課題
背景
新型コロナウイルスは大学生にも大きな影響を与えた(朝日新聞、2020)。授業のオンライン化、大学の入構規制等の制約によって、特に新入生から友達が作れないという声が多く聞かれた。このwithコロナの時代に新入生が大学で新たな人間関係を構築するために、学生生活の中心要素の一つであり、他学類の同級生・先輩との交流ができる部活・サークルに注目した(岩田 2015、蔵本・菊池 2006、佐々木ら 2018)。2020年は対面での課外活動が禁止されていたため新入生が部活・サークルに関わる機会は失われ、部活・サークル側も新入生を獲得できず団体存続が危うい状態となった。そこで我々はwithコロナ時代における新たな新歓形態を作る必要があると考えた。
目的
我々は以下の3つの目的を設けた。
①対面新歓とオンライン新歓を融合させた新歓の仕組みを考える
②新入生が部活・サークルを知ることができ、部活・サークル側も新入生を獲得できるような、両者win-winとなる具体的な新歓の方法を考える
③大学に対して新歓への対応策を提案する
データ
予備調査
①筑波大学に所属する各団体のSNS調査
②調査した団体にヒアリング
③筑波大学学生生活課学生支援チームにヒアリング
以下がその結果である。(正直な回答を引き出すために団体名を出さない条件でヒアリングしていることからここでも匿名表示とした。)
①②の結果
③学生生活課へのヒアリング結果
学生生活課学生支援チーム担当者にヒアリングの対応をいただいた。ヒアリングより得られた主な情報は以下の2点である。
- 授業と課外活動は別である
高校までは課外活動の責任は学校側にあったが大学では学生に責任があると整理されている。そのため団体内でクラスターが発生した場合、学生の責任となり学校が守ることができない。 - 大学生の感染リスクの高さ
大学生は中高生に比べ、車の利用や帰省等で行動範囲が非常に広い。そのため感染リスクが高く、対面授業・課外活動の許可が出来なかった。
本調査
本調査では調査内容の似ていた6班と合同でアンケート調査を行った。アンケートは「1年生対象」「2年生対象」「部活・サークル対象」の3種類を用いて新歓について調査した。以下が調査概要である。
- 一年生対象アンケート
有効回答数:99
質問項目:部活・サークルに加入しているか、加入した団体を知った時期、加入を決めた時期、団体について知った媒体、参加した新歓の形態・内容、加入の決め手、加入のきっかけ、課外活動の満足度、など - 二年生対象アンケート
有効回答数:57
質問項目:部活・サークルに入っているか、加入団体を知った時期・加入を決めた時期、団体を知った媒体、過去に辞めた団体があるか・またその理由、加入の決め手、課外活動の満足度・その変化など - 部活・サークル対象アンケート
有効回答数:42
質問項目:対面活動再開時期、新歓の内容、加入した一年生の数、オンライン新歓の参加人数、早期新歓の有無、現在の活動状況、新歓の回数、など
分析
予備調査の分析
- ①の調査結果をもとに、部活・サークルがコロナ禍でどのような新歓を公式に行っていたかを分析する。
- ①の調査結果に②のヒアリングの結果を加え、SNS調査だけではわからない非公式の新歓も考慮して団体の新歓活動の実態を分析する。
- 学生生活課へのヒアリング結果から、大学側と学生側の考え方の違いを分析する。
本調査の分析
【1・2年生対象アンケート比較結果の分析】
- 団体加入率を比較し、コロナウイルス感染症防止のための規制が1年生の加入率にどれほど影響を与えたのかを分析する。
- 加入した団体を知った時期を比較し、情報収集の難易度がどのように変化したのかを分析する。
- 入部・入会を決めた時期を比較し、対面新歓の存在がいかに団体の加入数に影響を与えているか分析する。
- 加入の決め手の違いを比較し、オンライン新歓と対面新歓でどのような差が出るのか分析する。また、各決め手ごとに団体に対する満足度を比較し、決め手によって満足度にどれほど違いが生じるのか分析する。
【部活・サークル対象アンケート結果の分析】
- 昨年度の加入者数と本年度の加入者数を団体構成人数ごとに比較し、コロナウイルスが加入数にどのような影響を与えたか分析する。
- オンライン新歓が実際に新歓としての効果の有無を分析する。
- 早期対面新歓を行った団体数の調査結果をもとに、感染者の有無や対面新歓の問題点などを分析する。
結果
予備調査の分析結果
- 多くの団体がオンラインによる新歓を実施していた。
- 体育会部活は体育専門学群の新入生が加入するため、新歓は行われていなかった。一方、体育会同好会は一般サークルと同様に新歓活動を行っていた。
- 一部の団体はひそかに対面での新歓を行っていたが、それによる新型コロナウイルス感染者は確認されていない。
- 学生としては早期の団体活動再開を望んでいたが、大学側としてはサークル活動の責任が学生に帰属すること、感染拡大によって学生が誹謗中傷にさらされることなどを懸念して活動再開に踏み切れないという事情があった。
本調査の分析結果
【1・2年生対象アンケートの分析結果】
下の図1、2は1、2年生それぞれの団体加入率を示したものである。団体加入率は2年生が88%であったのに対して1年生は57%と、1年生の団体加入が団体活動の規制に強く影響を受けていたことが分かった。
下の図3は1、2年生の加入した団体を知った時期を比較したものである。2年生の多くが4月までに団体を認知しているのに対し、1年生は認知した時期に幅があることがわかった。このことから、例年行われる新歓祭などでの勧誘で新入生は団体を受動的に認知することができるが、今年はそれらが中止となり、新入生が能動的に団体を探さなくてはならなかったことが原因だと考えられる。
下の図4は1、2年生の入部・入会を決めた時期を比較したものである。2年生は多くが例年対面新歓が行われる4、5月に入会を決めていることがわかる。一方で1年生の入会は6月以降も確認できる。このことから、正式な対面新歓が行われていないために団体への加入が早期に決心できなかったのではないかと考えられる。
下の図5、6は対面新歓・オンライン新歓それぞれにおける加入の決め手を比較したグラフである。対面新歓では雰囲気・人間関係を見て加入を決めている人が多い。蔵元・秀夫(2006)の研究から、スポーツ活動への参加は同世代の交流を動機としている人が多いことが分かっており、人間関係は重要な加入の決め手の一つであるといえる。オンライン新歓では活動内容や中高での経験を理由に加入を決めている人が多いことが分かった。このことから、対面での新歓のほうが団体の雰囲気が伝わりやすいのではないかと考えられる。
下の図7、8は団体活動再開前(2020年4‐9月)と再開後(10月以降)の団体活動に対する満足度の変化を1、2年生それぞれ示したものである。満足度の変化についてそれぞれカイ二乗検定を行ったところ、2年生がχ²(満足度)=24.77、p<0.01、1年生がχ²(満足度)=24.36、p<0.01が得られ、1、2年生いずれについても満足度の変化に有意性がみられた。つまり、10月以降において満足度の変化があったということになる。このことから、団体活動ができるか否かは学生の満足度に大いに影響を与えうることがわかった。岩田(2014)は、全国大学調査データ分析より、大学生の生活満足度の主要な規定要因の1つとしてサークルなどの課外活動やそれらと通じた友人との交流を指摘している。また、佐々木・山根・マルデワ・布施・藤本(2018)の研究からは大学生の幸福度は交友関係の充実度、クラブ・サークル等の課外活動への参加の有無等に影響を受けることが分かっている。完全に活動を自粛することが学生の心身の健康にとって本当に良いことなのか、今一度見直すべきなのではないだろうか。
【部活・サークル対象アンケートの分析結果】
下の図9は団体の構成人数と新入生加入人数の関係について今年度と昨年度を比較して示したものである。例年通り構成人数の多い団体には多くの1年生が加入していることがわかる。しかし、どのカテゴリも昨年度と比べると加入者数は減少している。
下の図10はオンライン新歓に参加した人数と入会者数の相関を示したグラフである。この結果、相関係数は0.521、(p<0.05)となり、正の相関があることが分かった。つまり、オンライン新歓には加入するきっかけをもたらす効果がある、ということになる。このことから、多くの団体で加入者が減少した一方で、新たにできたオンライン新歓が一定の効果があることが分かった。来年度以降オンライン新歓を活用することでより良い形の新歓ができるのではないかと示唆される。
提言
①バーチャル筑波大学
2020年度東京大学のオープンキャンパスによって実施された「バーチャル東大」(東京大学 2020)を参考にし、バーチャル空間に筑波大学を再現するものである。「高校生のための東京大学オープンキャンパス」というサイトから実際に東京大学のバーチャルオープンキャンパスに参加することが出来る。クラスター(cluster 2020)というバーチャルSNSを利用して一年生に公開する。大学内を散策できるのみでなく、各所に部活・サークル団体のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を配置し、話しかけると各団体の紹介を見れるようにすることでコロナ下での実施が難しい例年のような新歓祭に近いものを体験できるようにする。
②合同オンライン新歓
様々な団体を一度に知ることのできるオンライン新歓である。全体にてイベントの説明、各団体の紹介を行い、その後各団体のオンライン新歓に参加するという流れで新入生をオンライン上で誘導する。各団体の新歓委員から新入生を案内する委員を招集することで運営を行う。
③対面新歓の規制緩和
対面新歓の実施を許可する代わりに対象はオンライン新歓にて連絡先を交換した人のみにする。この方法により不特定多数が集まることを避け、人数の調整も可能である。さらに、その団体に本当に興味を持っている人のみが集まるため効果的な新歓を行うことができる。
レファレンス
朝日新聞(ひらく 日本の大学)オンライン授業、憤る学生 朝日新聞・河合塾共同調査https://www.asahi.com/articles/DA3S14575683.html, 2020年12月16日最終閲覧
岩田 考(2015)「大学生の生活満足度の規定要因: 全国 26 大学調査から」桃山学院大学総合研究所紀要、40(2), 67-85.
蔵本 健太・菊池 秀夫(2006)「大学生の組織スポーツへの参加動機に関する研究: 体育会運動部とスポーツサークル活動参加者の比較」中京大学体育学論叢、47(1), 37-48.
佐々木 俊一郎・山根 承子・布施 匡章・藤本 和則(2018)「大学生の幸福度と学業に対する主観的評価 アンケート調査と学業データによる分析」生活経済学研究、47, 83-99.
東京大学、高校生のための東京大学オープンキャンパス、https://www.u-tokyo.ac.jp/opendays/, 2020年12月16日最終閲覧
cluster, バーチャルSNS cluster, https://cluster.mu, 2020年12月16日最終閲覧