。
2-5 バッテリーの交換方法 ポートに充電施設は作らずに、人が循環してバッテリーを交換する。
2-6 維持管理方法 メンテナンス会員を募集して車両のメンテンナンスを行ってもらう代わりに、シェアカーに使えるクーポンを配布する。ほかに、車両数が足りていないポートにキックボードを移動してもらう代わりにクーポンを配布するなどの仕組みを考えている
2-7 事故が発生した場合の対応 幹線道路では走行を制限することや、事故が多い場所では注意喚起するような仕組みを考えている。事故後の第一報(救急、警察、保険会社)の後の事故処理は会社が行うことになる。(利用料金に対物保険料金を含める予定)
3-1 学内バスやカーシェアとの合同定期券に対する考え 合同定期券についてはアイデアを持っていなかったが、他の交通手段と提携することで自治体からの補助金が得られる可能性もあり、関東鉄道バスとも話し合いを実施したい。電動キックボードの導入姿勢には変化はない。
3-2 他の交通機関との連携 特に考えていなかった。
4-1 アンケートに追加してほしい項目 クレジットカード決済のみの場合、利用しない人はどれくらいいるのか?
ポートを設置してほしい場所はどこか(より細かく)
今の価格設定を学生は高いと感じるか

表3 バス路線運営会社様へのヒアリング質問内容とその回答

現状のバス定期券19000円/年を堅持すると仮定 7件法での回答 7件法での回答の理由
A.以下、筑波大学内のみへの電動キックボードシェアリングサービスの導入を想定    
A-1 電動キックボードシェアリングサービス導入への賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 電動キックボードは気軽に乗れるのでシェアサービスの試みは面白いと思う.バス会社としては、乗客がながれてしまうとか車道走行時の支障になるといった懸念がある.
  a 学内バス定期券の購入が任意(現状と同様)の場合    
  A-a-1-2 シェアリングサービス導入への賛否(7件法)と理由 4=どちらでもない 理由 A-1と同様
  A-a-1-3 晴れの日は学内バス、雨の日はシェアリングサービスという使い分けに対する賛否(7件法)とその理由 5=やや賛成だ 理由 個人の便宜を図る上で使い分け利用はあり
  A-a-1-4 合同定期券導入に対する賛否(7件法)とその理由 2=反対だ 理由 合同定期券という試みは面白い.バス会社とシェアサービスとの収入配分はどうするのか,特殊な定期券を出すうえで,大学側の補填はこれまで以上に出せるのかなどの問題あり
  b 学内バス定期券を学生全員が購入する場合    
  A-b-1-2 シェアリングサービス導入への賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 aの質問と同様
  A-b-1-3 晴れの日は学内バス、雨の日はシェアリングサービスという使い分けに対する賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 バス定期券を持っているのであれば,別途お金がかかるシェアサービスは普及しないのではないか
  A-b-1-4 合同定期券導入に対する賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 定期券の利用が多いに越したことはないが,収入配分の問題などがある
       
B.以下、筑波大学内とつくば駅への電動キックボードシェアリングサービスの導入を想定    
B-1 電動キックボードシェアリングサービス導入への賛否とその理由 4=どちらでもない 理由 キックボードシェアはラストワンマイル移動には向いているが、つくば駅⇔筑波大のような大人数の移動があり交通手段がある場所では利用促進できるのか
  a 学内バス定期券の購入が任意の場合    
  B-a-1-2 シェアリングサービス導入への賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 Aの質問と同様
  B-a-1-3 晴れの日は学内バス、雨の日はシェアリングサービスという使い分けに対する賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 Aの質問と同様
  B-a-1-4 合同定期券導入に対する賛否(7件法)とその理由 2=反対だ  
  b 学内バス定期券を学生全員が購入する場合    
  B-b-1-2 シェアリングサービス導入への賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 Aの質問と同様
  B-b-1-3 晴れの日は学内バス、雨の日はシェアリングサービスという使い分けに対する賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 Aの質問と同様
  B-b-1-4 合同定期券導入に対する賛否(7件法)とその理由 4=どちらでもない 理由 Aの質問と同様
       
1-5 車道上を走行する電動キックボードへの恐怖感(7件法)とその理由 1=とても恐ろしい 理由 自転車をやり過ごすことすら気を使うため,茨城県下ではまだ珍しい電動キックボートはなお気を使う

d)upr株式会社様とバス路線運営会社様の回答を比較した時に、電動キックボード利用上の安全面に対する危機意識の差があることが分かる。upr株式会社様は基本的に啓蒙活動を行うこととしているが、バス路線運営会社様は電動キックボード利用者の走行を懸念しており、啓蒙活動のみで不安を払拭することができるのかの問題がある。このことから、upr株式会社様は啓蒙活動とは異なる、利用者の走行へのより直接的なアプローチが必要であると考えられる。また、バス路線運営会社様が合同定期券の収入配分に関して不安に感じている一方、upr株式会社はこれから検討を行う段階であり、合同定期券への態度の差が見て取れる。

学生生活課ヒアリング結果

表4 学生生活課ヒアリング調査項目

学生生活課には表3にあるように主に4つの項目からヒアリング調査を行った。電動キックボードシェアリングサービスの導入については、現状学生活課で検討していないため賛成も反対もしていないが、電動キックボードがペデストリアンデッキを走行することについては賛成しかねている。電動キックボードを導入するうえでの懸念事項としては、安全性の確保と少なくとも車道を安全に走行できるという社会的イメージの確保としている。アンケート調査にも過半数の方が車道を走行する電動キックボードが怖いと感じているため、電動キックボードが安全だという社会的イメージが確保できたら、導入に近づくのではないかとしている。また電動キックボードが導入されるようであれば、ファーストイヤーセミナーでの講義や別の講習会を開催し、ルール周知を行う必要があるのではないかとしている。

アンケート調査

アンケート概要・調査項目

本演習では、筑波大学の学生・教職員の方に対してアンケート調査を実施した。概要、調査項目に関しては表4、表5の通りである。ただし、回答者の属性(学類や年齢)の割合は実際とは異なるため、母集団代表性は担保されているとは言えない[3] [4]

表5 アンケート概要

表6 アンケート調査項目

アンケート集計結果

以降では、アンケート調査の集計結果を一部示す。

図3 賛否意識と利用意向

図3は電動キックボードの賛否意識と利用意向についての結果を表しており、回答者は導入については過半数が賛成寄り​であり、導入された際は43.7%がどちらかといえば利用したいという結果となった。

図4 合同定期券について

図4は合同定期券についての利用意向のアンケート結果を表しており、どちらかといえば利用したいという回答が約6割を占めるという結果となった。

アンケート結果の分析

筑波大学における電動キックボードシェアリングサービスは学生等に必要とされるサービスとなるのか調べるために、簡略化したBI法[5]を用いた需要予測を行った。回答者が実際に電動キックボードを利用する意図実行確率を推定し、需要予測について加重平均を計算した。アンケートにおけるサービスを利用したい曜日・時間についての回答を以降の需要予測にて用いる。

表7 利用者の交通手段毎の利用意向(7件法)の平均

表6は、アンケート回答者を現在の交通手段ごとに分け利用意向の平均値を算出したものであり、7に近いほど利用意向が高い。この結果から実際に電動キックボードへ転換する確率が高いと推測される利用者の交通手段は、高い順に徒歩、学内バス、同率で自動車、自転車と仮定した。これを踏まえ、意図実行確率を3通り仮定する(表7)。

表8 意図実行確率の仮定

表8では、利用希望者1人当たりの利用回数を推定した結果を示す。この結果より、徒歩・学内バスから電動キックボードへ転換する回数は他の交通手段と比べて高いと分かる。表9では筑波大学の学生の利用人数を推定した結果を示す。この結果から、厳しい条件でも利用人数は571人存在すると推定される。

表9 利用希望者1人当たりの利用回数

表10 筑波大学生の利用人数の需要予測

また、筑波大学内に電動キックボードシェアリングサービス導入した後の利用意向に関係する規定因を求めるためSPSSを用いてt検定、相関分析、重回帰分析を行った。
t検定、相関分析の結果から利用意向と関係のある要素を抜き出し、それらを説明変数として重回帰分析を行った。

図5 電動キックボードシェアリングサービス導入後の利用意向に関する重回帰分析(強制投入法,n=206)

重回帰分析の結果を表11に示す。表より電動キックボードの導入に賛成であり,大学に実家から通っており,電動キックボードの扱いが簡単だと思っている人程,電動キックボードシェアリングサービスの利用意向が有意に高いことが示された。

結果 

調査の結果をまとめると以下のようになる。 

①関連企業については、UPR様は導入に対して熱心だが、関東鉄道様には不都合となる可能性がある。 

②利用意向については、一定数の需要が確認された。試乗会も効果的であると考えられる。 

③安全面については、導入に不安を感じる人も少なくないため、安全講習を行う必要がある。 

 また、アンケートの回答より、利用者の傾向としてまずキックボードの導入に賛成していること、天気による使い分けが予測されること、バスを使う人ほどキックボードを使いたいこと、サブスクリプションへの需要が一定数確認された。これを踏まえ、以下のサービスを提案する。 

提言 

バス・カーシェア・電動キックボードシェアリングを一括で検索・予約・決済できる合同定期券を提案する。ヒアリング結果などから、導入において事業者に不利益のないようにするには、この合同定期券を学生全員が購入することを前提とすべきだと考える。合同定期券とすることで利用者や交通事業者が互いに意見交換をし、不利益のないように協力し合い、利用者・事業者全体が有益となると良いと考える。つくば駅から筑波大学までのエリアを対象とし、入会金や会費などの基本料金を通常よりも安く設定する。ポート位置は需要が高かったつくばセンター、中央図書館をはじめとした複数箇所に設置し、乗り捨てを可能にする。他に、利用促進のためのクーポンの配布や安全講習、試乗体験の開催を行うサービスを提案する。 

謝辞 

本演習においてご協力いただいたupr株式会社 坂本様 松山様、関東鉄道株式会社 藤崎様、学生生活課 及川様 谷本様 に深く感謝申し上げます。 

参考文献  

[1] iMOVE「2020年 先進各国の電動モビリティへの取り組み」最終閲覧2022/10/16​ 

https://emobilife.jp/kickborad/rule/2020emobideveropedcountries/

[2]警察庁:国会提出法案 参考資料,最終閲覧2022/10/13    

https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/05_sankoushiryou.pdf

[3]学生数月別調,最終閲覧2022/12/12 

https://www.tsukuba.ac.jp/about/disclosure-education/pdf/genin.pdf

[4]筑波大学キャンパスマップ,最終閲覧2022/12/12 

https://www.tsukuba.ac.jp/campuslife/support-campus/pdf/campusmap.pdf,p2

[5]藤井聡:行動意図法(BI法)による交通需要予測の検証と精緻化,土木学会誌,2004, 

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/wp- content/uploads/2013/09/bikensyo.pdf