【2023年度1班】もう授業には遅れたくない…!!〜⼤学循環バスによる遅刻者を減らす取り組み〜

演習/連携
2024-06-01

背景・目的

 朝の混雑時間帯の大学循環バスにおいて、慢性的に混雑や渋滞による大幅な遅延が発生しており、乗客に不便を生じさせている。実際に班員もその遅延によって授業の遅刻などの問題に直面したことがある。そこで、バスの遅延時間を削減する改善案を多角的に提案することを目指した。

使用データ

①現地調査によるデータ

遅延時間の実態を把握するために、筑波大学循環バス右回りが通る各バス停(春日エリア前~第3エリア前)で乗降者数、停車時間、遅延時間の計測を行った。混雑・遅延の発生する朝の時間帯と混雑・遅延があまり見られない昼の時間帯のバスを調査した。調査を行った日時は以下のとおりである。(時間はつくばセンターの発車時間)

・2023/11/16  午前8時発、午前8時10分発、午後1時20分発

・2023/11/20  午前8時発、午前8時10分発、午後1時20分発

②GPSデータ

・2021年4月におけるGPSデータ(Androidユーザー)

現状把握

・乗降者数

バス発車時刻ごとの各バス停での乗降者人数を示したものが図1である。
このグラフから第三エリア前や第一エリア前での乗降者数が多いこと、朝の時間に利用者が多いことが分かる。

図1 バス発車時刻ごとの乗降車人数

・遅延時間の実態

遅延がどの時点で発生しているか調べるために、11月16日と11月20日の8時発と13時20分発のバスのデータを比較し、移動距離と時間の関係をグラフを図2に表した。

図2 バスの移動距離と時間

グラフから第三エリア前バス停では約10分の遅延が発生していて、筑波大学附属病院前バス停に到着した時点で大きな遅延が発生していることがわかる。

同日の二種類の時間帯のバスの発着時間を比べ、渋滞による遅延と乗り降りによる遅延時間を算出した。図3は第三エリア前バス停までかかる時間を走行時間と乗り降りによる停車時間の二つに分類して表したグラフである。かかる時間の内訳の変化を見ると、走行時間の変化が大きいことから渋滞による遅延が大きいことがわかった。また、11月16日のデータから、乗り降りによる遅延が約3分発生していたので渋滞に対する改善だけでなく乗り降りの改善も必要だと考えた。

図3 第三エリア前バス停までかかる時間の内訳

・乗降車における遅延発生の実態

最後に、混雑時か否かで違いが良く見られた11/16つくばセンター8:00発と13:20発のバスの一人当たりの降車時間の分析結果を示す。(図4) 8:00発のバスについては、駅から離れているバス停ほど降車時間が長いことが明らかになった。また、13:20発のバスにおける降車時間はメディカルセンター前で最も時間がかかっていることが分かった。

両バスにおける一人当たりの降車時間と降車人数の関係性も比較した。(図5、図6) 8:00発のバスについては、降車人数が同じであったメディカルセンター前と平砂学生宿舎前の両バス停において降車時間に大きな差が生じていることが読み取れ、先着するバス停ほど降車に時間を要することが推測できる。一方で、13:20発ではバス停による降車時間の差が小さいことからも、車内が混雑しているほど降車時間を要することが読み取れる。

図5 降車人数と降車時間の関係(8:00)
図6 降車人数と降車時間の関係(13:20)

・アンケート調査

 大学の主な活動場所、大学循環バスの利用頻度、大学循環バスに対する不満点とその内容、不満点を感じる時間帯などをアンケートによって調べた。主な活動場所と循環バスの満足度の「不満」「やや不満」(以降「不満割合」と呼ぶ)を答えた割合の関係に着目すると、第3エリアで活動する人たちの不満割合は50%、第1エリアで活動する人たちの不満割合は37.5%であった。遠いバス停のほうが不満の割合が高いのではないかと推測できる。次に不満点を感じる時間帯は、不満点に関係なく朝と夕方の割合が高かった。通勤、通学で不満を持つ人の割合が高いのではないかと考察できる。(図6)

図6 不満点別の不満を感じる時間帯の割合

解決策の提案

 大学循環バスの遅延の解決策として二つを提案する。一つ目は、大学循環バスのルート変更を提案する。二つ目は、バスの乗り方改善による乗降時間の短縮を提案する。

<ルート変更>

 ルート変更については二つの案を提案する。案1として現右回りルートの渋滞を回避し大学病院への移動需要をも満たすことができる新しい右回りのルートを提案する。つくばセンターから大学病院までの移動需要が存在していることと、大学病院までで大きな遅延が発生していることから、つくばセンターと大学病院の間をルート変更を検討する。そこで朝のつくばセンターと大学病院間のGPSデータ(2021年4月の八時台のAndroidユーザーが対象)の分析とバスが通る交差点の交通量を把握するために図7を作成した。図7から、旧ルートよりもGPSが少ない場所を発見することができた。

図7 朝の道路の混雑状況

また新旧ルートにある交差点で断面交通量を測ったところ新ルートは15台/分、旧ルートは8台/分と、新ルートの方が速く交差点を通過することができ、バスルートとしてのに適しているのではないかと考えられる。実際に新ルートを走行したところ、旧ルートと比べて3分15秒時間を短縮することができた。
そのときの車両の速度を実際に測定しQGISで可視化した。 (図8)

図8 通常ルートと新ルートの走行速度の分布

通常ルートは混雑により大学通りで速度が低下していることが分かる。新ルートでも速度低下は見られるが、松見通りの二つの信号がありその信号の影響もあると考えられる。全体的にみると新ルートは旧ルートより速く走行できる区間が長かった。

 調査から大学病院までの移動需要の存在、大学病院まででの大きな遅延があることから、新しいルートを見つけ出して、走行時間が短縮されることが分かった。よって図9のルートを提案する。

図9 提案ルート

 案2は一の矢方面短縮ルートである。

 この提案の目的は 7 時台のつくばセンター発(左回り)のバスルートの一の矢方面を短縮し、ダイヤの回転率向上で1限の授業に間に合うバスの本数を増やすということである。分析する内容は現地調査による乗降者数、バスの定時性である。しかし、デメリットとして虹の広場、農林技術センター、一の矢学生宿舎前、大学植物見本前の4つのバス停を通らない点が挙げられる。

現地調査より、一の矢宿舎周辺のバス停は留学生の利用者が多く需要があることがわかった。また、一の矢宿舎前のバス停に到着する時点で遅延が発生していることからバスがつくばセンターまで戻る時間を考慮すると 1 限の授業に間に合うバスの増便は難しいという結論に至った。

<バスの乗り方改善>

Multi agent simulation (MAS) を用いてバス車内での乗客の動きをシミュレーションし、各方策の効果を分析する。今回は、 (案1)乗客の車内位置誘導  (案2)IC化の促進  (案3)前乗り後ろ降り の三つの対策案を検討する。なお、各分析において同一条件下で20回ずつシミュレーションを行い、その平均値を結果として用いた。

今回構築したモデルはエージェントが行動する場所である「空間」と、ルールに基づいて行動する2種類のエージェントによって構成されている。本モデルでは「空間」はバス車内をモデリングしたものであり、エージェントはバスの乗客をモデリングしたものである。シミュレーションの結果として乗客が降車するまでにかかった時間と、一人当たりの降車所要時間を出力する。モデルの概要は図10のとおりである。

図10 バス内の移動シミュレーションモデル概要

本シミュレーションでは、2.5m × 10.5m の一般的な路線バスの車内をモデル化した。(図11) バスの前方中央に「支払い機」を配置し、その左側に「降車口」として前方扉を配置した。また、エージェント(乗客)の初期配置場所として空間内に「座席」と「立ち乗車」を配置した(図中の赤点)。エージェントは「座席」に優先的に配置され、満席になった場合は残りの乗客を「立ち乗車」に配置する。

図11 バス内の移動シミュレーション配置図

シミュレーションの初めに、配置されたエージェント(乗客)から、指定した数の降車するエージェントをランダムに選択する。選択されたエージェントはまず支払い機に向かい、そこで一定時間停止したのちに降車口へ進み降車する(シミュレーションから消滅する)。本シミュレーションには「IC支払い客」と「現金支払い客」の2種類のエージェントが存在し、それぞれ支払い機での停止時間(運賃の支払いにかかる時間を表す)が異なる。

エージェントが移動する際、進行方向の一定範囲内にいるほかのエージェントの数に応じて速度が変化するように設定した(図12)。これは、混雑する車内では乗客の歩行速度が低下することをモデルで表現するためである。

図12 シミュレーションエージェントの動き

シミュレーションを始めるにあたって、構築したモデルがどれだけ実際の現象を表現できているかを確かめるため、実データとの比較を行った。図13がその結果である。それぞれの分布はおおむね一致し、このモデルは妥当なものであるといえる。

図13 シミュレーションと実際の現象の比較

バスの乗り方改善ではまず、乗客の車内位置誘導の提案を行った。本提案では先に到着するバス停の利用客をバス前方に寄せることで降車時の車内移動距離を短縮し、降車所要時間の短縮を図るものである。降車人数(3人/8人/20人)と車内人数(10人/30人/50人)の各組合せ(以下の分析でも同様)においてそれぞれ誘導の指示に従う割合を0%, 33%, 67%, 100%に変化させて20回ずつシミュレーションを行った。20回の平均値は図14のようになった。いずれの降車人数でも車内の乗客数が多いほど大きな時間短縮効果がみられる。最大で60秒程度の短縮が可能であるが、乗客の従う意思等を考慮すると20秒程度の短縮が現実的かと思われる。

図14 バス内における移動のシミュレーション結果

つぎに、IC化の促進の提案を行った。この提案ではIC支払い客の割合を高めることで料金支払いにかかる時間の短縮を図る。IC化率を90%(現状), 100%に変化させて20回ずつシミュレーションを行った平均値は図15のようになった。降車乗客数が多いときには10秒程度の時間短縮効果が期待できる。

図15 IC化した際のシミュレーション結果

最後に、前乗り後ろ降りの提案を行った。この提案では降車位置を前方扉から車両中央部にある後方扉に変更することで降車時の平均的な車内移動距離を短縮し、降車所要時間の短縮を図る。前降りの場合と後ろ降りの場合で20回ずつシミュレーションを行った平均値は図16のようになった。車内の乗客数が少ないときに大きな時間短縮効果がみられる。全体では25秒程度の時間短縮が見込める。

図16 前乗り後ろ降りのシミュレーション結果

れぞれの案の効果を比較すると、案1(乗客の車内位置誘導)、案3(前乗り後ろ降り)では比較的大きな時間短縮が見込めるが、案2(IC化の促進)の効果は比較的小さくとどまる。また、実装可能性については、案1はポスター掲示等により比較的容易に実行に移すことができると考えられるが、案2・3は料金体系や料金支払い設備の見直しが必要不可欠であり、直ちに実行に移すのは困難に思われる。

まとめ

利用者数の多い朝の大学循環バスの遅延を減らすことを目的に今回の実習に取り組んだ。
現地に赴いて採取したデータや位置情報データ、シミュレーションソフトを駆使して解決策を考えた結果、大学循環バスの渋滞を回避するために新規ルートに変更することと、利用者の乗車位置を変更できるよう誘導することが解決策として一定の効果が見られた。
これによってバスの遅延の抑制が期待され、利用者により高い利便性を提供することができるようになると考えられる。

後記

今回の研究を行う上で、グループワークにおいてメンバーと協力することや役割分担を行なって研究を進めていくことの大切さ、また論理的な道筋を立てて研究を行っていく必要性の重要さについて学んだ。
今後の研究でも今回の研究でTAの方や先生方から多く指摘された、論理的かどうかという点などを意識しながら研究を行なっていこうと思う。