栄養素を考慮して効用を最大になるような給食の献立作成

演習/連携
2022-11-27

1.はじめに

 世界では、飢餓による問題が深刻になっている。貧困や紛争など様々な要因で食糧が得られず、栄養不良などを起こしている人がたくさんいる。その一方で生産された食糧を消費しきれず廃棄せざるを得ない「食品ロス」も国や地域によっては起こり、問題視されている。

 平成28年度日本の農林水産省・環境省推計により、日本の食品廃棄物等は年間2,759万トン、そのうち食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間643万トンと推計され、日本の人口1人当たりの食品ロス量は年間約51キログラムである。

 食品ロスが起こる大きな理由の一つは食べ残しと思われている。食品ロスを減らすため、一人ひとりが取り組むことで、大きな削減になれる。そして、自分たちが小学生だったとき給食の食べ残しが多いという記憶が残っているので、食べ残しを減らすように最適化モデルで小学校の給食献立を作成することで食品ロスの問題を緩和しようと思っている。

2.研究の目的

 以上の背景を踏まえ、本研究の目的は給食の食べ残しを減らすため、栄養均等の小学校給食献立を作成することである。

 まず、「平成22年度児童生徒の食生活実態調査【食生活実態調査編】」(独立行政法人日本スポーツ振興センター)及び本モデル事業報告書等より、学校給食の食べ残しが発生する理由は「量が多すぎる」、「給食時間が短い」、「嫌いなものがある」などがある。以上をまとめて考えると、生徒が学校の給食料理について効用(満足度)低いことは食べ残しの主な理由だと考えている。そうすると、 生徒が料理についての効用(満足度)を高くすれば、食べ残しの問題を改善できると考えられた。

 同時に、文部科学省「学校給食実施基準」により、定められた栄養量を摂取し、多様な食品を適切に組み合わせて様々な食に触れられるようにする要望もある。

3.モデル化とプログラムの説明

 制約条件を満足した上で、生徒の(効用)満足度が最大となる2週間分の学校給食献立を生成するため、以下の最適化モデルを作成する。

 食べ残しを削減するため、最適化モデルの目的は生徒の(効用)満足度を最大化することを設定する。定められた栄養量を摂取し、多様な食品を適切に組み合わせて様々な食に触れられるようにするため、以下の制約条件が考えられた。

1)主な栄養素の推奨摂取範囲を満たす

 毎食の給食料理の栄養素は学校給食摂取基準で定められた各栄養量の摂取下限と上限内に設定する。

2)同じ料理は2度出さないようにする

 様々な食に触れられるようにするため、2週間で主食と飲み物以外の料理は2度出さないようにする。或いは、設定された種料理では、主食と飲み物以外、同じ料理が2回選ばれることができないようにする。

3)各献立は主食、主菜、副菜(2種)、飲み物、デザートから構成

 毎食で多様な食品を適切に組み合わせるため、毎食の給食食事で主食(ご飯、パン、ソフト麺)、主菜、副菜(スープ系)、副菜(サラダ系)、飲み物からそれぞれ1つずつ選択する。デザートは週一回出すようにする。毎食の飲み物として牛乳を必ずつける。

4)食べ合わせの悪い料理を同時に出さないようにする

 毎食の主食と食べ合わせいい主菜と副菜を選択する。例えば、主食がご飯の場合、ご飯との相性のいい焼き餃子は一緒に組み合わせることができるが、主食がパンだった場合は焼き餃子との相性が悪いので、一緒には出さないようにする。

5)各献立の和洋中を統一する

 設定した全ての料理を和洋中に区別して、その日の献立が和食か洋食か中華料理で統一されるようにする。

以上目的を目的関数に、制約条件を制約式にし、最適化モデルを作成する。MOSEL言語ソロバーXPRESSを用いて最適化モデルの式とデータを入力し、最適な解(2週間の献立)を解く。

4. データについて

1)料理データ

 日立市の小学校の実際の献立から85種の料理が選ばれた。

2)栄養価データ

 栄養管理サイトEatSmartから抽出された料理が含む各栄養価のデータを引用した。

3)栄養価の推奨摂取量

 文部科学省「学校給食実施基準」に基づき、10~11歳の子供が一食で各栄養素基準を少し緩和して主な11種の栄養素(エネルギー、タンパク質、脂質、カルシウム、マグネシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、食物繊維)の摂取量範囲を設定する。

4)料理の効用

 日立市立滑川小学校の4、5年生を対象としたアンケート調査を実施し、調査結果に基づき、抽出された85種料理の効用(満足度)が得られる。

5)主食との相性と和洋中データ

 自分たちの主観で作成した。

5. 計算機実験の結果と考察

 以上のモデルとデータを用い、XPRESSで解かれた結果は以下の2週間平日(10日間)の献立が得られた。

1週間目の献立主食、主菜、副菜(スープ系)、副菜(サラダ系)、飲み物、(デザート)
1日目パン、ポークビーンズ、オニオンスープ、シーフードサラダ、牛乳
2日目パン、ソーセージ、野菜スープ、ジャーマンポテト、牛乳
3日目ご飯、ジャガイモと鶏肉の旨煮、豚汁、切り干し大根、牛乳
4日目ご飯、かぼちゃの天ぷら、すいとん汁、海藻サラダ、牛乳
5日目ご飯、コロッケ和、大根の味噌汁、ひじき豆、牛乳、冷凍みかん
2週間目の献立主食、主菜、副菜(スープ系)、副菜(サラダ系)、飲み物、(デザート)
1日目ご飯、餃子、ワンタンスープ、中華風春雨サラダ、牛乳
2日目ご飯、ちくわの磯辺上げ、さつま汁、ごぼうのサラダ、牛乳
3日目ご飯、肉じゃが、わかめの味噌汁、粉吹き芋、牛乳
4日目ご飯、麻婆豆腐、わかめスープ、ほうれん草のナムル、牛乳、オレンジゼリー
5日目ご飯、和風ハンバーグ、キャベツの味噌汁、金平ごぼう、牛乳

以下は、最適化された2週間の献立の各栄養素の平均と、実際の献立(日立市の小学校の一ヶ月献立​) の各栄養素の平均を比べる結果である。

栄養素​実際の献立最適化された献立​
エネルギー(kcal)​654807
たんぱく質(g)​26.229.8
脂質(g)​21.128.5
カルシウム(mg)​350447
マグネシウム(mg)​82137
鉄(mg)​2.53
ビタミンA(μg)​473262
ビタミンB1(mg)​0.590.7
ビタミンB2(mg)​0.550.6
ビタミンC(mg)​2934
食物繊維(g)​2.47

解かれた結果により、栄養価やバランスをしっかり考えた上で、より効用(満足度)の高い献立を作成することができた。実際の献立の栄養価よりちょっと高めになったが、全て摂取範囲以内になった。

 今回の結果では、主食はご飯とパン2種のみが選ばれたことになってしまったので、今後は主食の多様化の保ちも検討しようとしている。そして、違和感のある組み合わせ(粉吹き芋と肉じゃがなど) ができたので、今後も違和感がある組み合わせを避けるようにすることを検討する。

6. おわりに

 本研究では、食品ロースの主な原因の一つである食べ残しについて、実際小学校の給食食事料理を参考し、食べ残しを削減するため、最適化モデルで、生徒の効用(満足度)を最大とするな2週間の栄養均等の献立を作成した。結果により、実際の献立と比べると、各栄養価が少し高くなっているが、生徒の効用を最大化する同時に、摂取範囲以内の各栄養価が高くなれば良いと考えられている。

今後も課題として、主食がご飯とパンのみにならないように、ソフト麺も献立に含まれるような制約を追加する。そして、コストも考えた上で献立を考えるや、主菜と副菜両方とも炭水化物にならないような制約条件を加えるなども考えている。

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